生活保護・通院交通費めぐる訴訟、奈良市は争う姿勢 遡及支給の申請却下、男性が取り消し求める
奈良市が市内の生活保護利用者の男性に対し、通院交通費を5年前にさかのぼって支給すると通知しながら、その後一転して申請を却下したことに対し、男性が市を相手取り、却下処分の取り消しや交通費支給の義務付け、国家賠償法に基づく損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論(木太伸広裁判長)が19日、奈良地裁であった。
市側は、市に過失はないなどの主張を展開、「原告の請求の棄却を求める」として、争う姿勢を示した。
男性は橋本重之さん(81)。訴えによると、市は、通院交通費支給の周知徹底を求める厚生労働省の2010年3月の通知があるにもかかわらず、14年10月まで保護のしおりなどによる周知を行っていなかった。
同通知は、08年4月から周知が行われるまでの間の交通費について、事後申請による遡及(そきゅう)支給を認めるとしていたことから、橋本さんは14年7月、過去5年分の交通費を申請。市も支給を約束したが、厚労省への照会に対する回答が「2カ月のみ遡及可能」であったため、15年3月、申請を却下した。
この日の市側の答弁書によると、却下処分は適法と主張。厚労省の通知では遡及期間は明らかでなく、従って、遡及も合理的期間に限られるとした。生活保護制度の指針となる生活保護手帳別冊問答集を例に、生活保護を直接的な生活困窮に対する給付と考える限り、2カ月を超えて遡及することは妥当でないと述べた。
また、市が対応を一転させたことについては、厚労省の指示、見解に従ったもので、恣意(しい)的に変更したものではなく、原告に期待を抱かせたとしても信義則に反するとはいえないとした。
国家賠償請求に対しては、市に違反はないと主張。通院交通費制度の周知義務は保護実施機関に対する一般的な義務であり、市が周知を行わなかったことが直ちに原告の申請権を違法に侵害したとはいえないと述べた。
また、市が原告に対し、通院交通費は交通費に困窮している場合でないと支給されないと回答したことについては、当然のことを述べたものとした。いったんは支給を通知したことについても、結果的に誤った教示であったとしても、厚労省の10年3月の通知に依拠したもので、市に過失はないとした。
橋本さんも法廷で意見陳述。「現在は生活保護を受給しておりませんが、生活保護を受給している人の中で通院交通費が申請できることを知っている人は何人いるでしょうか。私と同じような不当な扱いを受けることのないよう、福祉行政の体質、在り方を根本的に改善、是正していただきたいと心からお願いいたします」と、裁判官に訴えた。【続報へ】