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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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浅野善一

奈良県内12市の生活保護 申請に至る率の低下や利用者数の減少、一部で顕著 「奈良の声」調査

奈良県内12市の生活保護の申請率推移

 「奈良の声」は、奈良県内全12市を対象に最近5年間の生活保護の動向を比較した。一部の市で、申請率(相談の後、申請に至った件数の割合)の低下や利用者数の減少が顕著だった。 調査結果の詳細

 各市への開示請求または各市からの情報提供、県統計年鑑の公開情報に基づいて、2016年度から2020年度までの生活保護の相談、申請、開始、廃止件数と八つの扶助(生活、住宅、教育、医療、介護、出産、生業、葬祭)の年間延べ利用者数を調査。12市の申請率(相談件数に対する申請件数の割合)と生活保護の利用者数(八つの扶助を合わせた人数)を比較した。

奈良県内12市の2020年度の生活保護の相談件数と申請率
「奈良の声」調べ
  相談 申請 申請率
%
開始 廃止
奈良 1053 537 51 491 427
大和高田 155 122 78.7 106 109
大和郡山 223 94 42.2 83 85
天理 106 63 59.4 56 61
橿原 473 87 18.4 65 131
桜井 105 60 57.1 49 103
五條 32 26 81.3 22 32
御所 96 59 61.5 47 51
生駒 154 25 16.2 17 75
香芝 88 46 52.3 41 34
葛城 49 25 51 16 25
宇陀 47 22 46.8 21 39
平均 51.3

 申請率は、厚労省の委託により県が毎年、各市を対象に行う生活保護法施行事務監査において、調査の対象になっている。相談者に対して、生活保護を申請する権利の侵害がなかったかどうかの参考にされる。

 多くの市がおおむね40%以上で推移している一方で、生駒と橿原は低下を続け、2020年度に20%以下になった。最も顕著だった生駒は、2016年度が79.4%だったのに対し、2020年度は16.2%。5年間で63.2ポイント低下した。橿原は、2016年度が43.8%だったのに対し、2020年度は18.4%で25.4ポイント低下した。12市の申請率の平均は51.3%だった。

奈良県内12市の生活保護利用者数の推移

奈良県内12市の生活保護利用者数(毎月の利用者数を合わせた年間延べ人数)
「奈良の声」調べ
  2016年度 2017年度 2018年度 2019年度 2020年度
奈良 25万3654 25万2955 24万9766 24万5246 24万1245
大和高田 5万1925 5万2602 5万2969 5万1857 5万27
大和郡山 4万5340 4万4813 4万3996 4万2455 4万885
天理 2万7008 2万7947 2万8025 2万6793 2万6059
橿原 5万5475 5万3511 5万2908 4万9579 4万5005
桜井 4万401 4万1066 3万8864 3万6526 3万4546
五條 1万3832 1万3218 1万3168 1万2722 1万2201
御所 2万7053 2万5714 2万4496 2万4788 2万4089
生駒 2万6971 2万6236 2万6549 2万5394 2万2095
香芝 1万2789 1万3202 1万3550 1万3942 1万4798
葛城 7844 7089 7207 6884 6726
宇陀 1万4322 1万4324 1万4008 1万3732 1万2702

 生活保護の利用者数(毎月の利用者数を合わせた年間延べ人数)は、香芝を除けばおおむね減少傾向だったが、申請率の低下が顕著だった生駒と橿原は減少幅が大きかった。2016年度の利用者数を100として増減を見ると、2020年度の橿原の利用者数は81.1、生駒は81.9。いずれも5年間で2割近く減少した。同年度の12市の平均は91.2だった。

 今回の調査では、12市の間で生活保護の相談受け付けの方法が一様でないことが分かった。相談件数の数え方が異なれば、申請率に影響する。同一の市における変動を見るのには有効でも、市同士については単純に比較できない可能性もある。

