奈良市の生活保護・通院交通費却下の取り消し求める訴訟 ケース記録に長期の空白 1週間の入院も記載なく
生活保護の通院交通費の支給を誤った説明で受けられなかったとして、奈良市に過去5年分の支給申請をして却下された市内の男性が、市を相手取り却下処分の取り消しなどを求めて奈良地裁に起こした訴訟の裁判で、市が男性について作成した生活保護に関するケース記録票に、長期の空白期間があることが分かった。
男性が市個人情報保護条例に基づき、自身のケース記録票を開示請求したところ、交付された複写に長期の空白期間があった。男性は不自然として地裁に対し、記録票の証拠保全を申し立てた。同市役所で代理人弁護士の立ち会いの下、裁判官が原本の証拠調べを実施したが、空白期間の記録票は確認できなかった。
男性は病気治療のため、この空白期間に手術を受けて、1週間入院。その後、経過観察などのため、しばしば通院しなければならなくなった。裁判では、交通費を支出してもらえないのかと、担当の市職員に相談したが、「出せない」の返答だったと訴え、一方の市は、当時の職員に交通費について相談を受けたり説明したりした「記憶はない」と主張、争点となっている。ケース記録票があれば、こうした相談の有無を確認できる可能性があるとみられた。
男性は同市の橋本重之さん(82)。証拠保全の申し立てによると、橋本さんが生活保護を利用していた2006年11月から15年3月までのケース記録票を見ると、08年は記載が1回しかない。07年12月3日から08年10月20日までの10カ月余り、記載がない。一方、このほかの年は期間が短かった初年の06年を除けば、多い年で11回、少ない年でも4回の記載があった。前年の07年は10回あった。
ケース記録票には通常、保護の申請理由や生活歴、生活環境、世帯員の状況、住宅の状況、資産の状況、扶養義務者の状況、収入の状況、保護の決定内容、援助方針などが随時、記録される。橋本さん側は、厚生労働省の生活保護法監査事務施行実施要綱は、不正受給を防ぐため、援助方針について「ケースの状況等に変動がない場合であっても年1回以上見直すこと」を要求しているとする。
しかし、08年3月の1週間の入院は記載がなく、一方で、前後の07年や09年の記録票には1日程度の入院でも記載がある。橋本さん側は、入通院は医療費支払いの関係で病院から市に連絡が入るため記載があるはずで、この空白期間にも記録票原本が存在すると考えるべきであると主張。隠匿や改ざんを避けるため、証拠保全が必要とした。
証拠保全を申し立てたのはことし6月。地裁は、市が記録票の全部開示を決定して開示していることなどから、証拠保全の必要性は認められないとして却下したが、橋本さん側が抗告、大阪高裁は主張を認め、地裁に申し立てを差し戻した。これを受け地裁は11月2日、証拠保全を決定した。証拠調べは同月7日に行われた。
証拠調べに立ち会った、橋本さんの代理人の一人、古川雅朗弁護士は取材に対し、「保全を求めた期間のケース記録票は発見できなかった。記録票は通し番号やページなしでファイルにとじてあった。通し番号やページを付けて、抜け落ちや抜き取りが生じにくいような形で記録されるべき」と話した。
また、橋本さんの訴訟を支援している県生活と健康を守る会連合会の一人は「ケース記録票の作成がきちんと行われていなかったのではないか」と述べた。【続報へ】