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地域の身近な問題を掘り下げて取材しています

発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一
浅野善一

奈良県)生活保護の通院交通費支給 御所市ゼロ、橿原市低い水準、大和高田市10分の1に 07~13年度、開示文書で判明

奈良県内福祉事務所の通院交通費支給額

 生活保護の利用者が医療機関を利用したときに支給される通院交通費について、奈良県内自治体の2007~13年度の支給状況が、「奈良の声」が開示請求した行政文書などで分かった。それによると、御所市は期間中、支給が一度もなかった。

 このほか、橿原市も期間当初は支給がなく、その後も低い水準で推移していた。また、大和高田市は支給額が10分の1に激減していた。通院交通費の支給をめぐっては、申請の抑制や制度の周知不足がしばしば問題になっている。

申請抑制、制度の周知不足ないか

 生活保護には生活、住宅、教育、医療など8種類の扶助がある。通院交通費は医療扶助の一つで、医療機関を利用したときに必要最小限の交通費を支給する。臨時の支出に応じる一時扶助に含まれる。支給に当たっては、利用者の申請を受けて、主治医の意見を確認、必要性を判断する。

 生活保護は国に実施責任があり、費用の4分の3は国が負担している。実施機関は都道府県や市などで、保護の申請受け付けや開始決定は、それぞれが設置する福祉事務所が行う。県内には15の福祉事務所があり、12市と十津川村は各市村の福祉事務所が、十津川村を除く町村部は県が設置する中和、吉野の2福祉事務所のいずれかが業務を行っている。

 記者が開示請求などで入手したのは、各福祉事務所が年度ごとに作成する医療扶助実施状況の07~13年度分。当該年度の交通費の年間支給額、支給件数(1人1回の乗車を1件とする)、1件当たりの支給額が記されている。07年は、通院交通費をめぐって北海道で巨額の不正受給事件が発覚した年で、厚生労働省は08年4月、支給基準に「へき地」や「高額」の厳しい条件を設けるなどした。しかし、10年3月に撤回した。

 福祉事務所別に年間支給額の推移を見ると、最も多かったのは奈良市の623万~986万円で、後に宇陀市の416万~740万円、県中和の422万~668万円などが続いた。一方、最も少なかったのは御所市のゼロで、次が橿原市の0~16万円だった。1件当たりの支給額は、すべての福祉事務所を対象にすると、数百円から1万数千円の範囲だった。

少なくない医療機関の利用者

奈良県内福祉事務所の医療扶助の利用者数

 通院交通費の支給額は、医療扶助の利用者の病状の軽重で変動するほか、医療機関を利用しにくいへき地を抱える福祉事務所で高くなる傾向がある。しかし、御所市や橿原市、大和高田市の同期間の支給状況は、医療環境や交通環境、医療扶助の利用者数が似たほかの市などと比べ、際立っていた。

 各福祉事務所の年度別の医療扶助の利用者数(当該年度の各月の利用者数を合わせた延べ人数)が、県が公表している県統計年鑑で分かる。どれくらいの人が医療機関を利用し、交通費を必要としたのかの目安になる。

 御所市の場合、07~13年度の年度別の医療扶助の利用者数は7000~8000人台で推移しており、決して少なくなかった。しかし、いずれの年度も交通費の支給額はゼロだった。これに対し、6000人台の天理市は78万~176万円、4000~7000人台の生駒市も79万~107万円だった。より数が少ない、1000~2000人台の葛城市でも2万9000~14万円だった。

 橿原市の場合も、07、08年度の支給額がいずれもゼロで、最大の年度でも16万円だった。年度別の医療扶助の利用者数は9000~1万4000人台で推移した。規模の似た近隣の都市などと変わらない数だった。しかし、支給額は、1万2000~1万5000人台の大和高田市の16万~173万円、1万2000~1万5000人台の大和郡山市の10万~170万円と比べると、期間中の総額で20倍前後の開きがあった。

 一方、大和高田市は支給額がほぼ一貫して減り続けた。07年度が173万円だったのに対し、13年度は16万円で、10分の1まで減った。この間、年度別の医療扶助の利用者数は逆に1万2000人から1万5000人に増えている。医療扶助の利用者数は、いずれの福祉事務所でも増える傾向にあり、それに伴って、交通費の支給額も多くは増加傾向か横ばいで、大和高田市のような著しい減少はほかになかった。