 「奈良の声」は、申請率の低下が顕著だった生駒と橿原に質問、以下の回答があった。

質問

1)2020年度の申請率が低くなった要因、また、この5年間に申請率が低下を続けた要因は何であると考えるか。

2)申請率の低下と生活保護利用者数の減少が軌を一にしていることについての見解。

回答

【生駒市生活支援課】

(1)新型コロナウイルス対策としての特別定額給付金などの給付金、貸付制度の利用、住居確保給付金の支給要件緩和などで、他制度を利用されたことが一つの要因として考えられるが、困窮されている状況や背景も多様であることから、要因についてもさまざまなものが考えられる。

 5年間の申請率の低下については、生活困窮者自立支援法が施行されたことで、その成果が徐々に表れてきていることが要因の一つと考える。

 生活保護と生活困窮の相談窓口が明確に分かれている自治体もあるが、本市の場合はその両方を一つの窓口で受けている関係上、申請件数に対して分母である相談件数が大きくなり、申請率が低く見えてしまうことも想定できるため、一様に率で比較するより、本当に必要な方に支援を届けることが重要と考えている。

2)生活困窮者自立支援法に基づく適正な支援などにより、申請件数が減少したことが要因の一つであると考えられることと、死亡や転出、収入増といった廃止件数が一定数あったことで、全体の件数が減少したものと考える。

【橿原市生活福祉課】

1)国や各自治体が実施する生活に係るさまざまな施策が関係していると考える。その中で要因の一つとして考えられるのは、生活困窮者自立支援法に基づく窓口での相談・支援の利用増加、また直近においては新型コロナウイルス対策としての各種給付金や、生活資金の貸し付け、生活困窮者住宅確保給付金の制度緩和などにより、生活保護以外の制度を活用できるようになったことが挙げられると考える。

2)申請件数が減少し申請率の低下となれば、それに関連して生活保護利用者は減少していくと考える。当市としては、生活保護申請や生活保護制度利用者について減少傾向にあるが、制度を適正に運用していくため、生活に困窮している方に対し相談窓口を広げ、生活保護をはじめ他法によるさまざまな施策や制度の活用について関係部所との連携や支援を行い、また生活保護申請については申請権の侵害とならないよう努めている。

 県地域福祉課に取材した。両市の2020年度の申請率が低かったことについて「2021年度に実施した監査において、面接記録などから申請権の侵害は確認できなかった」とした。監査の際、それぞれの市の担当者には口頭で、ほかの市に比べ申請率が低いことは伝えたという。

 12市の間で申請率に大きなばらつきがあることも、今回の調査で分かった。同課はこれについて、「日々の積み上げなので幅があるのは仕方がない。理想的な申請率が示されているわけではない」とした。

申請率5倍の開き 相談受け付けの方法違いも要因か

 市と市の間にある申請率の大きなばらつき。2020年度の申請率が最も低かった生駒の回答に「生活保護と生活困窮の相談を一つの窓口で受けている関係上、申請件数に対して分母である相談件数が大きくなり、申請率が低く見えてしまうことも想定できる」とあったことを受け、「奈良の声」は各市に対し、生活保護の相談受け付けの方法や相談件数の数え方を尋ねた。

