奈良市の生活保護・通院交通費訴訟 市、「同一病院に月4回」の説明したと認める 原告「支給要件になく申請権の侵害」
生活保護の通院交通費の支給を誤った説明で受けられなかったとして、奈良市に過去5年分の支給申請をして却下された市内の男性が、市を相手取り却下処分の取り消しなどを求めて奈良地裁に起こした訴訟の裁判で、市側は30日までに、男性が職員から「同一病院に月4回以上通院する場合でないと支給できない」と説明を受けたと主張していた点について、認める陳述をした。裁判の当初は否認していた。
通院交通費は医療扶助の一つで、必要最小限度の実費が通院の頻度や額の大小に関係なく支給される。男性側は、職員が支給要件にはない説明をしたことについて、申請権の侵害と指摘している。
男性は同市の橋本重之さん(81)。訴えによると、生活保護を利用していた橋本さんは、病気治療のため2007年ごろから、定期的に通院。交通費は支給されないのか、何度も担当の職員(ケースワーカー)に相談したが、いずれも「出せない」の返答だった。13年夏ごろ、あらためて相談したところ、「1回1000円以上で、同一病院に月4回以上通院する場合でないと出せない」「申請書は渡せない」と説明を受けたという。
これに対し市側は、ことし1月19日の第1回口頭弁論で提出した答弁書で、13年夏ごろのやりとりについて、「通院交通費は、通院に困窮している場合でないと支給されない趣旨の回答をしたことは認める」としたが、「発言内容は否認する」と反論した。それ以前は不明とした。
男性側は回答を受けて、市側に対し、事実関係について認否を明らかにするとともに、男性と職員の間でどのようなやりとりがあったのか、発言内容を詳細に述べるよう、2月24日付の書面で求めた。
市側は3月29日付の書面で、「男性からの電話相談に対し、同一病院への通院回数が4回ということは言ったかもしれない」と、今度は発言内容の一部を認めた。「1回1000円以上」については「言った記憶がない」とした。それ以前については、職員に、相談を受けたり説明したりした「記憶はない」とした。同書面によると、この間、6人の職員が入れ替わり、橋本さんを担当していた。
男性側は今月24日の第3回口頭弁論で提出した書面で、「生活保護法による医療扶助の運営要領」には、交通費について「同一病院へ頻繁に通院していることや、通院費に困窮している場合などという要件は定められていない」と主張した。
奈良市の通院交通費支給をめぐっては、当時、ほかの生活保護利用者にも同様の説明をしていた可能性がある。橋本さんを支援する市内の病院の職員によると、別の病院の職員ら2人から、それぞれ「月4回と言われた記憶がある」「月4回、1回1000円以上と言われた」という話を聞いたという。
また、「奈良生活と健康を守る会」によると、13年10月、橋本さんへの交通費支給を求めて市保護課と交渉した際、この独自の要件について、内規などの根拠があるのか尋ねたところ、ないとの回答だったという。
市保護課に対し、こうした要件について取材したが、「係争中のため、お答えできない」とした。【続報へ】