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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一
浅野善一

基金損失巡る住民訴訟 県市町村総合事務組合の弁護士報酬、1割引き下げ 監査委員「不当に高額」、再交渉勧告受け

 奈良県市町村総合事務組合(管理者、更谷慈禧・十津川村長)が20億円の基金損失を巡る住民訴訟で勝訴し、訴訟代理人を委託した弁護士への成功報酬として、2015年度予算に1512万円を計上したことに対し、住民監査請求を受けた組合監査委員が「不当に高額であるとの印象は否めない」と指摘し、弁護士と再交渉するよう勧告していた問題で、同組合は2日までに、弁護士との間で額の引き下げについて合意、減額した1285万2000円を支払った。組合事務局への取材で分かった。

 支払いは2016年5月19日付。組合事務局は、交渉を重ね引き下げに努めたとしているが、減額は1割にとどまり、高額の印象を拭うまでには至らなかった。

 住民訴訟において、被告となる地方公共団体側の弁護士費用が高額化すれば、地方公共団体の負担が大きくなり、住民が訴訟をためらったり、公費の支出増を理由に訴訟が敵視されたりする事態を招きかねない。

着手金、成功報酬合わせ2020万円

 組合は、14年3月、弁護士に着手金735万円(税込み)を支払っており、弁護士からの「成功報酬は着手金の2倍が相場」との請求に基づいて、1512万円(税込み)を計上していた。弁護士との交渉では、着手金の税抜き額700万円を、90%の630万円に見直し、成功報酬をこれの倍の1260万円とすることで合意した。実際の支払額は、見直しによる着手金の差額70万円を差し引いた1190万円に消費税を加えた1285万2000円となった。

 着手金と成功報酬を合わせた支払額(税込み)は、当初予定の2247万円に対し、226万8000円減の2020万2000円になった。

組合事務局「3回以上交渉、相応の報酬」

 組合事務局は弁護士に支払った成功報酬の金額について、「弁護士とは3回以上交渉した」と引き下げに努めた結果であることを強調し、「訴訟に当たっては専門的な調査をしなければならず、弁護士の能力や勝訴に対する相応の報酬だと考えている」と説明した。監査委員への報告は行ったという。

 同住民訴訟は、退職手当基金の運用で投機性が指摘されている仕組債を購入、20億6590万円の損失が生じたことに対し、組合が当時の管理者らへの損害賠償請求を怠っていることは違法との確認を求めたもの。

 住民訴訟の原告も住民監査請求の請求者も、組合を構成する市町村の住民である記者自身。記者は、取材で明らかになった基金損失問題を「奈良の声」で伝えてきたが、組合に経緯や責任の所在について調査し、結果を公表するような取り組みが見られなかったため、13年3月、自ら提訴した。奈良地裁は14年5月の判決で、請求を却下または棄却した。組合は弁護士に対し、判決までに着手金を支払い、勝訴判決を受けて成功報酬を支払おうとしていた。

住民訴訟、経済的利益算定不能の考え方も

 弁護士の着手金や成功報酬は通常、裁判で確保しようとする経済的利益の額を基に算定される。組合の弁護士は、記者が求めた損害賠償請求額の20億円を経済的利益として報酬を算定、組合に請求していた。一方で、地方公共団体が損害回復を図ることで住民全体が利益を受ける住民訴訟の場合、着手金算定の根拠となる経済的利益については、算定不能とする考え方がある。

 同時期に、奈良市の西ふれあい広場計画を巡る住民訴訟が進行中で、原告が求める損害賠償請求額はほぼ同規模の21億5503万円に上ったが、市の弁護士の着手金ははるかに少ない90万円余りだった。算定不能な経済的利益の一般的な基準は800万円で、市の弁護士は着手金の算定に当たっては、訴訟の損害賠償請求額ではなく、この基準を採用していた。

 記者は14年9月、組合が支払った着手金について、損害賠償請求の勧告を求める住民監査請求を行った。監査委員は同年11月、請求を棄却する監査結果を公表したが、付記した意見で「かなり高額との印象は否定できない」と指摘、組合に対し「成功報酬支払いの協議では慎重な交渉を行うべき」と求めた。

 15年2月、成功報酬1512万円が計上された15年度予算が組合議会で可決された。監査委員が「かなり高額」と指摘した着手金を前提に算定された額だった。記者は、予算を執行しないよう管理者に勧告することを求める住民監査請求を行った。

 監査委員は同年5月、監査結果を公表、「(14年11月の監査結果で)組合に過大な負担が生じないよう慎重な交渉を行うべきと求めたにもかかわらず、かなり高額との印象を持っている着手金の2倍に相当する成功報酬について、(組合から)合理的な説明を得られなかった」と述べ、「違法とまでは言えないものの不当に高額であるとの印象は否めない。本件予算を執行するに当たっては財務会計上注意が必要」と指摘、弁護士との再交渉を勧告していた。

奈良市訴訟、損害賠償請求額が同規模で288万円

 奈良市の西ふれあい広場計画を巡る住民訴訟は、一、二審とも訴えは認められず、原告は現在、最高裁で市と争っている。市行政経営課によると、一、二審を合わせて、同市が市の弁護士に支払った着手金、成功報酬は計288万9000円。

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