料金にどう影響 市町村水道、経営状態に大きな差 奈良・県域一体化
「おいしい生駒の水」をアピールする市の水飲み場=2020年7月7日、奈良県生駒市の近鉄生駒駅北口再開発広場
奈良県が統合を呼び掛けている県内28市町村の水道事業の負債総額は約439億7500万円あり、県営水道の負債約281億8900万円を加えると、統合後の企業団スタート時の負債はおよそ721億円に上る。市町村間の負債残高や自己資本構成比率の差は著しく、現行の水道料金も、最高値と最安値の市町村を比べると2倍以上の開きがある。統合後の料金はどうなるのか、県の対応が注目される。 表の後に記事の続き
市町村 | 住民1人当たり の負債額(円) |
負債総額(円) | 自己資本 構成比率(%) |
水道料金 (円) |
---|---|---|---|---|
吉野町 | 38万191 | 25億3739万 | 57 | 4158 |
下市町 | 37万9626 | 19億5697万 | 50 | 4600 |
宇陀市 | 12万3332 | 36億575万 | 71 | 3736 |
明日香村 | 11万8455 | 6億3243万 | 73 | 3940 |
五條市 | 10万2649 | 29億9336万 | 76 | 3369 |
御所市 | 8万8796 | 22億6048万 | 66 | 3765 |
大淀町 | 7万2786 | 12億5039万 | 83 | 2268 |
田原本町 | 4万8997 | 15億2589万 | 72 | 3880 |
斑鳩町 | 4万8227 | 13億2114万 | 75 | 3704 |
奈良市 | 4万3184 | 153億4567万 | 76 | 2678 |
三郷町 | 4万1322 | 9億6616万 | 78 | 3618 |
川西町 | 3万6802 | 3億1002万 | 74 | 3900 |
大和高田市 | 3万2648 | 20億4017万 | 71 | 4363 |
天理市 | 3万1097 | 20億5063万 | 79 | 3380 |
平群町 | 2万7358 | 5億235万 | 86 | 3888 |
桜井市 | 2万3323 | 12億9610万 | 84 | 3412 |
三宅町 | 2万3223 | 1億5619万 | 86 | 3780 |
河合町 | 2万1783 | 3億7835万 | 82 | 3490 |
橿原市 | 1万6576 | 20億2937万 | 83 | 3693 |
高取町 | 1万1626 | 8001万 | 92 | 4950 |
葛城市 | 9012 | 3億3371万 | 93 | 2260 |
安堵町 | 6161 | 4533万 | 95 | 3730 |
王寺町 | 4905 | 1億1642万 | 95 | 3670 |
上牧町 | 3424 | 7358万 | 92 | 3610 |
香芝市 | 1634 | 1億2837万 | 94 | 3024 |
広陵町 | 334 | 1124万 | 95 | 3100 |
大和郡山市 | 324 | 2772万 | 93 | 2938 |
生駒市 | 0 | 0 | 98 | 3149 |
本表は、県が公表している「県内地方公営企業の決算の概要」(2018年度)と県推計人口年報(2018年10月1日現在)を基に「奈良の声」が作成した。 |
県の県域水道一体化案は、市町村の浄水場を廃止し、県営2浄水場(現在は卸し)と奈良市営1浄水場の計3つに統合する。大容量の大滝ダムなどを取水源とする県営水道の受水24市町村、および同ダム直下の吉野川から表流水を取水する4市町の計28市町村で、1つの企業団を設立する。2025年度の開業が目標だ。
県南部の小規模市町村の水道事業経営はおしなべて苦しい。「奈良の声」は、県市町村振興課が昨年11月、公表した公営企業の決算(2018年度)を基に水道事業の比較をした。収支が赤字なのは五條市、平群町など5市町。負債残高は、額面の数字を見ると奈良市の約153億円が大きい。一方、住民1人当たりの借金に換算すると、吉野町(負債総額約25億円)や宇陀市(同約36億円)などが大きい。
負債が増えた一因として、国が推進する同一市町村内における簡易水道と上水道の統合を挙げることができる。6市町村が実施した。吉野町の担当者は「高度のある吉野山地区の簡易水道を廃し、町営浄水場からポンプアップして送水する設備だけでも大きな費用が掛かった」と話す。
宇陀市の担当者も、簡易水道との統合工事で負債が増えたと話し「水道の未普及地域の解消に向けて投資してきたことも借金が増えた原因」としている。同市の水道普及率はいまだ87%にとどまる。
借金なしで水道を経営してきたのが生駒市だ。隣の大和郡山市の負債も約2700万円にとどまる。同市は広域化に備え、水道事業の内部留保資金の一部28億円を一般会計に繰り入れ、統合組織への流出防止を図った。2市とも地下水の浄水場を有し、低廉な水道料金を保っている。特に水道料金が安い葛城市は、江戸期のため池10カ所を浄水場につないで自己水を確保し、負債残高は3億3000万円程度。すでに県営水道100%に移行した市のうち、香芝市は負債が少なく約1億2000万円にとどまる。
統合後の全負債は言うまでもなく、県民が支払う水道料金の中から返済していく。健全経営の市町村がある一方、料金を割高に設定せざるを得ない経営の厳しい市町村がある。地形の高低差などがコストにかかわることもある。一気に統合することにより、仮に料金が値上げとなる市町村は、住民の反発が予想される。
「一律のルール、非常に難しい」と生駒市
近鉄生駒駅の北口再開発(ベルテラスいこま)広場に、「おいしい生駒の水」と銘打った水飲み場がある。同市の水道事業は現在、県営水道からダムの水を6割、自前の3浄水場から取水した地下水を4割、ブレンドして営む。おいしいと感じる成分は地下水に多く含まれる。隣の大和郡山市では市議会6月定例会において、防災として多様な水源を残す意義が論議された。
生駒市上下水道部の担当者は「昭和63年ごろから借金をせずに水道事業を営んできた」と話す。地下水の浄水場を廃止せず、少なくとも更新時期が来るまでは活用していく方針だ。
昨年の同市議会3月定例会都市建設委員会において、稲垣雅人・市上下水道部長は「水道業務はそれぞれの市町村間でのルール、条件のばらつきが多く、特に資産に至っては内部留保資金、企業債の多い少ないや、施設や水道管等の経年や老朽度に差があることから、一律にルールを定めることは非常に難しい」と述べている。
県は2019年度に基本方針を定めたいと市町村に伝えていた。やや遅れ、県水道局は昨年から、直近3カ年度の28市町村の水道決算書類などを集め、統合後の水道料金や資産のあり方を検討している。県議会6月定例会建設委員会において、複数の委員からこうした点について「どうなるのか」と質問があったが、県は明言を避けた。 関連記事へ