「少額であれば生活扶助費の範囲」が理由に

 それぞれの市の福祉事務所を担当する部署に取材した。

 御所市福祉課が交通費の支給がなかったことについて挙げた理由は主に2つ。一つは、送迎は親族の協力を得るよう指導しているということ。もう一つは、少額の通院交通費は通常の生活扶助費の範囲に含まれると判断しているということ。

 同課は「御所市はへき地というほどではない。近所に病院がそろっている地域とそうでない地域では違う。通院交通費の相談は年間10件までだが、出せないと返事をしているわけではない。送迎は子やおい、めいなど親族の協力を得られるのなら、助けてもらってほしいと指導している。週1回、月1、2回程度の通院なら、通常の生活扶助費で辛抱してもらえる範囲。市内は、料金一律100円のコミュニティーバスが運行されている。市民感情、一般市民との均衡も考えなくてはならない」と説明した。

 橿原市生活福祉課は、07、08年度の支給額がゼロだった理由について、「当時の職員がいないので分からない」とした。支給額が規模の似た都市に比べ、低い水準にある点については、「交通費は実例に応じて出している。通院を阻害しない範囲であれば生活扶助費に含まれるという、国の見解に従っている。他市の運用については把握していない。生活保護は国の通知をわれわれが解釈して実施するもの。県の監査が定期的にあり、もし問題があれば指摘がある」と話した。

タクシーから公共交通機関への切り替え指導も

 大和高田市保護課は、支給額が激減した主な理由を2つ挙げた。一つは、高額の交通費を必要とする重篤な患者がいなくなったということ。もう一つは、タクシー利用を安易に認めなくなったということ。

 同課は「07~10年度は一部に重篤な患者がいて、名古屋や大阪、兵庫、岡山などの治療のできる病院に定期的に通院し、移動では付き添いも含めて新幹線を利用するなどしていた。11年度はその支給がなくなったことで10年度の2分の1に減った。また、公共交通機関の利用が不可能な場合にはタクシーの利用が認められているが、これまで安易に支出していた。11年度以降の取り組みで、公共交通機関に切り替えられるものは切り替えてもらっている。それまでは医師の意見書だけで判断していたが、必要性について医師に詳細に確認している」と説明した。

 ただ、大和高田市が通院交通費の支給制度について口頭でのみ説明してきた点については、周知を図る上で「不十分だったかもしれない」と認めた。厚労省が文書による周知を求めていることから、現在、生活保護のしおりに制度周知の記載をする準備を進めているといい、「文書による周知を徹底すれば支給額は右肩上がりになる可能性もある」と述べた。

厚労省や県「支給の要件に額の大小はない」

 福祉事務所を指導する立場にある県や国に取材した。

 県地域福祉課は、御所市が通院交通費を支給していなかったことを認識しており、「交通費は要件に合うかどうかで給付するかどうかを決める。額の大小は関係ない」との見解を示した。御所市に対しては、制度の周知と適正な給付を行うよう指導しているとした。

 御所市の言う、親族に送迎の協力を求めるという点についても妥当か聞いた。県地域福祉課は支給の基準として、08年に厚労省が出した通知「医療扶助における移送の給付決定に関する審査等について」を挙げた。同通知には親族の協力が得られるかどうかの基準はない。

 橿原市が理由に挙げた「通院を阻害しない範囲であれば生活扶助費に含まれる」との国の見解について、厚労省に聞いた。同省保護課医療係は「額が少ないから生活扶助費から出してくれということにはならない。交通費が必要かどうかであって、額は関係ない。国の見解は、バスが利用できるのにタクシーを利用すれば、最小限に当たらないので、そういう場合のことを想定しているものだ」と説明した。

 通院交通費をめぐっては、県内で、「生活保護のしおり」などの配布資料で制度を周知している福祉事務所は、15のうち4つにとどまっていた。「奈良の声」の調べで分かった。また、奈良市が過去に生活保護利用者の男性からの交通費の相談に対し、申請を認めなかったのは誤りだったと認めたことも報じた。御所市については、県内で唯一、「生活保護のしおり」を作っていなかったことも判明し、報じた。

 生活保護法は、「すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護を、無差別平等に受けることができる」としている。居住している地域によって通院交通費の支給を受けられたり、受けられなかったりすることがないのが原則だ。

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