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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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ジャーナリスト浅野詠子

強制治療対象者の70人が自殺 医療観察法 施行以来16年で

医療観察法の通院処遇を司る法務省大阪保護観察所が入る大阪合同庁舎4号館=大阪市中央区大手前4丁目、2022年7月10日

医療観察法の通院処遇を司る法務省大阪保護観察所が入る大阪合同庁舎4号館=大阪市中央区大手前4丁目、2022年7月10日

 心神喪失や心神耗弱の状態で傷害などの他害行為に及び、刑事責任が問われない人に精神科の強制治療を行う医療観察法が施行されてから7月15日で17年になる。昨年12月末日までの16年5カ月で、治療対象者の70人が自殺していたことが分かった。2016年段階での自殺者累計は52人(「奈良の声」既報)だった。対象者の社会復帰を目標に掲げる同法の条文に照らすと、厳しい数字が現れている。

 通院治療を担当する法務省によると自殺者は54人、入院治療を担当する厚生労働省によると自殺者は16人で合せて70人。公文書は不存在で、2省とも「奈良の声」の取材に対し電子メール(法務省)または口頭(厚労省)で回答した。施行後、同法の強制治療の対象になった人は4373人(2020年12月末現在)。

 医療観察法の治療対象者の自殺は表立って政策課題に上ることはない。一方、政府は2017年7月、「誰も自殺に追い込まれることのない社会」の実現を目標として掲げ、自殺総合対策大綱を閣議決定するに至った。

 通院治療を担当する法務省保護局精神保健観察企画官室は「重要な課題として受け止めている」と話す。同省は当事者に通院指導などを行う社会復帰調整官を法施行直後の56人から225人に増やした。収容病棟を管轄する厚労省障害保健福祉部精神・障害保健課医療観察法医療体制整備推進室は「多種職チームのケアにより最善を尽くしている」とする。

 医療観察法は、児童8人が犠牲となった2001年の大阪教育大学付属池田小事件の犯人に精神科の措置入院歴があったことから、当時の小泉純一郎政権が再他害行為の防止を目指す収容強化の法案を提起したが、犯人の詐病歴が判明し、責任能力が鑑定されて死刑が執行された。

 事件が社会に及ぼした衝撃は大きく、刑事責任が問われない精神病者の特別収容を整備する戦前からの政策案が関係者の間で強く再認識され、英国の司法精神科医療をモデルに修正法案が練り上げられた。

 当時の野党は、予防拘禁や保安処分などの疑いから強く反対したが、法案に賛成した保守党(当時)の党首、小沢一郎氏の勢力が民主党に合流すると、国会の論戦は急速にしぼんだ。

 数年前、入院を体験した40歳代の男性は、ある研究者の助力により専門の知見を生かして働くが、対象になった友人は2年前に命を絶ち、悲しみにくれる。「(友人と同様)事件当時の状況を振り返る内省の時間が私も苦しかった。退院後、社会貢献をして償おうと考え、地域のボランティアを志願したら、厳しい言葉で拒絶されてしまった」と話す。男性は今月24日、池原毅和弁護士ら市民団体が東京都内で開く医療観察法の廃止を呼び掛ける集会で体験を発表する。 関連記事へ

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