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発行者/奈良市・浅野善一
ジャーナリスト浅野詠子

強制入院の要件外れる障害者を収容、やまと精神医療センター 裁判所が命令 精神鑑定にぶれ

 裁判所の命令により、刑事責任を問えない傷害容疑の精神障害者らを収容する奈良県大和郡山市小泉町、国立病院機構やまと精神医療センターの医療観察法病棟(33床)に、同法では強制治療の対象にできないはずの広汎性発達障害の人3人と中等度の知的障害者2人が送られていることが分かった。

 通常、法の運用は、各地裁が精神鑑定の結果を基に、裁判官と精神保健指定医との合議の上、薬物療法に反応する者かどうかを判定し、入院命令を出す。しかし収容先の病棟で改めて診察をすると、鑑定結果と異なる診断が出るケースは全国でも起きている。背景には、精神鑑定の精度に課題を残したまま、精神鑑定に大きく依存する収容の強化策を国が急ピッチで進めたこともあるとみられる。

 法務省奈良保護観察所(生西真由美所長)が21日、奈良市登大路町の同保護観察所で開いた県医療観察制度運営連絡協議会において、やまと精神医療センターの早川亮・医療社会事業専門員が報告した「疾患別入院患者数」の円グラフから分かった。

 東京都では本年2月、都内に住む知的障害のある男性が「不要な鑑定入院を強いられた」として、国に損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしている。

 厚生労働省が取りまとめた全国32カ所の医療観察法病棟は737人(本年7月1日現在)を収容し、統合失調症患者は84%を占め、主に統合失調症を疾病モデルとする治療が各病棟で行われている。一方で、発達障害と診断されながら収容されている人は全国で15人おり、知的障害は6人、人格障害(成人のパーソナリティーおよび行動の障害)を持つ人は2人いる。同法は、心神喪失などの状態で重大な他害行為に及んだ人に医療を提供し、社会復帰させることを目的に定め、通常の精神科の治療に反応しない人を強制入院させることはできない。

 他方、治療に反応し、回復しても、地域に帰る場所がなく、病棟に留め置かれている統合失調症患者らも存在する。障害者の人権擁護の潮流から疑問視する声があり、イタリアの司法精神医療は廃止に向かっている。日本の医療観察法の対象になった人のうち、強制治療処遇中に自殺した人は50人を超えた。

 全国の同法病棟の入院日数は長期化し、やまと精神医療センターによると、退院できた69人の平均在院日数は958日。最も長く入院していた人は8年9カ月に及んだ。厚労省の指導により、内省を深めない対象者は、退院に向けた外出訓練などができず、反省の態度を示すことの苦手な障害を持つ人は割を食っている。

 医療観察法は2001年、児童8人が殺害された池田小事件の犯人に精神科の入院歴があったことがセンセーショナルに報じられ、不起訴や無罪になった精神病者の再犯予防は「措置入院では不十分」とする識者の意見が出て、法案が練られた。しかし、犯人は詐病で、精神鑑定の結果、責任能力があり、医療観察法の対象にはできない反社会性人格障害と診断された。新法は、犯人の死刑が執行された後の2005年に施行された。

 このことから医療観察法病棟は池田小事件のような通り魔事件を予防する病棟ではなく、実際の入院者は、家庭内で事件を起こした人が多い。奈良保護観察所がまとめた県内累計の速報値によると、法施行後に対象となった32件のうち、同居する家族を傷つけてしまった人は約半数いた。福祉サービスを一度も受けたことがなく、保健所にも相談したことのない人が加害者になることも特徴で、7割ほどに及んでいる。

 政府は当初、全都道府県に専用の隔離病棟を建設することを目指したが、北海道、四国など18道府県の病棟設置協力が得られないまま施行した。人口の多い近畿でも、京都府、兵庫県、和歌山県に今も専用病棟がない。このため奈良県のやまと精神医療センターには、神戸地裁の審判を受けて搬送されてきた人が11人いるほか、京都地裁から5人、和歌山地裁から2人がそれぞれ送られてきた。対象者が入院する土地と帰住先との距離が著しく離れると、退院後の通院処遇に課題を残すケースが九州などで報告されている。

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