生活保護・通院交通費遡及、奈良市の申請却下に不服 男性が県に審査請求
奈良市が市内の生活保護利用者の男性に対し、通院交通費を5年前にさかのぼって支給すると通知しながら、その後一転して申請を却下した問題で、男性は8日までに、行政不服審査法などに基づき、市が行った却下処分の取り消しを求める審査請求を、審査庁である奈良県知事に対し行った。
男性は同市の橋本重之さん(80)。審査請求は5月20日付、知事は50日以内に裁決をしなければならない。
審査請求書などによると、橋本さんは2006年から生活保護の利用を始めた。病気治療で定期的に通院をしていたため、当時の市のケースワーカーに交通費の支給を受けられないか相談したが、「出せない」の返答だった。
橋本さんが13年10月、市民団体「奈良県生活と健康を守る会」の支援を得て、あらためて交通費の支給を求めると、市は前月にさかのぼり同年9月以降の交通費を支給した。さらに、それ以前についても、通院回数を確認できるレセプト(診療報酬請求明細書)の保存期間の範囲で支給すると、14年7月、文書で橋本さんに伝えた。レセプトの保存期間は通常5年。橋本さんは申請書を提出した。
ところが、市はことし3月27日付で申請を却下した。市が支給に当たって厚生労働省に照会したところ、生活保護制度において、事後申請による保護費の遡及支給が認められるのは当月と前月までとの回答だったためと説明した。交通費の支給は事前申請が原則になっている。
審査請求書はこれに対し、生活保護制度では必要最小限度の通院交通費が認められているにもかかわらず、市のケースワーカーは橋本さんに対し、「制度はない」などの虚偽の説明をしていたとする。また、市は交通費の支給に関して、14年11月ごろまで、文書による案内など周知を行っていなかったとする。こうしたことが原因で、申請の機会を逸していた橋本さんに何ら過失はないなどとし、市の却下処分は違法としている。