3年で解散も国補助金10年 田原本など3町の水道企業団 奈良県域一体化に参加
解散の手続きが進められている磯城郡水道企業団。後方の施設は県営水道の受水槽=2024年11月25日、奈良県田原本町西竹田、浅野詠子撮影
奈良県田原本町、川西町、三宅町が水道事業を共同で行うためにつくっている一部事務組合、磯城郡水道企業団(田原本町西竹田、給水人口約4万5800人)が今年3月末、設立からわずか3年で解散する。より大きな枠組みで4月に水道事業を開始する県広域水道企業団(企業長・山下真知事、県営水道と26市町村水道を統合)に参加したためだ。短期間での解散、解散後も継続する国の補助金について、関係者に取材した。
磯城郡水道企業団の設立は2022年4月。3町長はこの時点で県域水道一体化の県広域水道企業団に参加する明確な意思を持ち、3年後の解散を見込んでいた。特別地方公共団体として国の設立許可を受けた一部事務組合がこれほど早期に解散するのは異例だ。
手厚い国庫補助、早期解散は想定外か
国と磯城郡水道企業団の間に立ち、国との橋渡し役をした県水・大気環境課によると、国は2017年、同企業団に対し補助金の交付を認めたという。交付される国庫補助金は10年間で約5億7000万円。これを原資に3町の水道管の耐震化をはじめ緊急融通管整備など総額約17億円の工事が計画された。ひとたび水道広域化の旗を掲げると、設立前から3町の水道工事に対し補助金が交付され、解散に至っても通算10年間、交付される。
設立前については5年間、約1億7000万円が交付された。これは交付が認められた2017年から5年以内に3町の水道が一体化することを条件に、「広域化の準備段階」と位置づけられたことによる。これほど早期の解散は制度上、想定外だったとみられる。
解散後については2年間(2025、2026年度)、たとえ磯城郡水道企業団は存在しなくとも、当初の約束通り、3町の水道工事を国庫補助の対象にするよう決まっていると、県の担当者は話す。補助額は1億6000万円程度という。
残務は県広域水道企業団が引き継ぐ。
3町の水道統合は、小規模の団体でも統合に参加しやすい特例に則り出発した。設立申請の時点で、「給水人口が原則5万人以上」という水道統合の国庫補助要件があったが、人口1万人未満の団体(川西町、三宅町)を含む場合は「3万人以上で可」とする特例の適用を受けていた。
同企業団は、2046年度までに基幹管路の耐震化率を98.3%にするなどとする、20数年先までの長期にわたる建設投資の試算を住民らに公表していた。
奈良県の水道統合を強力に推し進めた荒井正吾前知事は当初、磯城郡3町の水道統合を「水平統合の合意形成」が実現したものとして肯定的にとらえ、肝いりの県広報紙「奈良モデルジャーナル」の2018年3月号で紹介。県域水道一体化については2036年度までに事業統合を進めるという、緩やかな目標を示していた。
しかし、同ジャーナルが出たその年の暮れ、広域化を推進する改正・水道法が成立すると、水平統合の理念はどこかに行ってしまった。県は垂直統合を旗印に、改正法が導く時限措置の国庫補助金を全額獲得することを目指し、28市町村(当時)と県営水道との事業統合に狙いを定め「企業団の設立を可能な限り早めたい」と2019年8月の第3回県域水道一体化検討会で表明。翌2020年3月の第5回検討会では、2025年度までに事業統合を目指すと説明した。
磯城郡の水道担当者が懸念していたこと
こうした県の意向に対し、磯城郡の水道担当者が懸念を示していた。県情報公開条例に基づき、県が「奈良の声」に開示した第3回検討会の議事要旨で分かった。
磯城郡の担当者は次のように訴えていた。
「磯城郡は2022年度に企業団を設立する予定である。県域水道一体化の統合時期を前倒しするということについて、磯城郡のスケジュールとの調整はどのように考えているのか。現在、例規や組織体制等について費用をかけて検討しているが、それらが無駄になる。また、現時点で各町が職員1名を(磯城郡水道企業団の)準備室に出している。さらに一体化の準備室設置となると、職員の派遣は難しい」。水平統合の実現に向き合っていたことが分かる。
