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浅野善一

水道料金の生活保護減免廃止 奈良県域一体化の設立企業団 三郷町の制度引き継がず

水道料金の生活保護減免を実施してきた奈良県三郷町役場=2024年10月16日、同町勢野西1丁目、浅野善一撮影

水道料金の生活保護減免を実施してきた奈良県三郷町役場=2024年10月16日、同町勢野西1丁目、浅野善一撮影

 奈良県域水道一体化を協議する県広域水道企業団設立準備協議会(会長・山下真知事)は、被生活保護世帯への料金減免制度について引き継がず廃止することを決め公表しているが、実施している市町村名までは明らかにされていない。「奈良の声」記者が県に関係文書を開示請求したところ、実際に制度があるのは三郷町1町であることが分かった。同町への取材によると、現在、約150世帯に減免が適用されている。

 2023年5月下旬開催の同協議会(書面開催)で、水道料金の「生活保護減免」の「廃止」が了承されたことが、県水道局県域水道一体化準備室が県ホームページで公開している会議資料で明らかにされている。「奈良の声」記者は2024年7月8日付で、廃止に至る意思形成過程が分かる文書を開示請求した。

 開示延長を経て9月19日付で開示されたのは、2023年5月18日開催の同協議会財政運営作業部会の議案と「議事メモ」。同部会は一体化参加市町村の水道担当者らで構成される。この日の部会では、市町村がそれぞれ実施してきた水道料金のさまざまな減免制度の一体化後の存廃が議題とされた。

 議案によると、生活保護減免を実施しているのは三郷町だけだった。事務局の県域水道一体化準備室が廃止の理由として示したのは「生活保護費には、水道料金相当額が含まれており、支援が重複するため」だった。生活保護制度では、光熱水費は生活保護費のうちの生活扶助費に含まれるとされる。

 部会でのやり取りを記録した議事メモによると、事務局は種々の減免制度の存廃について次のように説明していた。「企業団として水道料金や業務が統一され、一体的に運営していくこととなるため、個別市町村のみの減免が残ることは不公平。制度を存続する場合は、全体に適用するものとして検討を行う必要がある」。部会は、生活保護減免については「廃止」することで一致した。この「廃止」方針は同月下旬の協議会の全体会議で了承された。

 三郷町水道課によると、料金の減免制度を利用しているのは150世帯弱。町内の被生活保護世帯330世帯(2024年9月1日現在、町住民福祉課による)のうちの半分近くを占める。減免額は水道料金(基本料金と使用料に応じた料金の合計)の3割。適用を希望する人は、生活保護の認定を受けた際に同課に申請するという。

 町が減免制度を設けたのは1985年。水道料金の改定による料金の大幅引き上げに当たって、議会から低所得者の負担増を抑えるべきとの意見が示されたことを受け、当時の同和対策事業に関係する地域の被生活保護世帯を対象に減免を実施。3年後、町内すべての被生活保護世帯に対象を広げた。

 ことし11月予定の企業団設立を経て2025年4月に参加市町村の水道料金が統一される。三郷町水道課は、減免がなくなる被生活保護世帯の料金上昇について「統一料金は町の現行の料金より少し下がる。これまでの減免分がそのまま上昇分になるわけではない」と説明。減免を受けてきた世帯に対しては「許容を願いたい」とする。激変緩和のための経過措置はないという。

 町では、水道一体化に伴う料金改定や制度の統一について町広報紙で知らせる予定だが、生活保護減免廃止の周知の方法については検討中という。

 町環境整備部次長は「奈良の声」の取材に対し「小さな自治体は、単独では水道事業をやっていけない。三郷町も水道料金をすぐに倍にでもしないとやっていけない。水道一体化によって料金の上昇が抑えられ、町内の水道施設の更新も進む。一体化のためには市町村間で業務やサービスの平準化をしなければならない。生活保護減免の廃止はやむを得ない」と述べた。

 全国には、同様に被生活保護世帯を対象に水道料金の減免を実施している自治体がある。制度を廃止する自治体がある一方で、減免を続ける自治体もある。

 「奈良の声」は、「生活保護の支援と重複する」とした減免の廃止理由について、生活保護制度に詳しい吉永純・花園大学教授(福祉社会学)に話を聞いた。吉永教授は次のように述べた。

 「『生活扶助費は光熱水費が含まれている』といっても、国民の消費支出、それも下から10%の最貧困層の支出に含まれているということであって、具体的にその町の水道料金額が考慮されているわけではない。また、生活扶助費総額としては一般市民の6~7割程度の水準しか確保されていない。

 加えて、生活保護費は2013年に6.5%、さらに2018年に1.8%下げられたままであり、昨今の物価高騰は生活保護世帯を直撃している。夏は風呂には入らずシャワーで済ますとか、冬でも残り湯を何回も使うなど、健康に不可欠な水道が節約の対象となっている。このような住民の苦境に思いを致し、住民自治の精神を発揮して、水道代の減免制度の廃止には慎重であるべきだ」

筆者情報

県域水道一体化を考える

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