視点)医療観察法処遇中の自殺、集計の公文書作成せず なぜ、主務官庁の厚労・法務
厚生労働省=2025年1月15日、東京都千代田区霞が関1丁目、浅野詠子撮影
G7各国の中で自殺死亡率が最も高い日本。さまざまな局面での人々の生きづらさを反映しているのだろう。一般社会から閉ざされた病棟などにも福祉の谷間がある。他害行為容疑の精神障害者(無罪、不起訴、執行猶予)を強制治療する心神喪失等医療観察法の周辺からも深刻な課題が見えてくる。同法は当事者の社会復帰を促すことが目的だが、2005年の施行以降、入院・通院の処遇中に76人が命を絶っていた(2023年12月31日現在)。そして、この集計に関する公文書は作成されていない。なぜか。
自殺者の内訳は、入院処遇中が19人、通院処遇中が57人。「奈良の声」記者は昨年6月、情報公開法に基づき入院処遇担当の厚生労働省、通院処遇担当の法務省に件数をそれぞれ開示請求した。いずれも結果通知は「文書不存在」だった。しかし、電話を通じ口頭では情報提供があった。
文書がないのに、なぜ数字が現れたのか。記者は今年1月15日、東京都千代田区霞が関1丁目の厚生労働省を訪ね、理由を聞いた。その結果、同省が全国35カ所の入院機関に照会し、集計した数であることが分かった。
担当の同省医療観察法医療体制整備推進室によると、正規の公文書として作成や保管はしていない。
一方、同推進室の話では、全国8カ所の厚労省地方厚生局には関係文書が存在する。同法施行規則に基づき、医療観察法の専用病棟は、入院対象者が死亡すると地方厚生局に届ける決まりがあるからだ。
同省は自殺対策を進める中心的官庁。本省が医療観察法自殺者のデータを収集・分析していない背景には、国民の関心が低く、自民・公明による政権党の政策課題になっていないことも一因と思われる。
通院処遇を担当する法務省に対しては、電子メールと電話により厚労省と同じ質問をした。やはり本省に記録は存在していなかった。同省精神保健観察企画官室によると、全国50カ所の保護観察所に照会し、集計して記者に数を伝えたという。
近畿の専用病棟第1号は奈良県大和郡山市小泉町の国立病院機構やまと精神医療センターの敷地にあり、病床数は33床。2010年の開棟に当たっては、地元住民などから2万8000人の反対署名が提出された。対象者への偏見を含んだ数字といわれた。
医療観察法が2003年に国会で成立するまでの間、政府案が示す対象者の人権を巡り、与野党で激しい論戦があった。そうした時代をほとんど知らない若い世代が同法医療の担い手になりつつある。
法案段階から反対した精神科医の岡田靖雄さんら数十人の有志は年に2回、欠かさず東京都内で法の廃止を目指す集会を開いている。昨年12月の集会では、加療日数が16日間の傷害容疑で3年半の入院をした男性(50歳代)が「裁判を受けたかった」と訴えた。対象者が反省の態度を示さなかったり、精神病の治療の在り方を否定したりすると、収容が長くなる傾向がある。池原毅和弁護士は「差別法だ」と批判した。