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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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浅野善一

検証)奈良県香芝市議の懲罰問題 議長発言「国保、生活保護窓口への同行禁止」 現議会の申し合わせに無く

香芝市議会の現行の申し合わせについて開示を求めた請求に対し、「不存在」とする同議会の不開示決定通知(画像の一部を加工しています)

香芝市議会の現行の申し合わせについて開示を求めた請求に対し、「不存在」とする同議会の不開示決定通知(画像の一部を加工しています)

 奈良県香芝市議会の昨年12月の委員会で、川田裕議長が「国民健康保険料や生活保護の窓口への議員の同行は禁止。断っても帰らない場合は議会に報告を」と述べたことに対し、青木恒子議員(共産党)が「議員に対する圧力と感じた」と発言し、懲罰を科された問題。発言が川田氏への侮辱に当たるなどとして、青木氏が一方的に断罪されているが、「奈良の声」は川田氏の発言についても正確なものだったのか点検した。

 青木氏に対しては、公開の議場における陳謝の懲罰を科されたが、議会が決めた陳謝文の内容に納得がいかず朗読を拒否、懲罰動議が繰り返し提出されている。5度目の懲罰動議では出席停止処分の提案が決まっていたが、青木氏の申し立てで奈良地裁が仮の差し止めを決定。今年9月29日、懲罰は出席停止より軽い陳謝に変更されて議決された。青木氏はこれも拒否、同日、6度目の懲罰動議が提出された。

 青木氏は11月7日付であらためて地裁に対し、議会が陳謝、出席停止いずれの処分も行わないよう仮の差し止めを申し立てている。

 川田、青木両氏の発言があったのは2021年12月14日の市議会福祉教育委員会 会議録)。この日は、国民健康保険特別会計の2020年度歳入歳出決算の認定や国民健康保険財政調整基金条例の一部改正などが審議された。

 青木氏は質疑の中で、保険料収納課長が保険料の納付が困難になった市民が窓口に相談に来る旨の答弁をしたことを受け、「私も困った市民と一緒に窓口にも行かせていただいたが、窓口の方も本当に市民の暮らしが大変、国保料を払うのが大変という意見は出ていた」などと自身の経験を語った。

 一方、この後、質疑を行った川田氏はこれらの議案に対する意見を述べた後、「(市に対して)もう1点、確認させていただくが」と前置きして、この日の議案とは直接関係のない、議員の政治倫理の問題を取り上げ、次のように発言した。

 「以前、政治倫理条例の観点から、国民健康保険料や生活保護の窓口に議員がやってきて、かなりの圧力をかけたという問題があった。それは議会でも問題になった。今後、議員がそうした窓口に同行することは禁止すると議会で決めた。

 理事者の義務としても、もし来た場合はその旨を伝えて、お断りする。それでも帰らない場合は、書面等を残して議会に報告いただけるよう、たしかした記憶がある。

 状況によっては、政治倫理審査会に調査を依頼しなければいけない。再度、過去の部分も確認いただいて、今度そうしたことがあった場合は必ず議会に報告いただきたい」

 これを聞いた青木氏は自身の発言を問題視したものと捉え、川田氏に対し「政治倫理条例の何条に入っているのか」とただす一方、「議員に対する圧力と感じた。パワハラのように聞こえた」と発言した。

 同委員会から2日後の16日、5議員が連名で青木氏の懲罰を求める動議 文書)を議長に提出した。動議は青木氏の発言を「(川田氏の)正当正義な意見に対する圧力をかけた行為」「(市議会議員政治倫理基準 条文〉を踏まえて)その事例発生の報告を求めた意見に対し…公然と侮辱または名誉棄損とも思える発言を行うことは、香芝市議会の団体意思の決定に対する背信」などと非難した。

