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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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コラム)学校給食費の無償化 「いのちと幸せ」を真ん中に/川上文雄のじんぐう便り…11

やもりの図柄が浅く彫られたご飯茶わん。主として夕食で使っている

やもりの図柄が浅く彫られたご飯茶わん。主として夕食で使っている

 小中学校の給食費無償化がすこしずつ進んでいます(「毎日新聞」、2023年12月3日朝刊)。すべての子育て世帯の負担軽減が目的だそうです。でも、無償化で止まらないで、別の目的・視点も加えて、もっとたくさん公的なお金を使って給食を支えてほしいと思います。

 食べることでいのちは維持され、食べることで幸せになれる。給食は「いのちと幸せ」の真ん中にある大切なもの。栄養豊富でおいしい給食を食べて幸せになる。そのために、公的なお金を使う。さらに、給食を支えるさまざまな人たちのためにも公的なお金を使う。地域の人たちに支えられている(その意味で栄養豊富な)給食を食べて、そのことで幸せに感じる。

 いや、もっと使いましょう。給食関連の予算項目を柔軟に考えて、たとえば福祉や農業などに関連づけて、そうやって地域の暮らしを豊かにしていく。これは「給食で」支援すること。給食を支える、そして給食で支える。

 350億円超の木製大屋根が話題になり跡地をカジノにする大阪万博よりも、賢いお金の使い方。それは、人々の暮らしに直結した経済効果を追求するために使うこと。学校給食は小さな入り口かもしれないけれど―でも、それだけ私たちに身近であり、私たちにも何かできるということ―大きく成長していく可能性をもっていると思います。万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」を変形して、給食で「いのち輝く地域のデザイン」としてはどうでしょうか。

無償化に限界

 そもそも無償化には限界があります。たとえば、無償化だけでは解決できない以下のような問題があります。最近の物価高騰による食材費の高騰が学校給食に悪影響を及ぼしていて、国が定める規準では中学生の場合1食あたり830キロカロリー必要なところ、それを満たすことがきわめて困難になっている(「産経新聞」、2023年12月15日インターネット配信)。

 以上の主張は「支払い能力のある世帯まで、無料化するのか」という批判とはまったく別ものです。支払い能力に関係なく、すべての人が享受すべき「いのちの維持と食べることの幸せ」という視点から「さらに公的なお金を使え」という主張です。「無償化」の項目以外での支出が必要です。

支える人たちを支援

 学校給食は、いろいろな場面で支える人たちがいる。その人たちに公的なお金が届くようにする。

 なによりもまず、給食事業者に届ける。現状は、市町村と給食事業者が長期契約を結んでいる場合、途中で契約価格を改定するのが難しいとのこと。すると、業者は食材調達コストだけでなく物流費の値上がりもあり経営が圧迫される。倒産する業者が増えている(前出「産経新聞」記事)。質・量を落とし、カロリー不足が生じることのないように、自治体は給食事業者への支払いを速やかに増やさなければなりません。無償化のあとは保護者に給食費の負担を求めることはできないので、新しい取り決めと、それを支える公的なお金の投入が必要です。

 そして、学校給食に直接かかわっておらず、すこし離れたところにいるけれど、間接的に給食を支えている人たちのこと。給食のない休業期間中の問題を念頭においています。「1食110円未満 冬休みに痩せていく子どもたち」。この文字を認定NPO「キッズドア」のサイトで見つけました。

 休業期間中の問題は、給食事業者に協力してもらってはどうでしょうか。設備を使って昼食を提供する。その際、学校側の負担を増やさないようにするためにも―学校の栄養士の方たちに献立を考えてもらうよりも―「子どもの食」支援のNPO・ボランティア団体などに参画してもらう。この件についても、しっかりとした予算で対応します。

給食で福祉・農業支援

 次は「給食で支える」です。給食関連の予算項目を柔軟に考えて支出し、私たちの地域生活を豊かにしていく。どういう考え方なのか、以下の例示が分かりやすいでしょう。「給食施設は地域のインフラでもあり、災害時の炊き出しや高齢者への配食にも有効だ」。跡見学園女子大の鳫(がん)咲子氏が述べています(前出「毎日新聞」記事)。地域の生活インフラとして、人びとのつながりを加えたいと思います。たとえば、給食事業に福祉・農業分野の人たちを呼び込んで豊かなネットワークを作る。

 1つは、それぞれの地域で障害のある人たちが農作物をつくる活動をするなかで、学校給食の世界とつながっていく。その道筋をつけるために公的なお金を使います。上記「支える人たちを支援する」に書いた活動を含めてもいいでしょう。でも、本筋は学校給食で使われる食材を提供することです。

 食材の提供に関連することでもう1つ。日本国内・地域の農業(酪農・畜産業)、漁業の人たちを大切にする。元気な日本の第一次産業に働く人たちに支えられてこその給食。輸入品にくらべて割高でも国産品を積極的に使う。給食の無償化が日本と比べてはるかに進んでいる韓国では、有機肥料を使うなど環境に優しい食材を給食に使用して、農業部門の予算が充てられているとのことです(鳫咲子、前出「毎日新聞」記事)。

 私たちにもNPOや福祉施設とのかかわり(寄付その他)を通じて、いろいろ貢献できることがありそうです。なお、各地域・自治体個性はあっていいけれど、自治体格差はのぞましくない。格差是正は国の責任です。「いのちと幸せ」に関わる学校給食にもっと公的なお金を使うよう、強く求めていいでしょう。「生命…及び幸福追求に対する国民の権利については…国政の上で、最大限の尊重を必要とする」(憲法13条)。

【追伸】

 「食べることの幸せ」については「政治と憲法の風景」(旧連載)第9回にも書きました。水野晃男さんがボランティアで週に1度開店するたこ焼きの屋台。集まる子どもたちへの水野さんのこまやかな配慮によって、ただ食べるだけではない幸せが生まれます。

 給食費無償化では、韓国が日本よりもはるか先を行っています。以下の2つから情報を得られます。

(1)
特定非営利活動法人・アジア太平洋資料センター(PARC)。「希望の給食―食と農がつむぐ自治と民主主義」https://www.kyu-shoku.net/hwaseong
(2)
家族農林魚業 プラットフォーム・ジャパン(FFPJ)。FFPJオンライン連続講座第16回「韓国の無償給食はなぜ実現できることになったのか」https://www.ffpj.org/blog/20220725

(おおむね月1度の更新予定)

川上文雄

 かわかみ・ふみお=奈良教育大学元教員、奈良市の神功(じんぐう)地区に1995年から在住

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