記者講演録)奈良県橿原文化会館の存続を求める催しで基調講演

奈良県橿原文化会館=2025年6月、橿原市北八木町3丁目、浅野詠子撮影
本稿は、「橿原文化会館存続を求める会」(福島秀行会長)が2026年7月19日、奈良県橿原市北八木町3丁目の県橿原文化会館で開いた「残そう、橿原文化会館! 総決起集会&ミニコンサート」(協賛=県吹奏楽連盟、橿原市合唱協会)において「奈良の声」記者浅野詠子が基調講演した内容を修正し再構成したものです。山下真知事は同文化会館の閉館・解体の方針を打ち出しています。
皆さん、こんにちは。昨夏に続き2回目の集いですね。前回も参加したかったのですが、先約がありました。奈良県唯一とされるヴォーリズ建築の保存運動に取り組んでいる団体の催しでの応援スピーチです。この建物の近くには文豪の志賀直哉旧居(元県管理施設、奈良市高畑町)が残っていて、ここも一時は取り壊しの計画があったのですが、保存を求めた市民らの署名は約2万筆。それを思いますと、橿原文化会館の存続を求める署名は現在、5万2000筆を超えており、声援の力強さを感じます。
橿原文化会館が誕生して40数年。ホールに向かっていくエントランスの両側に芝生の広場が広がり、70歩、80歩ほど進んで到着する雰囲気が良いですね。私なりにいろいろな角度からこの施設の魅力を発信したいと思います。昭和50年代に設計され、その時代の「ゆとりと豊かさ」をどこか感じさせる造りです。
このところ災害の激甚化という言葉を国内でよく耳にします。各地の被災地で音楽が被災者を励まし、元気づけてきたことが報告されています。
橿原文化会館は中南和の文化拠点という役割があります。南北に長い奈良県地図を2つに折ると、その中心はどこでしょうか。県北部の住民に尋ねると、橿原市かな、桜井市かな、大和高田市かな…と、そんな答えが返ってくるかもしれません。
正解は吉野郡の黒滝村です。周辺の川上村、東吉野村と共に、吉野林業の中心地帯であり、国内有数の優れた住宅用材が産出されています。吉野川を水源とする吉野川分水によって農業用水や水道水が奈良盆地に運ばれます。
広大なエリアとなる中南和の人たちが「橿原文化会館は私たちの文化活動の拠点だ」と言っています。
そんな大切な文化施設ですから、できれば県議会の全会一致で守り抜くことを期待したいものです。しかし、そうはいっても知事選の季節が巡って来ます。複数の候補が出馬することも予想されています。大事なことは、各候補に対し、橿原文化会館についての具体的な考え方を、公開質問状という形で引き出し、1社でも多くのメディアに取り上げてもらえたらありがたいと思います。
また、有権者の50分の1の署名が集まると、住民たちが自ら構築した地域の文化政策を自治体に直接請求することができます。地方自治法が盛り込んでいる権利ですね。県内有権者の数が110万人ほどですから、このたびの5万2000筆を超える署名がいかに大きなものであるか、つくづく感じます。
本日は地域文化の振興のために開かれているのに、この演者は、なんてお堅い話ばかりしているのだろうと、会場の皆さまは思われるかもしれません。
でも、自治体の文化予算は、自然に天から降ってくるものではありません。ピアノ演奏に調律が必要なように、日々、文化予算を点検しながら、私なりに橿原文化会館との結び付きを深めたいと思います。
今年2月の定例県議会で、山下真知事は、橿原文化会館を存続するとしたら、改修や長寿命化の工事で100億円かかると公表しました。
それほど驚く必要はないと思います。私はまず、100億円の積算根拠を知ろうと、県の情報公開条例を利用して、関係文書の開示請求をしています。まもなく開示されます。
仮に百歩譲って、100億円という金額が妥当なものだとしても、橿原文化会館が盤石に存続していく費用であれば、決して高くないと思います。
このところの文化ホールを取り巻く異変として、県は前知事の荒井正吾さんの時代に、県北部に小規模のホールを相次いで建設しています。奈良公園バスターミナルが約300席、天理のなら歴史芸術文化村が272席、県コンベションセンターの天平ホールは約500席と聞きます。
これらの新築ホールを検討する際、県は、県内の音楽家や演劇人にろくに意見を聞いていなかったそうです。
いま、上牧町立ペガサスホールや河合町立まほろばホール(消防法などの課題を理由に休館中)など、県内市町村の幾つもの文化ホールが経営面で苦戦しています。
もとはといえば、これらのホールが建設された1990年代、「地総債」(地域総合整備事業債、現在は中止)という借金のメニュー(縁故債)を国が考案し、この制度をどうか使ってくれと、県は市町村に対し盛んに奨励してきました。
当時は「この起債を発行して文化ホールを建設すると、後で総事業費の半分ぐらいが地方交付税として戻ってくる。有利な借金だ」と豪語する首長さえいました。
建設を誘導した以上は、経営に苦戦する市町村ホールのはしごを外さないでほしいと思います。
今の知事の代になり、音楽ホールとして奈良県最大規模の1300席を誇る橿原文化会館の廃止が突然、打ち出されたわけですが、その際も、県内の音楽家や演劇人の意見をほとんど聞いていなかったそうです。
前の知事が県北部に文化ホールを林立させたときと似ている面があるかもしれません。言葉は悪いですが、2代つづけて選挙独裁なのかと言いたくもなります。
今日、国や都道府県の河川整備計画の策定においても、住民参加を盛り込んだ改正・河川法の趣旨を反映しようとする試みが行われています。
まして文化政策の1丁目1番地は何といっても住民参加です。県はぜひ5万2000筆の署名を重んじ、橿原文化会館を存続させたいと願う人たちの声を聞き、対話を重ねてください。
橿原文化会館がなくなってしまったら、音楽家だけでなく、演劇人だって本当に困ります。この署名には音楽ファン、演劇ファンの熱い心が宿っています。
今からおよそ100年前、築地小劇場の大道具・小道具で鳴らした舞台装置家の吉田謙吉は、こんなことを随筆に書いていました。
私たちはなぜ大道具や小道具を作る仕事に打ち込んでいるのだろうと、自分自身の心に問い掛けています。それは観客に対して親切にしようとする心掛けで取り組んでいるのだ―と言っているのです。親切心というのは芸術に挑む人々の動機にもなっているのですね。
人間の幸せの感じ方というのは実に、さまざまであると思います。この橿原文化会館がこれまで、どれほど多くの人に幸せをもたらし、幸せの種を運んできたことでしょう。これからも存続し、人それぞれにとっていろいろな幸せな時間を育む場になってほしいです。皆さまの運動が進展することを願ってやみません。ご清聴ありがとうございました。
筆者情報
- ジャーナリスト浅野詠子
- 電話 090-7110-8289
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