 しかし、川田氏の発言にも不確かなところがあった。

 「国保や生活保護窓口への議員の同行は禁止」がどのような規定に基づくのか、その場では言及がなかった。提出された懲罰動議にはその根拠として、2011年の議会が「生活保護の認定などで議員は市民と同席しない」と決めたことを伝える当時の議会だよりが添付された。川田氏は動議提出後の取材で、この同席自粛について「議会の申し合わせ」との認識を示した。3期前の申し合わせが現議会に及ぶのかどうか不明だ。

 また、議員の同行を断っても帰らない場合は「理事者の義務として書面を残して議会に報告いただけるようにした」との発言についても、後に続けて「記憶がある」と述べており、あいまいさがあった。

 「奈良の声」は、川田氏の発言について事実確認が必要と考え、市議会ホームページの会議録(1991年以降の閲覧が可能)の検索機能を利用するなどして、それまでの本会議や委員会の審議を確認し、開示請求により関係文書の存在を確認した。関係者にも取材した。その結果、次のことが分かった。

(1)「以前、議員が窓口にやって来てかなりの圧力をかけたという問題があった。それは議会でも問題になった」との発言について。

 過去の委員会の会議録に川田氏の「議員の関与が非常に圧力として感じられると、理事者からクレームが出ている」との発言はあるが、「かなりの圧力」という川田氏の認識を他の議員や会議の傍聴者が共有できるような具体的事実までは議会において示されていない。

(2)「議員が窓口に同行することは禁止すると議会で決めた」との発言について。

 3期前の議会が決めたのは同席自粛の申し合わせ。申し合わせは条例や規則と違い、先例などを基に議会運営の方法などについて、その任期の議員の合意で定める議会の決まり。現議会がこの申し合わせについて、あらためて合意したという事実は確認できなかった。加えて、川田氏はこの発言の1カ月前の議会運営員会で、「任期が替わっているので申し合わせは全部リセットになっている」と言明している。

(3)「(議員の同行を断っても帰らない場合は)理事者の義務として書面を残して議会に報告いただけるようにした記憶がある」との発言について。

 そうした報告の仕組みが存在することを示す事実は確認できなかった。川田氏は過去の委員会で、同行した議員の名簿を市から議会に提出するよう提案したことがあるが、議論に至らなかった。

 動議が懲罰の根拠として挙げた市政治倫理条例 条文)や市議会議員政治倫理基準にも、議員の同席自粛や理事者から議会への報告義務を定めた条文はない。

 「(川田氏の)正当正義な意見に対する圧力をかけた行為」などとする懲罰動議の前提が揺らぐ。

香芝市議会がある同市役所=2022年10月28日、同市本町

香芝市議会がある同市役所=2022年10月28日、同市本町

 以下は「奈良の声」が行った事実確認の詳細。

窓口に同行した議員のリスト作成を要望

 議員の窓口同行の問題は、2005年に市議会議員に初当選した川田氏が1期目のときから取り上げてきた。2009年3月4日の予算特別委員会の会議録 会議録)に、委員だった川田氏の次のような発言があった。

 「それといま民生委員の話が出たので思い出したが、生活保護では行き倒れを見た場合は通報義務は当然あるが、議員がそういうのばかり連れていっているのではないかと、民生委員から文句を言われた。そういう事実はあるのか」

 これに対し社会福祉課長(当時)は「生活に困窮された方がどなたに助けを求めるか、相談されるかということだが、われわれとしては地域にいる民生委員を活用していただきたい。個人情報にも接する機会となるので、民生委員にバトンタッチしていただけるとありがたい」と答えた。

 川田氏は同課長の答弁を受けて「議員というのは議会でいろいろ勉強して、それをぶつけ合うのが仕事なので、チェックリストみたいなものを一回つくってほしい。僕らも開示請求したいと思うので」と、同行した議員の名前を記録するよう要望した。

