奈良県水道一体化 焦点の大和郡山市議会、関連議案可決で2025年統合の公算
県域水道一体化への参加に向けた関連議案の採決で挙手する賛成議員=2024年9月19日、大和郡山市議会
奈良県大和郡山市議会は9月19日の定例会本会議で、県域水道一体化の受け皿となる県広域水道企業団(一部事務組合、特別地方公共団体)への参加に向けた最終的な賛否を問う関係議案を賛成多数(賛成13、反対5)で可決した。議会では賛否が拮抗(きっこう)する状況が続いていたため、仮に否決となれば、残る25市町村と県が統合の協議をやり直すことになり注目を集めていた。
企業団設立に向けた法定協議への参加が決まったときの市議会の賛否は1票差だったが、その後、単独経営より一体化参加が有利とする上田清市長の方針を是とする勢力が伸びていた。
この日の採決で賛成討論に臨んだ議員は「企業団に持ち寄る(供出する)資金(内部留保金約69億円)以上に、10年間で本市の水道に151億5000万円が、30年間で310億円が投入される」と参加のメリットを強調した。
地形や地質などが異なる26市町村水道と県営水道との統合。反対の議員は、面積の大きな市町村エリアの予定投資額が過小ではないかとし、「約束された大和郡山市内の管路更新が後回しなる恐れはないか」と疑問を投げかけた。また、自己水の地下水を増やせば市単独経営のメリットは大きいと訴える議員もいた。
「奈良の声」の調べでは、19日までに少なくとも同市ほか天理市など11市町村議会が統合関連議案を可決。このまま推移すると、10月8日の県議会での採決を経て、2025年、統一料金による事業統合が実現する公算。水道広域化の推進を促す改正・水道法施行後、全国初の大型統合になる。県広域水道企業団の給水人口は約91万7500人。企業長には山下真知事が就任。企業団議会の定数は38人。
県水道局県域水道一体化準備室は「関係団体の議決を経て総務大臣に企業団の設立許可申請を行い、11月の企業団設立を目指す」と話す。
参加26市町村水道の経営格差、料金格差は著しく、うち20市町村が人口5万人以下の小規模水道。経営の安定のため県は国庫補助金211億円(10年間の合計)の獲得に力を入れた。加えて、県としては異例の大型の支援金211億円を一般会計から拠出し(同)、市町村の単独経営より値上げ幅を抑える強靱(きょうじんな)な水道を目指す。
一方、水道統合に参加しなかった奈良市、葛城市をはじめ、十津川村など簡易水道を営む10村に対しても県は、同じ県民である以上、平等に水道強靱化の支援をすることが求められそうだ。
焦点の水道管耐震化では耐用年数100年のダグタイル鋳鉄管の敷設が進むとされる。世代間の負担の公平を達成する上での企業債(借金)の在り方も注目される。
記者の目)優良直営水道の終息を大和郡山市で考える
県域水道一体化への参加を前提に大和郡山市が県内市町村で最も多額の水道会計の内部留保金の一部約28億円を一般会計に移転したのは2020年のことだった。一体化への参加を前提にした上でのことである。県が要請する市営浄水場2カ所(水源、地下水)の廃止は受け入れる考えだった。
これに先立つ2017年2月、県が市町村を対象に実施した水道広域化の聞き取り調査で、大和郡山市は「地下水(自己水)の方が原価が安いため、すぐに県水転換を進めるのは難しいが、最後まで自立してやっていくこだわりはない」と回答している。
こうした考え方は、一体化に参加する多くの市町村に共通する。この調査の前後までに15ほどの市町村が特段の葛藤なく自己水の地下水浄水場を廃止し、県営水道の100%受水に踏み切っていた。
兵庫県では、水道水源をわずかに変更するだけで住民が集会を開いていた。実際に集会の取材もした。参加者の熱心さが伝わってきた。これに対し本県市町村の水道水源についてのこだわりのなさが気になった。先日も長野県と4市町村の水道統合協議事案のシンポジウムで記者が発言した際、主催する上田市の市民団体から市営浄水場(原水・千曲川、緩速ろ過)を案内され2時間近くも説明を受けた。水道への愛が感じられた。
少雨の奈良盆地では水量がそれほど豊かではない大和川水系の河川や同ため池に複雑な水利権が絡み合う。日本一の多雨地帯が源流域にある吉野川分水こそ「利水300年の悲願」として国、県は盛んにアピールしてきた。欠けているのは、同分水の基幹施設である巨大ダムの功罪を検証する勇気である。
さて、大和郡山市の話に戻す。水道一体化は、荒井正吾前知事の号令により、経営格差が著しい県内28市町村(当初)を一気に事業統合することを目指した。前知事は「全資産持ち寄り」を方針としたため、大和郡山市が内部留保金の一部を移転したことについて「資産を隠した」と非難した。これがもとで同市は追い詰められ、一体化に向けた2021年1月の覚書締結に参加しなかった。
しかし、不参加の態度を明瞭にした上田清市長に対し、市内から大きな声援があったわけではない。続いて、その年の6月に行われた大和郡山市長選でも上田市長は「一体化見送り」を公約に掲げたが、特段、支持が拡大したというわけでもない。市議会では、多選の上田市長に対する与野党意識というものが働いていたと思われる。
その後、一体化の協議は、県が頼みにしていた給水人口最大の奈良市が離脱し、水道料金が県内で最安値の葛城市も不参加を決めた。焦った県は大和郡山市が参加しやすいように資産持ち寄りのルールを見直した。企業団に供する内部留保金が多ければ多いほど、水道管などの施設強靱(きょうじん)化に有利になるよう配慮することになった。これを受け大和郡山市は2022年12月、正式に参加表明したのだった。
上田市長が一体化への参加を表明すると、市議会の風向きも変わり、県主導の統合構想に追随する声が相次いだ。ここでも市政に対する与野党意識を垣間見た。
30年先の料金試算など神業ではないのか。そうでないとしても開示請求で開示された関係文書は黒塗りの不開示箇所が多かった。その上、参加市町村の敷設年度不明管は合せて800キロメートルあり、また、県が料金試算を行う段階で6市町村は改正・水道法が義務付けた水道施設台帳を整備しておらず、自分の姿さえ把握できていなかった。
市民は水道を選べない。他県では議会の3分の2の特別多数によって重要公共施設の在り方を決めるルールを持つ市もある。大和郡山市は自治基本条例によって住民投票の項目を設けているが、議会で実施を訪ねられた際、市幹部は言下に否定した。
一体化への参加により、市営北郡山浄水場の廃止が決まった。生物接触ろ過技術を導入した環境に優しい施設。ポリエステル製の球状繊維担体を使った全国初の施設でユニチカが開発した。市は「21世紀の浄水システムにふさわしい施設」をうたった。新技術導入から25年で仕事を終えることになる。