奈良県誘致の奈良公園高級宿泊施設、6月5日開業 2人で1泊、最低でも7.7万円 公園の自由な利用、本来の使命かすむ
奈良公園高畑町裁判所跡地に建設中の「ふふ奈良」=2020年1月13日、奈良市高畑町
奈良公園高畑町裁判所跡地に復元中の庭園付近
奈良県が県立都市公園「奈良公園」の高畑町裁判所跡地に、富裕層を狙って誘致した高級宿泊施設が、「ふふ奈良」の名称で、ことし6月5日に開業することが分かった。明らかになった宿泊料金を見ると、大人2人で1泊するのに最低でも7万7000円、週末の土曜は最低でも約10万円が必要。宿泊施設は公園施設として設けられるが、利用できる人は限られる。一般公衆の自由な利用に供するという、都市公園法が定める都市公園本来の使命との隔たりは、より明確になった。観光振興の名の下、誰にでも開かれた場所であるべき公園の目的はかすむ。
「熱海ふふ」(静岡県熱海市)など、同じ系列の宿泊施設のホームページの姉妹館情報のコーナーに昨年12月1日、「ふふ奈良」の宿泊予約受け付け開始と6月5日開業を案内する記事が掲載された。
「ふふ奈良」は鉄骨鉄筋コンクリート造り2階建て、建築面積2087平方メートルで、外観は和風。客室数は30、全室がスイート仕様で露天風呂付き。開設されたホームページで宿泊料金などが案内されている。それによると、客室は5種類あり、1室当たりの広さは最低でも73平方メートル。「ラグジュアリープレミアムスイート」と呼ばれる最も広い客室は120平方メートルある。
6月に大人2人で1室を利用した場合の1人当たりの宿泊料金(1泊2食付き、サービス料・消費税込み)は、一番下の等級の客室でも、平日の月~木曜が3万8500円、最も割高となる土曜は4万9500円。最上級の「ラグジュアリープレミアムスイート」になると、平日の月~木曜が9万9000円、土曜は11万円。6月は、オープン記念と題して、平日限定で通常より割安となる宿泊プランを設けているが、それでも大人1人当たりの宿泊料金は3万4650円以上。
都市公園法で、公園施設とは都市公園の効用を全うするために設けられる施設のこと。県が設置を許可する。同法施行令は、宿泊施設について、公園施設の中の便益施設の一つとして認めているものの、「特に必要があると認められる場合のほかこれを設けてはならない」との制限がある。実務上の指針となる国交省公園緑地・景観課監修の「都市公園法解説」で、例外が認められるのは、市街地から遠く、周辺に宿泊施設がないなど、公園を利用しにくい場合などに限られる。奈良公園内や周辺にはすでに複数の宿泊施設がある。
さらに、宿泊施設を設ける場合でも、同解説は、宿泊料金について「公衆の自由な利用に供されるべき都市公園の本来の使命から逸脱させないよう規制することが肝要」と戒めている。日本政策金融公庫の「国内宿泊施設の利用に関する消費者意識と旅館業の経営実態調査」(2013年)では、国内旅行に使う1泊当たりの平均宿泊料金(食事代を含む)が6000円以上~1万2000円未満という人が、53.3%を占めた。
高畑町裁判所跡地は、同市高畑町の広さ1万3000平方メートルの県有地で、浮見堂で知られる鷺池の南側に位置する。1995年まで奈良家庭裁判所分室と官舎として利用されていたが、県は2005年、財務省から購入。2016年12月、県立都市公園「奈良公園」に編入した。同地は市街化調整区域にあり、都市計画法上は新たな建物の建築は厳しく制限されているが、都市公園内の便益施設であれば規制の対象とならない。
県は同地で「上質な宿泊施設を整備することで、奈良公園の魅力向上に資する事業を行っていく」として、宿泊事業を行う民間業者をプロポーザル方式で公募。不動産会社のヒューリック(東京都中央区)が優先交渉権者に選ばれた。明治から大正にかけて同地に別邸を構えていた大阪の財閥、山口家の日本庭園の遺構があることから、県がこれを復元、一般公開するとともに、庭園と一体の施設として、宿泊施設と飲食施設を同社が整備。子会社の「ヒューリックふふ」が運営する。
荒井正吾知事は、高級宿泊施設誘致の狙いについて「奈良にはこれまで上質な宿泊施設がなかった。上質な宿泊施設が来れば観光地奈良のブランド力が向上する」と、定例記者会見などで語ってきた。
都市公園法などの趣旨がその文面の通りだとすれば、奈良公園への高級宿泊施設誘致は困難に見える。担当の県奈良公園室は「奈良の声」のこれまでの取材に対し、「一番の主人公である庭園を再生して、皆さんに入っていただき活用していただくことになる。主役は庭で、そこに入ることを妨げるものは何もない。その中に休憩したり、宿泊したりする施設もある」などと答えている。【関連記事へ】