 その結果、相談者を生活保護制度または生活困窮者を対象とした制度のどちらにつなげるのか、窓口での受け付け方法がさまざまであることが分かった。

奈良県内12市の生活保護の相談受け付けの方法と件数の数え方
2022年3月「奈良の声」調べ、かっこ内は取材先
奈良 保護課の窓口で面接した数。生活困窮の窓口は別で福祉政策課。生活困窮につないだ場合は、相談件数の中に生活困窮が入っている可能性がある。(保護課)
大和高田 係は分かれているが窓口は一つ。生活困窮で話を聞いて、給付、貸し付け制度が使えない場合に生活保護という流れになることが多い。結果として生活保護の相談になった件数を数える。(保護課)
大和郡山 担当課は同じだが窓口は別。生活保護で相談があれば生活保護の窓口が対応、生活困窮で相談があれば生活困窮の窓口が対応。(厚生福祉課)
天理 担当課は同じだが窓口は別。ただし、生活保護窓口から生活困窮につないだ場合は数に入れる。生活困窮窓口から生活保護に回ってきた場合も数に入れる。(社会福祉課)
橿原 窓口は別。生活困窮の窓口は別で福祉総務課。生活困窮につないだ場合も数える。福祉総務課から回ってきた場合も数える。(生活福祉課)
桜井 窓口は別。生活困窮は社会福祉協議会に委託。ただ、結果として社会福祉協議会につないだ場合も数に入れている。(社会福祉課)
五條 窓口は一つ。最初は生活困窮の担当者が話を聞き、利用できる制度があればそれを案内。その上で生活保護を申請したいという場合、また、生活困窮に利用できる制度がない場合、生活保護の担当者が相談に応じる。結果として生活保護の相談に至った件数を数える。(社会福祉課)
御所 窓口は一つだが、受け付け後、生活困窮になれば数に入れない。(福祉課)
生駒 窓口は一つ。相談件数は生活困窮も含む。生活困窮で市社会福祉協議会に直接相談があった場合は数えない。相談者には生活保護の相談員(ケースワーカー)が最初に話を聞き、その上で生活困窮につなぐかどうかを判断。(生活支援課)
香芝 生活困窮が含まれる場合もある。例えば、結果として住居確保給付金の申請になっても、生活支援課に相談に来られれば数に入れる。生活困窮者自立支援制度の相談業務は社会福祉協議会に委託。(生活支援課)
葛城 生活保護の担当者と生活困窮の担当者が同席して、相談者の話を聞いた上で、生活保護と生活困窮のどちらで対応するかを決めている。結果として生活保護の相談に至った件数を数える。(社会福祉課)
宇陀 窓口は一つ。生活困窮の数は含まない。(厚生保護課)

 申請率のばらつきは2019、20年度が特に顕著だった。直近の2020年度では、最も高かった五條の81.3%と最も低かった生駒の16.2%の差は65.1ポイント。5倍の開きがあった。ほかに高さが目立ったのは大和高田(78.7%)、一方、低さが目立ったのは橿原(18.4%)。

 生駒市生活支援課は取材に対し、生活保護と生活困窮の相談を一つの窓口で受け付け、その全件数を生活保護の相談件数として数えているとした。

 これに対し、五條は、生駒と同様一つの窓口で受け付けているものの、その後の流れが違った。市社会福祉課によると、相談者に対し、最初は生活困窮の担当者が話を聞き、利用できる制度があればそれを案内。その上で生活保護を希望する場合、また、生活困窮に利用できる制度がない場合、生活保護の担当者が相談に応じる。結果として生活保護の相談に至った件数を数える。同課は「生活困窮を含めると件数は3、4倍になる」とした。

 生駒と並んで申請率が低かった橿原市の生活福祉課は、生活保護と生活困窮の窓口を分けていて、生活保護の相談件数の中に生活困窮の相談件数は含まれていないとした。このほか、窓口を分けているとしたのは奈良、大和郡山、天理、桜井、香芝。

 五條と並んで申請率が高かった大和高田は、相談受け付けの方法も五條とほぼ同じだった。このほか、窓口を一つにしているとしたのは御所、葛城、宇陀。葛城市社会福祉課は、生活保護の担当者と生活困窮の担当者が同席して、相談者の話を聞いた上で、生活保護と生活困窮のどちらで対応するかを決めているとした。

 生活保護と生活困窮を合わせて、生活保護の相談件数としているところは、生駒のほかになかった。

 生活困窮者を対象とした国の制度としては、生活困窮者自立支援制度のほか、新型コロナウイルス感染症の影響で収入が減少した人を対象にした生活福祉資金の特例貸付などがある。自立支援制度の開始は2015年度で、就労支援や住居確保給付金制度がある。コロナ対応の特例貸付の受け付けは2019年度末に始まった。

 生活困窮者自立支援制度の開始に伴い、厚生労働省が2015年3月27日付で都道府県などにあてた通知によると、生活保護制度は保護を必要とする状態にある者が対象。一方、生活困窮者自立支援制度は現に経済的に困窮し、最低限度の生活を維持することができなくなる恐れのある者が対象。 関連記事へ

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