全国に先駆けた大型水道統合 住民説明会はわずか2市 奈良県26市町村が参加も
水道統合に参加する奈良県生駒市の地下水浄水場=2024年1月、同市真弓2丁目、浅野詠子撮影
水道の広域化を促す改正・水道法施行後初の大型の事業統合が実現した奈良県。生駒市や大和郡山市は、統合参加に向けた関連議案の市議会議決前に住民説明会を開いた。ほかの市町村はどうだったのか。今年4月から統一料金による事業が開始されるが、統合のために設立された県広域水道企業団(一部事務組合、企業長・山下真知事)に参加する県と26市町村に「奈良の声」が聞き取り調査をしたところ、この2市だけにとどまっていたことが分かった。
統合により参加市町村と県の直営水道は廃止となり、特別地方公共団体である企業団による共同事務となる。各自治体の議会から1人から3人の配分割合で選出された議員で構成される企業団議会(定数38)が設置される。2月20日に開会予定の議会では新料金が議題となる。
他府県の例では、水道料金の値上げを説明する住民説明会を開く自治体がある。近隣では大阪府交野市が2024年に12回、同府豊中市が同年に6回開くなどしている。
県が主導した水道統合。その協議においても、5年に1度、料金を値上げする県の試算が関係市町村に示された。しかし、県はこうした協議が行われた県広域水道企業団設立準備協議会(2021~2024年)を一般県民が傍聴することを認めなかった。
参加市町村の大半が、議会や広報紙、ホームページの説明でよしとした。住民説明会を開かなかった市町村にその理由を聞いた。
平成の大合併で、住民発議による16万都市の誕生が期待されながらも、地方政治の動きが鈍く協議が破綻した王寺町周辺7町。うち三郷町の担当者は「上水道の担当職員は6人しかいない。住民説明会まで手が回らなかったというのが現実」と明かした。
かつて商都と呼ばれ、繊維産業などの隆盛で奈良県経済に貢献した大和高田市。産業構造が変化し給水人口も減少した。市上下水道部は「水道統合は住民にとって、水道料金の下がり幅が大きい。このため住民説明会を開く必要に迫られることはなかった」と話す。
同市の南隣にあり「御所まち」の愛称で観光資源が注目される御所市。市水道局は「議会で説明し、市の広報紙やホームページでも随時説明した。住民からは喜びの声が寄せられたが、反対意見は寄せられなかった。住民説明会は必要なしと判断した」と振り返る。人口減で苦しい水道経営の暗いトンネルからようやく抜け出せる安堵感が伝わってくる。
協議中、県は企業団議会の定数案や水道料金試算の内訳など意思決定過程のさまざまな情報について、記者の開示請求を不開示にしたのも特徴的だった。
住民から市町村への問い合わせも少ないようだ。平群町によると「統合後は水道料金の支払いが原則隔月となり、町のお知らせで知った住民から『これまで通り、毎月払いの方が良い』」などの声が寄せられる程度だという。
隔月徴収への移行については、安堵町の水道担当者から「経営が厳しいから水道統合の道を選択した。隔月徴収は経費を抑えられるので、理解してほしいし、慣れてほしい」との声も聞かれた。
統合計画の大筋が固まったのは2020年。以降、外部の有識者に計画を報告し、意見を聞いた市町村も奈良市(協議離脱)、大和郡山市、天理市、広陵町にとどまった。
一方、住民説明会を開いた大和郡山市。市議会は2023年3月、水道統合の法定協議会設立への参加の是非を問う議案は1票差で可決された。市は住民説明会を2回、開催した。また、生駒市は2022年11月、市議会が採択した請願を受け、住民説明会を開いた。その翌月、葛城市(協議離脱)が住民説明会を開いた。
県は具体的な統合計画案について、パブリックコメントなどで県民らの意見を聞く機会を設けなかった。県民説明会も開かなかった。
参加26市町村間には著しい経営格差と料金格差があるが、荒井正吾前知事は強力なリーダーシップを発揮して統合を進めた。県は国庫補助金を少しでも多く得ようと協議をひたすら急いだ。その背景を物語っているのが、2021年6月、香芝市議会建設水道委員会での市上下水道部長の答弁だ。
「初めから細かいことを決めてしまうと企業団の設立が遅れるというのが県の立場。県は、国庫補助金を受け取るための団体を先につくりたい意向だ。この交付が10年間の時限立法で2034年が最終ということで、逆算すると2025年度から10年間は丸々受け取れるので、県は急いでいる。あまり細かいことを決めてしまうと、企業団の設立が遅れると。まずは企業団を立ち上げ、国庫補助金を受け取る受け皿をつくってから内部について協議させてもらいたいと県は提案している」
昨年12月、奈良市内で行われた県広域水道企業団の設立式。来賓の堀井巌参議院議員(自民)は「何よりご苦労されたのは構成市町村であり、住民の方々に水道を供給して料金をいただくそれぞれの市町村が水道の広域化についてきちんと住民に理解を求めることが丁寧に行われてきたと聞いている。そうでなければ26市町村がこのように集まる本日の式典はなかった」と激賞した。
元自治省(総務省)官僚。どのような事実をもって、市町村が住民に丁寧に理解を求めたとするのか、「奈良の声」は2月3日付で堀井氏の事務所に質問状を送った。回答はまだない。