地下水100%の水道消滅か 県域一体化で奈良・大和郡山市 利き水大会で高評価得たことも
深度300メートルから水をくみ上げる、北郡山浄水場敷地内の井戸=奈良県大和郡山市植槻町
生物接触ろ過の洗浄工程に使う北郡山浄水場のポンプ
江戸期の水道事業「七つ井戸」の碑=奈良県大和郡山市植槻町
奈良県大和郡山市は、県が進める県域水道一体化を踏まえ、同市植槻町の市営北郡山浄水場の廃止を検討している。同浄水場は、ダムの水を混ぜない地下水100%の水道水を市民に供給する県内でも珍しい水道施設だ。県の広域化構想はダムの水のみを使用する。低廉でおいしいと評判の市自前の水道水は、消滅する方向に向かっている。
同市営水道の現在の水源は、自前の地下水と県営水道(ダムの水)から購入する水道水。
県水道局が2017年2月、市町村の水道担当者に行った県域一体化に関する聞き取り調査の記録(記者が開示請求)が残っている。それによると、大和郡山市上下水道部は「10年後、北郡山浄水場を更新する際に県水転換を検討する」と回答していた。浄水場の更新時期が来る2027年を機に、地下水を廃止することを示唆する。その場にいた市管理職によると、3年を経た今も市の意向に大きな変化はない。
北郡山浄水場の前身の施設は1938(昭和13)年、旧郡山町の時代から稼働している。現在、給水範囲は市全体の17%にとどまるが、ダムの水を混ぜず、地下水100%で供給する。
市の水道担当者によると、15年ほど前、地域グループと共同で「利き水大会」を開き、市内3系統に分かれている水道のおいしさを競ったことがある。結果は、地下水100%の北郡山浄水場の水道水が最高点を得た。矢田山町などに給水される紀の川水系のダム100%(県営御所浄水場)の水や、ダムの水と地下水を混ぜて給水する市営昭和浄水場(同市額田部北町、深井戸21本)の水より、高い評価を得た。
「山間部の川から来るダムの水は藻の臭い、ときには、かび臭さが伴う。地下水には鉄やマンガンによる金気がある。ダムと地下水の双方に欠点がある」と、この水道担当者は話す。「おいしい」と感じる成分の含有量により、北郡山浄水場の地下水が支持されたとみられる。
市北部の水資源開発の歴史は古く、簡易な水道は元禄年間より以前から営まれていた。郡山城の旧左京堀北方に「七つ井戸」と呼ばれた7カ所の湧水の水を、約20メートルの高低差を生かし、本町や塩町などの侍屋敷、有力町人らに供給していた。
県水道局の2017年2月の聞き取り調査で、市は「井戸(自己水)の方が原価が安いため、すぐに県水転換を進めるのは難しいが、最後まで自立してやっていくこだわりはない」と意向を伝えている。
この文言を裏付けるように市は本年6月、上水道会計の内部留保資金の一部約28億円を一般会計に移転、県域一体化の統合組織への流出防止を図った。また、来年から予定していた昭和浄水場の更新事業(工期10年間)にいまだ着手していないのは、県域一体化への参加の準備ともみられる。
県内でも希少な北郡山浄水場は現在、6つの深井戸から地下水をくみ上げる。2000年度に薬剤処理を抑制する生物接触ろ過施設を導入し、ろ過池にポリエステル製の球状繊維担体を入れて微生物を働かせ、鉄やマンガン、アンモニア性窒素を取り除いている。全国初の取り組みといわれた。ユニチカが開発し、設備に約4億2千万円、建物に約1億6000万円をかけ、この約20年間、修繕など維持管理に約1億7700万円を投じた。
良好な経営を維持する大和郡山市の上水道事業は、県域一体化への参加により、潤沢な内部留保資金や自前の地下水を失う。市民にどう説明をするのか注目される。一体化による料金の試算について、県はまだ示していない。
県域一体化の主要な水源は、治水や農業用水を主目的に国が紀の川上流の本県吉野川水系に築造した3ダム。いずれも地元住民は「要らない」と抵抗したが、水没などにより計約700世帯(うち地滑り37戸)が立ち退いた。歴史ある集落や清流が失われた。今度は一体化に伴う奈良盆地への導水量増大により、地下水という市町村の水文化が次々と消えていっている。
水道事情に詳しい大和郡山市議は「防災上、水源は多元的に残しておいた方が良い。県域一体化というのは、経営状態がすこぶる悪い南和の市町村水道事業を助ける意味合いもあるのだろうか」と話す。 関連記事へ