 これが川田氏の言う、理事者から議会への報告義務を指すのか。ここでは、自身で開示請求をすると述べている。

議員の同席自粛を決定

 議員の同席自粛を決めたのは川田氏が委員長を務めた2011年2月18日の議会改革特別委員会 会議録)。「行政審査事項に対する議員の関与について」を議題とし、「課税や生活保護の認定等で、議員が審査事項にかかる協議の場に市民と同席することは、政治倫理条例第2条第1項に抵触するため、同席しない」を決定事項として確認した 当時の議会だより)。市政治倫理条例の同項は「市長、議員は不正の疑惑をもたれるおそれのある行為はしてはならない」などと定めている。

 川田氏の発言では「同行は禁止」となっているが、その根拠にされている2011年のこの決定によれば「同席しない」が正しい。「同行は禁止」は他者からの命令だが、「同席しない」は自発的行動。この決定は議員に対し、同席を自粛するよう求めるものといえる。

 審議結果は同年3月1日の定例会本会議 会議録)で報告された。

 議員の窓口への「同行禁止」の背景として挙げられた「かなりの圧力」とはどのようなものだったのか。この議会改革特別委員会の審議の中で川田氏は「審査事項いろいろある。課税、生活保護、介護保険、国保。議員の関与が非常に圧力として感じられると、理事者からクレームが出ている」と説明した。「非常に」と強調しているものの、「関与」や「圧力」を示す具体的事実への言及はなかった。

 川田氏は、この2年前の2009年3月4日の予算特別委員会の際に要望したチェックリストについても取り上げた。市に対し、リストを作成しているかどうかをただした上で、「名簿も委員会に提出いただき、実名公表でやったらどうかという意見もあるが、皆さんに意見をうかがいたい」と呼び掛けた。しかし、議論には至らず、名簿提出の提案は意見で終わった。

香芝市が「議会への報告義務」を関係課や庁内に周知するために作成した文書について開示を求める請求に対し、「作成していない」とする同市の不開示決定通知(画像の一部を加工しています)

香芝市が「議会への報告義務」を関係課や庁内に周知するために作成した文書について開示を求める請求に対し、「作成していない」とする同市の不開示決定通知(画像の一部を加工しています)

 理事者から議会への報告義務に関する議論は、これ以後の会議録では確認できなかった。

 「奈良の声」は2022年9月13日付で市に対し、理事者から議会への報告義務を関係課や庁内に周知するために作成した文書を開示請求した。同月26日付で受け取った不開示決定通知は「作成していない」というものだった。

申し合わせは「全部リセット」

 2011年に決定された同席自粛のいわゆる申し合わせは、以後、市議会の改選ごとにきちんと議会内で合意があったのか。

 2013年3月の改選では、議会運営委員長に就任した川田氏が同年5月27日の同委員会 会議録)に諮り、6月10日の定例会本会議で、「2010年3月に設置した議会改革特別委員会の決定事項で、生活保護等の行政処分に関する協議に議員が立ち会うことは禁止。厳守をお願いしたい」と報告した。

 しかし、川田氏が2015年4月の県議会議員選挙で県議に転身していた2017年3月の改選時の会議録からは、同席自粛の決定を引き続き維持することを確認した審議は確認できなかった。

 現在の議員が当選した2021年3月の改選では、川田氏が市議に復帰、議長に就任したが、懲罰の対象となる青木氏の発言があった同年12月の福祉教育委員会までの期間で、同席自粛を協議した会議録は確認できなかった。

 それだけでなく、同年6月15日の議会改革推進調査特別委員会 会議録)で、川田氏は議会の申し合わせすべてを念頭に「申し合わせをやっていない。あくまでも会議規則等々を基本として現在やっている」と説明。

 さらに、同年11月4日の議会運営員会 会議録)でも、「申し合わせは任期中全員の合意でやるもので、規則上、条例や規則とは異なる。任期が替わっているので全部リセットになっている」と言明した。問題の福祉教育委員会はこの1カ月後に開かれた。

 申し合わせを巡る川田氏のこの2度の発言は、議長個人の考えの表明ではない。議会が行う行政処分にも反映されている。「奈良の声」は2022年9月13日付で議会に対し、現行の申し合わせを開示請求し、同月26日付で「不存在」とする不開示決定通知を受け取った。議会事務局に「不存在」の理由を尋ねると、「議長が議会運営委員会で“申し合わせは全部リセット”と述べているため」とした。

