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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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浅野善一

議長が市長の3つの諮問機関の会長 奈良県香芝市、意見の偏りや二元代表制の形骸化懸念 在り方に統一的な決まりなし

香芝市公有財産有効活用検討会議と市政運営検証会議の設置要綱

香芝市公有財産有効活用検討会議と市政運営検証会議の設置要綱

 奈良県香芝市議会の議長が市長の3つの諮問機関の会長に就任している。いずれの機関も同議長が設置を提案した。市長の意思決定に関わる意見の偏りや、議会と執行機関が対峙(たいじ)する二元代表制の形骸化が懸念される。問題視する議員もいるが、3つの機関のうち2つは議会の議決が不要な要綱の制定のみで設置され、設置の是非を議論する機会がなかった。

 自治体の中には、諮問機関の設置や議員の委員就任、同一人物の複数機関への委員就任など、在り方について統一的な決まりを設けているところもある。

 議長は当選4回の川田裕議員(無所属の会代表)で、現任期当初の2021年4月から議長を務めている。3つの諮問機関は市公有財産有効活用検討会議、市政運営検証会議、市防災会議分科会。いずれも市の各部門のトップが構成員で、市上層部が協議をしているのに等しいが、その先頭に川田議長が立ち、指揮を執っている。

【川田議長が会長を務める諮問機関】

◆公有財産有効活用検討会議
設置/2022年7月
位置付け/懇話会のようなもの
委員/市職員11人(副市長と部局長10人)、議員3人(議長含む)
会長/議長
副会長/副市長

◆市政運営検証会議
設置/2023年1月
位置付け/懇話会のようなもの
委員/市職員4人(副市長、部局長3人)、議員2人(正副議長)
会長/議長
副会長/副市長

◆防災会議分科会
設置/2022年8月
位置付け/付属機関
委員/市職員10人(部局長)、議長
会長/議長
副会長/市危機管理監

 自治体の諮問機関には、執行機関への答申などを目的とした付属機関と、意見交換を目的とした懇話会などの付属機関に準ずる機関がある。付属機関は地方自治法に規定があり、設置は議会の議決が必要。懇話会などは同規定の対象にならない。市は、公有財産有効活用検討会議と市政運営検証会議を「懇話会のようなもの」と位置付け、所掌事項などを定めた設置要綱の制定のみで設置した。

 一方、分科会が設置された防災会議は災害基本対策法に基づく機関で、市付属機関設置条例で市の付属機関の一つに位置付けられている。会長は福岡憲宏市長で、市防災会議条例で所掌事務などを定めている。市危機管理課によると、分科会を設置するのにこれら条例の改正は不要という。

公有財産有効活用検討会議

 公有財産有効活用検討会議が設置されたのは昨年7月。川田議長が前月6月の市議会定例会で会派代表として質問に臨んだ際、市の公共施設管理計画全体が財政面で整合性が取れていないと批判、原因は縦割り行政にあるとして「プロジェクトチームを設置していただきたい」と求めた。市がこれに応えた。

 しかし、いつ設置されたのかや設置要綱、委員名、審議内容が明らかになったのは、設置から1年近くたった今年5月。1人の市民の開示請求を受けて、市が検討会議の会議録や市長に提出した中間報告を開示した。会議は非公開で行われている。

 委員は、議会事務局長を除く市の部局長ら11人と市議会議員3人の計14人。川田議長の会長就任は委員による互選で決まった。副会長には堀本武史副市長が就任した。

 扱う案件は正副会長に一任。川田議長がそれまで議会で取り上げるなどしてきた問題が選ばれた。第1回会議があった2022年7月15日、川田議長はツイッターに「会長の互選では、川田が会長に就任。本日は、今後の会議の進め方、優先順位、調査事項等の方針を伝え承認頂いた」と投稿した。

 市は検討会議の位置付けについて「意見交換の場」と説明するが、会議録には、検討対象となった4つの案件それぞれについて分科会で審議、全体会議で了承という流れで方針が決定されていったことが記録されている。

 案件の一つ、近鉄五位堂駅前の市営駐車場に使用している土地の新たな運用方法の検討を例にとると、2022年9月14日の第2回分科会の会議録に「複合施設の建設に向けて、管財課において具体的に検討を進め、調査・設計に係る予算措置について、令和4(2022)年12月議会に上程するよう進める」との方針が示されている。

