情報公開制度、請求者の視点で論じる 青森公立大の小林直樹さんが著書 奈良で市民運動経験

小林直樹さん(本人提供)
奈良県で研究者としてのスタートを切った青森公立大学経営経済学部教授の小林直樹さんが情報公開制度の課題を開示請求する側の視点から論じた著作「情報公開制度の事例研究」がこのほど晃洋書房から刊行された。国や自治体が不開示にした行政文書を巡り、住民らが不服とし、開示を求めて提訴した事例の争点を考察している。奈良では、情報公開運動に取り組む市民グループの一員となり、共に活動した。何物にも代え難い経験になったという。
小林さんは憲法の研究者だが、獨協大学大学院法学研究科で学んでいたとき、米国情報自由法の解説書を輪読する機会があり、情報公開制度に関心を持った。また、法律事務所で定期的に開かれていた情報公開判例研究会にも参加し、関心が深まったという。
2007年、奈良産業大学(現・奈良学園大学)に専任講師として赴任したのを機に、大学近くの王寺町で、情報公開制度の充実をテーマに活動していた市民グループ「奈良情報公開をすすめる会」(休止、当時代表・田畑和博さん)に顔を出すようになった。同会の住民らは黒塗りになった行政の開示文書を持ち寄って意見を述べ合ったり、ときには裁判を起こして不適正な公費支出を是正させたりした。併せて、同会と友好関係にある大阪の「知る権利ネットワーク関西」(代表、神野武美さん)の集まりにも定期的に参加するようになった。
こうした人たちと交流すると、文献のみでは知り得ない世界があり、開示請求のこつなどを教えてもらうこともあったという。市民グループの人たちからは、不開示に対する審査請求や取り消し訴訟について、研究者としての意見をよく求められた。こうした経験から、開示請求する人の立場になって公開制度を考える研究スタイルが築かれていった。
本書が取り上げた例を一つ挙げると、大阪府守口市議会が2014年7月に開いた議会運営委員会の協議会の録音データを住民が開示請求して不開示となった問題がある。住民は不開示処分の取り消しを求めて、大阪地裁に提訴した。
市議会側は「本件文書は、会議録作成のための補助的手段(備忘メモ)として作成したもので、組織として利用または保存されるものでなく、公文書に当たらない」と主張した。
原告住民は、録音データが協議会の翌月の8月に廃棄されたことを遺憾とし、「閲覧の機会が奪われ、精神的苦痛を被った」として国家賠償法に基づく賠償請求も行った。
大阪地裁、高裁は判決で共に、録音データは公文書に該当するとの判断を示した。小林さんは「録音データが組織共有文書に該当すると示したのは妥当な判断」とみた。
同協議会は傍聴できたが、録音は禁止されていた。録音データが早い段階で廃棄されていたことは「情報公開制度の根幹に関わる問題」と小林さん。一方、大阪地裁判決は「公式の会議録をもって議事内容の公的記録」とし、高裁判決は「発言の取り消しや訂正などが反映された会議録より前に録音データが公開されると、混乱が生じる恐れ」などと判断。住民の賠償請求は退けられた。
守口市の住民が挑んだ裁判の経緯を知れば、議会の「説明責任」や住民の「知る権利」、そして公文書管理制度の整備について再考する機会になると小林さんは指摘する。
また本書は、2011年の東日本大震災で発生した災害廃棄物(災害がれき)の受け入れを巡る環境省の地方公共団体リストの一部不開示決定取り消し訴訟を考察した。同省は廃棄物の処理体制の構築を急いだが、受け入れ予定地の住民側には、福島第1原子力発電所の放射能漏れ事故に対する根強い不信感があった。
行政の意思形成に関わる情報の開示・不開示が争点になった。公開することにより、率直な意見交換または意思決定の中立性が不当に損なわれると判断された場合、情報公開法は不開示を認めている。環境省はこの規定から、不開示決定を妥当としたが、2014年の大阪地裁判決は、同省の訴えを退け、開示することに積極的な判断を示した。
小林さんによると、こうした積極的な判例は少ない。このため本書では、国内の六つの事例を集め、意思形成過程情報の在り方を考察した。うち京都府の鴨川ダムサイト訴訟と大阪府の安威川ダム訴訟とでは、裁判所の判断が分かれたという。
各事例を詳細に追いかけながら小林さんは、災害廃棄物の受け入れについては、住民が十分論議できるように情報を提供することが国と自治体の責務だったと指摘。憲法92条が定める「地方自治の本旨」の趣旨を踏まえた情報公開制度の解釈と運用が求められると主張する。
ほかにも本書には、今日的な事例を検証。青森県弘前市議会では、会派代表者会議記録メモの開示を求める住民に対し、文書不存在として門前払いした議会側の判断に対し、青森地裁判決(2007年)は、たとえ決裁手続きの前でも、そのメモが議会事務局長室に保管されている場合は組織共用文書であるとして、開示を認めたという。
憲法21条(表現の自由)から導き出され保障される「知る権利」という文言を情報公開法は依然、明記していない。どんなに「知る権利」を行使したくても、開示請求する住民たちが思いも寄らない所でつまずいてしまうケースがあると小林さんは警鐘を鳴らす。国、自治体が保有する行政文書は、国民主権、民主主義、地方自治の観点から、国民ないし住民の共有財産であるとする視点が本書には貫かれている。
小林さんは「縁があり情報公開制度の研究を今日まで続けてきた。その成果の一部が今回出版した拙著になった。憲法21条から導き出される『知る権利』を基盤に、何人にとっても使い勝手の良い情報公開制度になってほしいという思いから執筆した。情報公開制法が制定され20年以上たつが、まだまだ発展途中にある」と話す。
「知る権利」と情報公開制度のさらなる展開のために、小林さんは、一人でも多くの人々に心にとどめてほしいと思うことがある。
「一つは、憲法12条前段の『この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」という文言だという。
もう一つは、米国第4代大統領のJ・マディソンの言葉。
「人民が情報を持たず、情報を入手する手段を持たないような人民の政府というのは、喜劇への序章か悲劇への序章か、あるいはおそらく双方への序章に過ぎない。知識を持つ者が無知な者を永久に支配する。そして自らが支配者であらんとする人民は、知識が与える権力でもって自らを武装しなければならない」。至言であると、小林さんは力を込める。
小林さんは姫路獨協大学准教授を経て2024年から現職。A5版、199ページ、5000円(税別)。本書の正誤表を「知る権利ネットワーク関西」のホームページで公開の予定。

小林さんの著書「情報公開制度の事例研究」
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