青木氏ら新人議員に配布された申し合わせ事項集。「生活保護の認定などで議員は市民と同席しない」などとした2011年の決定事項は記されていない(「奈良の声」が開示請求により入手)

青木氏ら新人議員に配布された申し合わせ事項集。「生活保護の認定などで議員は市民と同席しない」などとした2011年の決定事項は記されていない。「奈良の声」は「2021年3月の選挙で初当選した新人議員に配布された申し合わせ事項などの資料」として開示請求し入手

 2021年3月の選挙で初当選した青木氏ら新人4議員に対し、「参考知識の一つとして持っていただく」(2021年6月15日議会改革推進調査特別委員会での議長川田氏の発言)ためとして、「香芝市議会 先例、事例及び申し合わせ事項集」(2017年10月編集)が配布された。同事項集にも「生活保護の認定などで議員は市民と同席しない」などとした2011年の決定は記されていない。

関係者の話

 川田氏は2022年9月5日の定例会初日に報道各社の取材に応じた際、2011年に決定した同席自粛は「申し合わせである」との認識を示した。

 「奈良の声」は11月14日、川田氏に対し、議会事務局を通じ事実確認の結果を伝え、次の質問をした。

 (1)「かなりの圧力をかけたという問題」の根拠となる具体的事実は、現在に至るまで議会において示されていないのではないか(2)議員の同席自粛は、青木氏の発言の1カ月前の議会運営委員会で川田氏が「申し合わせは全部リセット」と言明していて、申し合わせとしての位置付けを失っているのではないか(3)「理事者の報告義務」は記憶違いではないか(4)自身の発言について議会に対し訂正または補足する考えはあるか。

 川田氏は同日、質問に対し「認識の違い」と議会事務局を通じて回答した。

 懲罰動議を提出した5議員のうち発議者の議員に対しても、川田氏の発言について事実確認を行ったかどうかなどを質問した。11月11日、自宅に質問文書を届けたが、11月22日時点で返答はない。

 懲罰特別委員会の中谷一輝委員長に対し、懲罰動議の審査に当たり川田氏の発言について事実確認を行ったか尋ねた。中谷委員長は「審査では委員の意見と青木議員の弁明を受けて、懲罰をどうするか決める。委員からは川田議長の発言に対する事実確認が必要との意見は出なかった」と述べた。

 生活保護を担当する市生活支援課は「課内には、2011年に議会が決定した同席自粛の決まりに沿って対応するという共通理解がある。決まりはありがたい。同席した議員の名前を記録したチェックリストは以前あったかもしれないが、今はない。同席者があれば相談記録に残る」とした。

 中井政友議員(共産党)は取材に対し、過去に生活保護の相談で同席を断られた経験があると話した。

「奈良の声」の提案

 正確さや説明の丁寧さを欠く川田氏の発言が、青木氏に不要な威圧感を与えた可能性がある。青木氏一人を一方的に断罪するのは公平さを欠く。人一人に懲罰を科すかどうかを決めるのだから、動議の提出も審査も厳密な事実確認が求められる。

 市政治倫理条例が定める市政治倫理審査会のような、有識者や市民から成る第三者機関に、川田氏の発言の事実確認も含め審査を委ねてはどうか。議会が懲罰の可否を議決で判断すれば、真実より数がものをいうことになる。

 国保や生活保護の窓口に議員が同席することが、市政治倫理条例や市議会議員政治倫理基準に抵触するかどうかについても、同席自粛の申し合わせは3期前の議会のもので、現議会では議論が行われていない。

 青木氏は「生活保護は基本的人権。議員が同行するのは当たり前」と主張しており、条例や基準に抵触すると主張する議員の意見だけを取り入れることはできない。あらためて議論が必要だ。 関連記事へ


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