追跡)奈良市財政「重症警報」の一因を追い掛けて 違法建売を後押しの道路計画 用地取得から30年近く 見通しなく文書も残らず
舗装された塩漬け土地の古市光ケ丘線用地と3棟の違法な建売住宅(右)=2023年5月23日、奈良市古市町
奈良市が「道路建設予定地」と表示しながら30年近く放置状態の市有地が同市古市町にある。荒井正吾前知事が2020年、財政が悪化する同市に対し発令した重症警報の一因を成す土地だ。
建設予定地とうたいながらも市に計画を示す文書は残っていない。
現場は市街化調整区域。この「道路建設予定地」に面して住宅3棟が立っている。市に提出された建築計画概要書などによると、1995年、大阪府東大阪市内の男性が農家住宅1棟を建てると申請。しかし、実際は3棟の建売住宅が建設された。申請では農家住宅のほか「離れと倉庫を建てる」と偽っていた。このため離れと倉庫に当たる奥の住宅2棟は道路に接していなかった。
違法行為は市長(当時)宛ての投書で発覚し、市は1996年1月、住宅に工事停止などを指示する赤紙を貼った。ところが、市は違法住宅を後押しするかのように前面に道路「古市光ケ丘線」の新設を計画。市は同年10月、市の用地買収機関の市土地開発公社(2013年解散、理事長は市助役)に同路線用地として345平方メートルを取得させた。
ここまでの状況は2001年8月、筆者が奈良新聞の記者だった当時に記事にした。そして今、20年余りを経て現地を再訪すると、違法住宅前は約60メートルにわたって舗装され、奈良市が立てた「道路建設予定地」の表示があった。
この問題の当時、市長だった大川靖則氏が2004年の市長選で落選した後、就任した3代の市長はこの道路計画を具体化しておらず、建築基準法の要件を満たす道路にもなっていない。また、違法住宅3棟は風致地区の建築要件も満たさず、是正指導は現在も続く。人も住んでいない。いつ何の目的で舗装したのか。市道路建設課によると舗装工事の開札録や契約の文書は残っていない。
そして、この再訪でもう一つ分かったのは、古市光ケ丘線に接続し、市が用地を取得しながら、同じように具体化していない路線があること。「古市高山線」と別の路線名が付けられているが、古市光ケ丘線と構図が似ているという点で一体の道路に見えてくる。
ここも市街化調整区域。この道路用地に面して、ため池を埋め立てて建てられた大きな住宅がある。同住宅の建築を巡っては1999年1月、右翼団体会長と不動産業者が都市計画法違反の疑いで県警に逮捕された。農家住宅と偽るなどして奈良市に建築確認申請を行っていた。
奈良市が申請を受理したのは1996年4月。その半年後、古市光ケ丘線の用地買収が行われた。住宅が完成した前後の時期に当たる1998年、市はその前面に道路を建設することを計画し、この住宅の敷地の一部487平方メートルを、古市高山線の用地の一部として市土地開発公社に買収させた。
この住宅敷地の当時の名義と古市光ケ丘線用地の買収前の名義はいずれもこの不動産業者の妻になっていた。
古市高山線用地は現在も道路として認定されていないが、約80メートルにわたって舗装されている。さらに市は2003年、隣接する約180平方メートルを買い足した。行き止まりだった公社保有の同路線用地は市道につながり、通り抜けができる道になった。市はこの住宅の住人に奉仕したことになる。
市開発指導課は「是正指導が完了しており、関係文書は廃棄した。この住宅に関する記録は残っていない」とする。
今も返済中、塩漬け土地の借金
この2路線の用地買収に使われた公金は、市が現在、返済している塩漬け土地の借金、第三セクター等改革推進債に含まれる。市は公共事業用地の先行取得の名の下、市民の目が届きにくい市土地開発公社に、必要性の検証が不十分な土地を大量に買収させた。これに要した借金と利子が累増した。塩漬け土地の大半は大川市長時代に買収された。
土地開発公社の解散を決めた仲川げん市長は2012年6月、大量の塩漬け土地の買収価格と地権者の氏名を市議会総務水道委員会で公開した。塩漬け土地「西ふれあい広場」(同市二名7丁目)の疑惑追及の急先鋒だった天野秀治議員(当時)の資料要求に応えたものだった。
古市光ケ丘線用地の買収価格は2088万円。土地開発公社解散当時の実勢価格106万3000円の約20倍に上る。古市高山線用地の買収価格は2950万円。こちらも同実勢価格140万4000円の約20倍に上る。
市道路建設課は「記録はほとんど残っていない。経緯については分からない」と繰り返す。
市が現在、返済中の塩漬け土地借金(三セク債)の残高は86億7350万円(2022年度末現在)。公社解散時、市の第三者委員会(奈良市土地開発公社経営検討委員会)は、説明のつかない大量の土地買いの背景に市議や外部の圧力に弱い奈良市政の体質があることを指摘した。市で責任を取った者は一人もおらず、関係文書も廃棄してきた。
全国の中核市の中でも奈良市の塩漬け土地の借金返済額は屈指。「記録はほとんど残っていない。経緯については分からない」との市道路建設課の談話からは、教訓が生かされていないことが分かる。