県はその後、低廉な統一料金で事業を開始するという試算を示した。一体化すれば、どの市町村も単独経営と比べて料金の上昇を抑制することができるというものだった。磯城郡水道企業団は前知事の号令に従い、早期の解散をちゅうちょなく選択する。
「磯城郡は広域化の先行モデル」と同企業団は当初、自負していた。しかし昨年11月に国から設立許可を受けた県域水道一体化の県広域水道企業団の設立式(12月1日)では、主催者、来賓の中で、磯城郡水道企業団の実績に触れる人は誰一人いなかった。
3町の各議会は昨年12月の定例会で磯城郡水道企業団の解散についての議案を可決。同企業団は現在、解散に向けた事務手続きを進めている。
市町村合併と水道の広域化
奈良県広域水道企業団の設立式。大型統合が実現した背景として、奈良県では市町村合併が進まなかったことがあると、主催者の県水道局、来賓の県議それぞれがスピーチの中で言及していた。
2000年代前半、国が推奨した「平成の大合併」当時、奈良県の市町村合併の達成率は全国の都道府県で下から2番目に低いとされた。王寺町周辺の7市町村合併協議は住民発議によって始まり、16万都市を構想しながらも、地方政治の動きが鈍く、実現しなかった。磯城郡3町も桜井市との合併を協議し11万都市の誕生を目指したが、進まなかった。
市町村合併は給水人口を増やし、水道の基盤づくりの一助にできる。一方、県営水道が主導する奈良県型の垂直統合は、その協議を通し、県庁の発言力が大きくなることが見えてきた。
かつて水道の主務官庁として広域化の補助金制度を構築した厚生労働省。同省の元担当者は「全国的に、中核市は水道統合に慎重な首長は少なくないだろう。また、経営基盤の弱い小規模の水道との統合に否定的な傾向は根強いと思われる。磯城郡は、よくこのメニューに手を挙げてくれたと思った」と話す。
磯城郡の元町議は「早期の解散となるが、水道統合の一つのモデルケースといえるので、是認されるはずだという空気が3町の関係者周辺にはあるだろう。磯城郡の統合は何といっても地元水道管を更新する費用の国庫補助が魅力といわれた。3町を結ぶ防災融通管(広域化事業)は口径が小さいと思われ、効果はまだ分からない。自己水源の地下水には課題もあったので、3町が浄水場を廃止し、ダムを水源とする県営水道100%に転換したことにより、水源は安定したのではないか」と語った。
磯城郡水道企業団の企業長、高江啓史田原本町長は「意義ある設立だった。3年で解散ということに問題意識はない。構成団体のうち特に小規模団体の三宅町と川西町の水道事業は技術者の確保さえままならない中、3町がまとまって磯城郡の水道基盤強化に向けた有意義な取り組みができた」と強調した。
厚労省から水道事業を引き継いだ国土交通省。同省水道事業課は「磯城郡の市町村長の判断については、コメントは差し控える。小さな水平統合から、大型統合に向かうステージなので、一定の意義が認められる。ただ、水道が遠くへ行ってしまうのではないかと、住民が懸念しているとしたら、そうした懸念が持たれることがないよう、奈良県広域水道企業団は、努力することが大事だ」と話した。
奈良県の水道統合を巡っては、経営格差の著しい26市町村と県営水道との垂直統合を円滑に進めるため、国庫補助211億円(10年間)を受けるだけでなく、県も一般会計から211億円(同)の巨額を支出し、経営を安定させる方針。
一方、統合の協議から離脱した奈良市と葛城市に対しては、今年4月発足の県広域水道企業団は用水供給単価を値上げする。自然災害が頻発する現代、水道の広域化を選択した市町村エリアも、単独経営を続ける自治体も、山間などの簡易水道のエリアも、県民皆が強靱(きょうじん)、安心して水道を利用できるようにすることが県政の使命だ。