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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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コラム)食と政治の接点/政治と憲法の風景・川上文雄…7

筆者愛用のティーポットと毎日飲んでいるそば茶。そばは北海道オホーツク海沿岸の町で栽培

筆者愛用のティーポットと毎日飲んでいるそば茶。そばは北海道オホーツク海沿岸の町で栽培

 4年前に退職してから、食事をつくる機会が増えて、調味を意識するようになりました。「塩は味見をしながら、分けて入れる」は基本中の基本。その他、良い味を出すための工夫はなんであれ調味だと思います。調味についていろいろ考えているうちに、食と政治には接点があると気づきました。

共通点は「ただしく整える」

 「理」と「調」という文字を辞書で調べると、それぞれ「ただしく整える」「ちょうどよく整える」とあります。料理・調理の基本はいろいろな要素を合わせて整えること。たとえば、合わせ調味料。手持ちのいろいろな調味料を合わせて(整えて)美味にする。あるいは、冷蔵庫のなかのあまりもので一品工夫する。これも身近にあるものを合わせることです。

 政治もいろいろな要素を正しく整えて、調和を実現することに関わる行為です。税金をいろいろな政策に投入して、国家予算はいわば「合わせ調味料」。昨今、ますます格差が拡大している日本社会は、調味のための最大の手段である税金の使い方に問題があるということでしょう。

 合わせるといっても、よくないものを混ぜ合わせてはいけない。悪質な混ぜ合わせの事例が目につきます。コロナ対策の持続化給付金事業では、広告大手の電通などが設立した一般社団法人「サービスデザイン推進協議会」が約769億円で受託し、そのうち約97%が電通に再委託され、さらに子会社に外注されていました。アベノマスクの配布もありました。

 そんなことに税金を使っている場合ではない。これは、政治権力の私物化という調味です。第6回コラムに書いたように、「12条、13条、25条と、憲法はみんなで『しあわせ』を追求しよう」という呼びかけです。その意味での公共の福祉の実現が政治の責務。公共の福祉が料理の材料です。それを悪質な調味で台無しにしている。料理の基本は「材料の持ち味を大切に考え、その持ち味が引きたつように調味をして、調味が持ち味を覆い隠さないように心掛ける」ことです(辻嘉一「料理歳時記 旬を盛る 冬 新年」新潮社、1982年、7ページ)。

質の悪い「調味」がテレビ報道に

 政治に関するテレビ報道にも、質の悪い調味が目立ちます。NHKの国会報道は審議の実像を伝えていない。そのような調味(編集)が加わっている。日本学術会議任命拒否の件。菅首相の支離滅裂答弁の処理は、さすがでした。「国会パブリックビューイング」(YouTube)を視聴して比較すると、実態を確認できます。

 質の悪い調味どころか「調味なし」の出来事も発生しています。アメリカ大統領選での大統領記者会見の報道。イギリスのBBCは「トランプ氏は証拠もなく不正投票の主張を繰り返す」と伝えた。日本のあるテレビ局は「トランプ氏が緊急会見『選挙妨害起きている』」と、発言をそのまま伝えた。調理も調味もない生肉が出てきたと言いたくなります。BBCはしっかり調味している。

 食事づくりのような生活に根ざした経験から得た言葉と感性に依拠して、政策・提言・主張がそこから逸脱していないか慎重に評価することはとても大切だと思います。老若男女だれでも、日常生活のなかでそれぞれ無理なくできる範囲で継続的におこなえば、経験と知識が我が身に刻まれていきます。政治について考えたり判断したりするとき、これほど確かで頼りになるものはないと思います。

「食」手がかりに社会全体考える

 以上のような政治について考えたり判断したりするときの言葉使いだけが「食と政治の接点」ではありません。食生活の広がりに目を向けたときに見えてくる接点があります。

 食卓に供せられる料理は、家の外の社会のさまざまな要素につながっている。目の前にある皿の上の物質にとどまりません。それぞれの食材がどこからどうやってここに来たのかを考えるだけでも、それはあきらかです。筆者が毎日飲むそば茶は、北海道オホーツク海沿岸の町、紋別郡雄武町(おうむちょう)で栽培。そして、岩手県盛岡市の社会福祉法人が障害者の就労支援事業として加工している。食材に関わる人たちの地域での生活に目をむければ、そこに政治の課題がある、ということです。使う水も奈良県の水道事業につながっていて、そこに生活と政治があります。

 社会全体に目を向けたとき、「食」の現状はどうでしょうか。「食の危機」が発生しています。「子ども食堂」はその現れの一つ(にすぎない)。生命・生存に直結することは、すべての人にとって基本的権利です。憲法25条は「健康で文化的な食生活の権利」を含むものだと思います。憲法13条の幸福追求権は「幸せな食生活を追求する権利」でもあります。うまいものを食べること(グルメ)はその一部であって、すべてではありません。(おおむね月1回更新予定)

川上文雄

かわかみ・ふみお=客員コラムニスト、元奈良教育大学教員

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