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ジャーナリスト浅野詠子

奈良県営水道の管の老朽度調査入札、業者集まりにくく競争性課題 県域一体化の広域企業団に持ち越し

口径1.5メートルのダクタイル鋳鉄管の管体調査で、検体を引き取る作業=2022年10月の同調査入札後に撮影されたもの(奈良県の開示文書「埋設管老朽度調査委託完成図書」から)

口径1.5メートルのダクタイル鋳鉄管の管体調査で、検体を引き取る作業=2022年10月の同調査入札後に撮影されたもの(奈良県の開示文書「埋設管老朽度調査委託完成図書」から)

 水道管の内面や水管橋の劣化具合、管が埋設されている土壌の環境を調査するため、奈良県が実施している「埋設管老朽度調査委託」の入札に対し、業者が集まらない傾向が見られる。発注のなかった2023年度を除き、少なくとも2020年度、21年度、22度年、24年度に応札したのはいずれも同じ1社だけ。競争性の乏しい落札となった。昨年12月に設立された県域水道一体化の県広域水道企業団に課題として持ち越されそうだ。

 県水道局は年1回程度、調査を実施してきた。2024年度は昨年11月に一般競争入札(電子入札)を実施したが、いつもの1社しか参加がなかった。この業者は1回目、2回目とも予定価格を上回る金額で応札したため、水道局は入札を取りやめ、随意契約に切り替えてこの業者と契約した。

 調査要領は2006年に施行。以来、現在調査が行われている3件を含め、調査実績は51件。さびや腐食の把握、硬さ試験などの分析を通して、漏水の防止や経済的な管路更新に役立てる。

 古い水道管を撤去して新しい管をつなぎ合せる際や、送水管を移設する際などに、一部分を切り取って採取し、分析。よって、管路を更新するときが調査の機会になる。

 県営水道と県内26市町村の水道を統合した県広域水道企業団は4月に事業を開始するが、こうした水道管の老朽度調査は継続されるものとして「奈良の声」記者は、水道統合の協議中だった2020年度から3カ年度分の調査結果について、県情報公開条例に基づき開示請求した。

 調査に一定の意義があることが確認されたことは2023年12月4日付「奈良の声」記事で取り上げた。このとき図らずも、開示された文書の中に入札結果を記録した開札録が含まれていて、入札に対し業者が集まりにくく競争性が乏しい状況になっていることを知った。

 そこで他県の入札状況を知ろうと大阪広域水道企業団、大阪市、京都府、兵庫県、滋賀県に対し奈良県の開札録と老朽管調査実施要領を示した上で、これらに類する直近数年分の開札録を、情報公開制度を利用し開示請求した。

 大阪市では2022年度、水道管の腐食量調査が18件、土壌調査が15件行われた。とりわけ、強靱(きょうじん)とされるダクタイル鋳鉄管に着目した調査では、このタイプの水道管が開発された当時から20年ほど経過して劣化状況がどのようになっているか分析している。

 一方、入札に関しては、調査を担う業者がなかなか集まらず、奈良県と同様な傾向が見られた。大阪市水道局によると、管体調査の委託業務の一般競争入札を巡っては、2020年度は2社が応札したが、21年度から24年度にかけて実施した3件はいずれも同じ1社しか応札がなかった。

 大阪市水道局の担当者は「一般競争入札の結果、1社しか応募がない状況が続いたため、市契約・管財局から問い合わせがあった。調査が専門的、特殊すぎて参加者が集まりにくいと考えられる」と話す。

 奈良県水道局で老朽管の調査を担当する県広域水道センターは「腐食管を調査する担い手が不足している可能性もある。国内に管体調査を請け負える業者が何社あるのか、まだ把握していない」と話す。

 奈良県の調査はフソウ、大阪市の調査は栗本鐵工所が担っており、いずれも委託費用は年間数百万円から1千万円程度。

 京都府営、滋賀県営、大阪広域水道企業団の水道事業は過去約5年間、老朽管調査の契約そのものがなかった。ただ目視などによる点検は随時実施されているとみられる。

 兵庫県が開示した開札録は、奈良県や大阪市のような管体の切片採取調査とは同一の契約ではなかったが、兵庫県営浄水場の建屋や沈殿池などのコンクリート構造物、水管橋などで劣化判定の調査が行われた。

 こうした兵庫県の入札でも競争性が乏しいケースがあった。神戸市内の県営神出浄水場などの水道施設で2021年10月に行われた点検診断業務の指名競争入札は、市が指名した8社のうち7社が予定価格を上回る金額を入れ、残る1社のパシフィックコンサルタンツが落札した。

 浄水場の担当者は「予定価格を超過した札を入れる業者が続出した背景には、調査の業務を担う技術者が不足していることもあるのではないか」と話す。

 ふだんは地中にあって、見えにくい水道管の状態。管路メーカーのクボタ(本社・大阪市浪速区)は、鉄管を掘削することなく老朽度を診断できるAI技術活用の高精度評価方式を開発し、公益財団法人水道技術研究センターがホームページで紹介している。福岡市水道局や茨城県企業局、愛知県岡崎市上下水道局が導入したという。

 調査の手法は日進月歩のようだ。口径が大きい県営水道に特化したものでもない。口径300ミリ以上の水道管は天理市水道に10数%、大和郡山市水道にも1割強存在する。県広域水道企業団の第1回議会は2025年2月に開会される。県営水道から受け継ぐ老朽管調査の範囲をどのように広げ、業者が集まりにくく競争性が乏しい入札についてどう打開していくか、企業団に引き継がれるべき課題だ。

 また、水管橋の点検については、和歌山市の水管橋・吊材腐食崩落事故による長期断水を教訓に国が義務化した。しかし、点検の在り方を巡る協議は、奈良県の水道統合の会議では行われていない。

 県広域水道センターが2020年度に委託した水管橋の調査は興味深かった。管内にたまった空気を外部に出して水の流れを正常に保つ「空気弁」の補修弁などから、カメラケーブルが挿入された。断水することなく水道管内が撮影された。調査した3カ所の水管橋のうち、水道台帳に記録された敷設年度の新しい管の方が腐食が進行していることが、記者への開示文書から分かった。

 ただ同センターによると、市町村全てのエリアの水管橋でカメラケーブルが応用できる訳ではなく、その構造によっては調査手法が異なる場合があるという。調査を軌道に乗せる上でも、契約の在り方は大事な課題だ。

 水道の主務官庁になった国土交通省は「1者応札、1者応募」の改善に向け、応募要件の緩和や情報提供の拡充、総合評価落札方式の導入などを提案、同省ホームページで公開している。業者に対するアンケート調査の実施や公正中立な第三者委員会の設置などもその準備として国は推奨しており、一朝一夕には解決されない課題であることが分かる。

 奈良県水道局業務課は「奈良県広域水道企業団は、埋設老朽管調査の引き継ぎに関する協議はまだ行っていない」と話している。

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