 また、川田会長名で今年2月14日付で福岡市長に提出された中間報告では、もう一つの検討案件「中学校区を基にした小学校再編計画」について、「再編等に関する基本方針を教育委員会議に諮るとともに、R(令和)5年3月議会に議案上程する」との方針が示された。

 議会、執行機関それぞれの権限を定めた地方自治法で、予算の調整や議会への議案提出は市長の担任事務に属する。いずれの案件も検討会議の検討結果に沿って議案が議会に提出され、委員の議員も賛成し可決された。

委員の選出

 検討会議委員の議員枠の川田議長ら3人がどのように選出されたのか明らかになっていない。設置要綱の委員の規定には単に「市議会議員」とあるだけで、規定上は全議員に委員になる資格がある。しかし、誰を委員として選出するか議会全体に諮られることはなかった。

 議員の選任について市企画部長は「議長に助言をいただいた」としている。委員の選出について川田議長に議会事務局を通じて文書で質問したが、回答はなかった。中間報告に盛り込まれた小学校再編や公立幼稚園・保育所再編の基本方針は今年3月の市議会定例会で可決されたが、採決では反対意見もあった。誰が委員を務めるかで検討会議の議論は異なっていた。

 2017年に編集された香芝市議会の「先例・事例・申し合わせ事項集」(現在は無効扱いになっている)には、市が参加している一部事務組合の議会議員などの選出方法を示した項目があり、過去に広域連合の議員選出で選挙を実施した例が挙げられている。

 川田議長の提案で2021年4月に制定された同市議会基本条例の基本方針は、議長に対し「中立公正な職務遂行に努めるとともに、民主的かつ効率的な議会運営を行うこと」を求めている。

市政運営検証会議

 市政運営検証会議が設置されたのは今年1月。川田議長が前月12月の市議会総務建設委員会で委員の一人として質問、市の人員体制についてこの10年間に民生、教育の人員が膨らみ、一般行政事務の人員を圧迫、事務執行に支障が出ているなどと述べて検証の必要性を訴えた。同議長は「背景に一番詳しいのは僕。失われた10年検証委員会をつくって僕も入れて」と求めていた。

 検証会議についても、いつ設置されたのかや委員名、審議内容は明らかになっていなかった。「奈良の声」は今年8月、市への開示請求で設置要綱や委員名簿、この間の会議録を入手した。

 設置要綱などによると、同会議はこの10年間の市政運営の内容、効果、課題を検証し、対応策を協議、最終的に検証報告書を作成し、市長に提出するという。

 委員については「市議会議員および市職員のうちから市長が指名する者」とされ、6人が指名された。内訳は、職員が副市長と部局長の計4人、議員が川田議長と副議長の2人。川田議長の会長就任は委員による互選で決まった。副会長には堀本副市長が就任した。議員の誰を委員に指名するかについて、議会全体に諮られることはなかった。

 会議は、文書を開示請求した8月15日までに2回開かれた。検証会議の目的や進め方が話し合われた。会議録によると「過去に決まっていた改革が実施されなかったり、途中で取りやめられたりして、本来は得られたはずの効果が得られておらず、特に市の人員体制に影響を及ぼしている。適正な形に戻すべく検証を行う」とし、主要な事業・課題を抽出して検証するという。会議の内容は非公開と決めた。

 この10年間に香芝市政を担ったのは、吉田弘明前市長(2期8年)と現在1期目の福岡市長。川田議長は2012年の市長選に立候補し、吉田前市長に破れている。

防災会議分科会

 防災会議の分科会が設置されたのは昨年8月。8年ぶりに開かれた会議で、委員の一人である川田議長の分科会設置を求める動議が採択された。この2カ月前の6月、市議会定例会での川田議長の代表質問で、防災会議が2014年度を最期に開かれていなかったことが明らかになった。災害対策基本法の「市町村防災会議は毎年、地域防災計画に検討を加え、必要があるときは修正しなければならない」との規定に反していた。

 防災会議全体の委員は30人で、市防災会議条例に基づき市職員や市議会議長のほか、県や県警、県広域消防組合、消防団などの関係者が指名されている。川田議長は市議会議長として委員の一人に指名されている。一方、分科会委員は11人で、川田議長と市の部局長10人から成る。川田議長の会長就任は互選で決まった。

