奈良県)奈良市の生活保護・通院交通費申請却下で男性が公開質問状
公開質問状の提出後、代理人の弁護士とともに記者会見する橋本重之さん(左)=2015年4月6日、奈良市の奈良弁護士会
奈良市が市内の生活保護利用者の男性に対し、通院交通費を5年前にさかのぼって支給すると通知しながら、その後一転して申請を却下した問題で、男性の代理人弁護士が6日、市に対し、公開質問状を提出した。
男性は同市の橋本重之さん(80)。質問状は、市が遡及(そきゅう)支給できる期間を2カ月と限定した根拠や、市の周知不足で申請ができなかったにも関わらず、責任を生活保護利用者の不利益に転嫁することの正当性などについて、回答を求めるとしている。
橋本さんは2006年から生活保護を利用、当初から定期的に通院をしていた。交通費の支給を受けている人がいることを知り、市の担当のケースワーカーに支給を受けられないか相談したが、担当者は申請を認めなかった。
市は13年10月になって橋本さんの交通費支給を認めた。さらに、それ以前の交通費についても本来認められるべきだったとして、通院回数を確認できるレセプト(診療報酬請求明細書)が保存されている過去5年間について支給するとの方針を決め、昨年7月、文書で橋本さんに伝えた。橋本さんは申請書を提出した。
ところが、市は先月27日付で、申請を却下する通知書を橋本さんに交付した。市が支給に当たって厚労省に照会したところ、生活保護制度において、事後申請による保護費の遡及支給が認められるのは2カ月までとの回答だったという。
通院交通費は、生活保護の医療扶助の一つとして支給が認められており、厚労省は都道府県や市に対し、文書で生活保護の利用者に周知するよう求めている。しかし、奈良市はこれまで文書を作成しておらず、利用者に配布したのは昨年10月だった。
記者のこれまでの請求で奈良市が開示した、市の07~13年度の通院交通費の年間支給額は623万~986万円。また、年間の支給件数は13年度で9722件(1人1回の乗車を1件とする)、その1件当たりの支給額は864円だった。
橋本さんを支援する市民団体「奈良県生活と健康を守る会連合会」によると、一方で橋本さんのように、担当のケースワーカーによっては交通費の申請が認められない事例があるという。少額であることを理由に、生活費の中で工面するようになどと説明されるという。厚労省保護課医療係は取材に対し、支給基準に額の大小はないとしている。
橋本さんの交通費は現在、毎月の通院で月に720円、半年に1度の通院で1回に2200円。
代理人の佐々木育子弁護士は質問状の提出に当たって、市保護課の担当者に対し、「生活保護の利用者全体に関わることであり、適正に運用してもらいたい」と申し入れた。橋本さんは「自分だけの問題ではない」と訴えた。
橋本さんは市の申請却下に対し、不服審査請求を行う予定にしている。