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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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ジャーナリスト浅野詠子

視点)西奈良県民センター跡地の売却方針で流域治水の看板は 秋篠川の河川整備工事計画に遅れ

秋篠川の河川整備工事の一環で行われた河床ボーリング=2022年1月31日、奈良市西ノ京町

秋篠川の河川整備工事の一環で行われた河床ボーリング=2022年1月31日、奈良市西ノ京町

 奈良市登美ケ丘2丁目の西奈良県民センター跡地(県有地、3000平方メートル)の売却に向けた県立大渕池公園の都市計画決定区域変更案を県は公表したが、下流の同市中山町、西ノ京町などの秋篠川では、洪水対策の河川整備工事に遅れが出ている。近隣住民が望むように県有地として残せば、公園や緑地などの選択肢が広がる。これにより、大和川流域の治水強化を看板にする県施策の啓発にも一役買うだろう。

 西ノ京町の同川では、川底を掘り下げて流下能力を高める県工事が行われている。工区のうち秋篠川と乾川の合流地点から上流の右京橋までの260メートルは2023年までに整備を完了する計画だったが、現在までの進捗(しんちょく)状況はまだ100メートル程度にすぎない。中山町の同川約200メートルの整備も、井堰(いせき)の付け替え工事のため進んでいない。

 さらに工事予定地の右京橋付近の川底から地下約1メートルの地点に農業用水路が通っている可能性が高まり、県奈良土木事務所は昨年12月から今年1月にかけて、現場周辺の9カ所で河床ボーリングを実施、深さ20メートルの地質、地盤などを詳しく調べた。今後、水路の付け替え工事が検討されており、工期は伸びるもようだ。

 秋篠川の河川整備工事は、10年に1度の洪水に対応する規模を目指して行われている。それ以上の豪雨に対応した河床掘削は、下流の大和川亀の瀬の狭窄(きょうさく)部分の流下能力が十分確保されていないため採用していない。

 このため秋篠川流域では総合治水対策の一環として県は2001年度、大渕池の池底を掘り下げて7万4000トンの洪水対策容量を確保した。奈良市は2000年から2003年にかけ、同市あやめ池南9丁目の蛙股池の水位を低下させる洪水吐けスリットを施工して5万7500トンの対策容量を確保している。また、流域の県立高校2カ所、市立中学校3カ所の校庭に雨水を貯留する設備工事を県と奈良市とが分担してきた。

 こうした中、豪雨シーズンになると年に2、3回程度、氾濫注意水位の警報が秋篠川の観測地点から発令される傾向が見られる。県はこれを重く見て2018年、県河川整備委員会において、秋篠川の上・中流部に関しては、80年代以降に開発された地点を図示し、事業決定しているが進んでいない河川工事の継続の必要性を訴えた。たとえ規模は小さくても、売却予定の県有地は、こうした開発図の仲間入りをすることになる。

 県は2018年、防災調整池が必要となる開発面積を3000平方メートルから1000平方メートルに引き下げ、罰則も強化した。売却予定の県有地は、都市計画上は最も建築規制が厳しい「第一種低層住居瀬専用地域」であり、このまま推移すると宅地開発がなされる公算だ。

 田畑をはじめ緑地やため池などの地域資源は、流域治水の縁の下の力持ちとして知られる。秋篠川は世界遺産・古都奈良の文化財、薬師寺の緩衝地帯(バッファゾーン)に位置し、景観との調和、多自然型護岸の形成など課題は多い。

 西奈良県民センター跡地を整理試算に指定する段階で、県は流域治水について勘案したのかどうか、「奈良の声」は19日、県ファシリテイマネジメント推進室に尋ねたが「即答できない。改めて回答する」と話した。

県「跡地は雨水貯留地に指定されていない」

 県ファシリテイマネジメント推進室は22日、「西奈良県民センター跡地は、大和川流域治水対策の雨水貯留地などに指定されておらず、売却しても下流の治水に影響はないものと考えられる」と回答した。 関連記事へ

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