 分科会を設置しなければならないような従来と異なる事情があるのか、市危機管理課長に取材した。同課長は「市地域防災計画に検討を加え、修正する作業が長年できていなかった。多岐にわたって細かな作業がある。すべての委員に毎回集まってもらうのは負担。分科会というコンパクトな形で進めていくことにした」と説明した。

 分科会は議長と市職員だけで構成される。地域防災計画の検討過程に市外部の委員が関与できなくなることは防災会議の形骸化につながらないか。危機管理課長は「分科会設置は全体会議に諮って全会一致だった。反対はなかった。関係部署でまとめてから全体会議に諮る」と述べた。

他自治体の例

 県内自治体では、少なくとも県と奈良市が諮問機関の委員を選任する際に同一人物の複数機関への委員就任を制限する決まりを設けている。

 県は2018年4月、「付属機関等の設置および開催・運営に関する要綱」を施行、「同一人を重複して委員に選任しようとする場合は原則として4機関までとする」とした。「専門的知識を有する者が他にいない場合はこの限りでない」として5機関以上の例外も認めているが、そうした場合は所管課に選任理由の提示を求めている。

 同課は「重複就任」を制限する理由について「県の施策に反映するに当たって意見の偏りを避けるため」と「奈良の声」に説明した。

 奈良市は2015年2月、「市付属機関および懇談会等の設置および運営に関する指針」を制定、「重複就任の制限を図るために複数の付属機関において同一人を重複して委員に選任しようとする場合は、原則として3機関までとする」とした。市総務課は制限の理由について「委員に偏りがあってはいけない」と述べた。

 群馬県太田市が2005年に施行した「審議会等の取り扱いに関する指針」は、付属機関と懇話会などの準付属機関を分類・定義し、新規に設置する場合は市行革推進課と事前協議を行うこと、と定めている。

 同指針の「付属機関の新規設置における判断基準」によると、「組織としての意思により、重要な市の施策に対し、執行機関に答申、提言、報告を行うもの」は「付属機関たる性質を持つと解せられる」としている。また「準付属機関の設置・運用における注意事項」として、「活動の実態が、明らかに審議等である場合」は「活動の見直しを行うか、付属機関への位置付けの変更を検討すること」としている。

 委員の選任では重複就任の上限を示し、議員については「議決機関と執行機関は相互にけん制・均衡を図るという地方自治制度上の観点から、法令に定めがある場合を除き、選任しないよう努める」としている。

管理は所管課ごと

 一方、香芝市では、付属機関や懇話会などの管理は所管課ごとに行われており、市企画政策課長は「奈良の声」の取材に対し、委員の重複就任は確認したことがなく、制限するルールもないとした。

 今年9月の市議会定例会一般質問で、公有財産有効活用検討会議への議員の参加を巡って、中井政友議員(共産)が「執行機関と議決機関の権能の独立の趣旨から考えると、際限なくこれを認めることは適切でないのでは」と疑問を呈した。これに対し市企画部長は「十分配慮した中で実施している」と答弁した。

 中井議員によると、公有財産有効活用検討会議と市政運営検証会議のいずれについても、議会から委員が選出されているにもかかわらず、会議が設置されたことについて議長から説明はなく、設置後の活動についても報告はないという。

 また、議長の経験もある中村良路議員(無所属)は川田議長が3つの諮問機関の会長に就任していることについて、取材に対し「議長自身が設置を提案して委員に入っている。議会が行政に直接関与してよいものなのか。議会での議論はどうなるのか。事前に自分が分かっているものが議会に提案され、それが果たして市民の財産(公有財産)を守ることになるのか疑問に感じる」と批判した。

 2022年4月に行われた同市議会議長選では、川田議長は16票中、10票を獲得した。中井、中村両議員は議会では少数派に属している。

 福岡市長は取材に対し「議長の会長職はこだわるほどのことではない。公有財産有効活用検討会から出てきたものを、そのまま市長の方針にしているわけではない。検証会議は前市政の検証であって意見が偏るということはない。会長は中立。会長職は会議で諮って決めており特に問題はない」と述べた。

 川田議長に対し議会事務局を通じ文書で次の質問をした。

1)同一人物が市の複数の会議の会長を務めることは、市政に反映される意見の偏りを招く恐れがある。避けるべきではないか。
2)付属機関または付属機関に準じる会議の委員の重複就任、特に議長、議員の委員就任または重複就任を点検、制限する決まりが必要ではないか。

 川田議長は議会事務局を通じて「解釈の相違があるので(質問には)お答えできない」と回答した。 関連記事へ

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