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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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浅野善一

公民館など周辺施設の利用者急増 2016年の西奈良県民センター廃止直後 「奈良の声」調査で判明

登美ケ丘南公民館。西奈良県民センター廃止直後にサークルが活動の場を移した施設の一つ=2022年8月、奈良市中山町西2丁目

登美ケ丘南公民館。西奈良県民センター廃止直後にサークルが活動の場を移した施設の一つ=2022年8月、奈良市中山町西2丁目

 奈良市登美ケ丘2丁目の西奈良県民センター跡地の活用を巡る問題で、2016年3月の県民センター廃止直後、公民館など周辺の市の集会施設で利用者が急増していたことが、市が毎年まとめている各施設の利用者数から分かった。数字の上でも廃止の影響がうかがえそう。県民センターを利用していた地域のサークルなどが活動の場を周辺施設に移していたことも「奈良の声」の取材で確認できた。跡地付近は現在、集会施設の空白地域になっている。

 跡地を巡っては、奈良市の利用意向なしとの回答を受けて民間への売却方針が決定していたが、県はこれを一時保留して、市に対し再度、3月末を期限として利用意向を確認している。

周辺9施設で利用者増

 「奈良の声」は、県民センター周辺の市の14施設について、廃止前後の利用者数の変化を調べた。14施設は、県が県民センター廃止を周辺自治会や利用団体に通知した際に、代わりの施設として挙げたもので、公民館・同分館が12施設、地域ふれあい会館が2施設。

 公民館・同分館の利用者数は市が毎年まとめている「公民館要覧」に、地域ふれあい会館の利用者数は市の毎年の決算資料の「主要な施策の成果説明書」にある。利用者数は施設を提供した人の数を使用した。施設の主催事業に参加した人の数は含まれていない。

西奈良県民センター廃止前後の周辺14施設の利用者数の推移

西奈良県民センター跡地周辺の公民館など

西奈良県民センターの廃止前後の利用者数の推移(人)
2016年度のは2015年度より利用者が増えたことを示す
(奈良市の公民館概要と決算資料「主要な施策の成果説明書」などを基に「奈良の声」が作成)
廃止前 廃止後
施設\年度 2013 2014 2015 2016 2017 2018
公民館
西部 14万280 13万4405 13万8524 15万3656 16万8918 13万2901
登美ケ丘 2万4779 2万3824 2万3432 2万3965 2万3127 2万9307
二名 2万939 2万950 2万2654 2万44 2万605 1万5420
登美ケ丘南 8854 7901 7769 8225 7660 8179
富雄 3万2613 3万865 2万9432 2万9972 2万6589 2万3181
平城西 1万3651 1万3041 1万3220 1万2665 1万2002 1万1993
伏見 1万2610 1万3197 1万2815 1万2169 1万2482 1万2432
公民館分館
学園大和 7250 7618 7365 7784 9147 9023
元町 1万903 1万591 1万1706 1万2398 1万2429 1万1839
二名 6527 7120 6058 5637 5131 5344
西登美ケ丘 1万3709 1万2614 1万2548 1万3752 1万2771 1万3492
あやめ池 3万3751 3万5181 3万4222 3万6139 3万6581 3万3713
地域ふれあい会館
とみの里 4万215 5万2811 5万4565 6万8270 6万9044 7万3372
青和 2万384 1万793 1万165 9497 8317 6931
【合計】 38万6465 38万911 38万4475 41万4173 42万4803 38万7127
西奈良県民センター 2万8473 3万354 2万8562

 廃止の前後各3年間の2013年度から18年度までの利用者数の推移を確認した。廃止前2015年度の14施設の利用者数の合計は38万4475人。これに対し、廃止後2016年度の同合計は41万4173人で比率にして7.7%、人数にして2万9698人増えていた。ただ、県民センターから遠方の施設もあり、また、その他の要因も考えられるため、増加のすべてが廃止の影響によるものではないとみられる。

 施設別では、14施設のうち9施設で利用者が増えた。このうち半分ほどは県民センターに近い施設だった。増加数が最大だったのは西部公民館で1万5132人増えた。次が、とみの里地域ふれあい会館で1万3705人増えた。どちらも施設の規模が大きく、県民センターにも近い。また、廃止前3年間と廃止後3年間それぞれの利用者数合計の比較でも、9施設のうち7施設で増加がみられた。

県民センター利用者、廃止前年間2万8000人

 県民センターの廃止前3年間の利用者数も確認した。県青少年・社会活動推進課によると、廃止前2015年度の利用者数(施設提供)は2万8562人だった。数字の上では、市の14施設の2016年度利用者の増加数に近かった。

 各公民館に話を聞いた。市公民館は市生涯学習財団が市の指定管理者として運営している。県民センター廃止から7年近く経過し、当時の職員が異動していることもあって、廃止の影響を確認することは難しかった。

 ただ、西部公民館の職員の一人は「廃止当時、財団の事務局にいたが、登美ケ丘公民館は県民センターから近いこともあり、利用の問い合わせが多かった。西部公民館でも登録団体が増えた」と話した。また、選挙のあった年は、投票所の設置で公民館利用者が増える傾向にあるとも説明した。

西奈良県民センター廃止直後に利用するサークルが増えた「とみの里地域ふれあい会館」=2023年1月、奈良市中山町西2丁目

西奈良県民センター廃止直後に利用するサークルが増えた、とみの里地域ふれあい会館=2023年1月、奈良市中山町西2丁目

 二つの地域ふれあい会館にも話を聞いた。ふれあい会館は地域の自治連合会が市の指定管理者として運営している。とみの里地域ふれあい会館を運営している東登美ケ丘地区自治連合会の運営委員会によると、当初は県民センターの廃止が認識になく、急に新しいサークルが増えたことを不思議に思ったという。

 このとき増えたのはコーラスやダンス、英会話などで、その数は10には及ばなかったものの、利用希望日が重なって希望通りに借りられなくなることもあった。ただ、現在まで利用を続けているサークルは少ない。同会館はバス停から少し離れていて、車での利用者が多い。交通の便などから、別の施設を探すサークルもあったという。県民センターはバス停の前にあった。

活動に影響、地域のサークル

 県への開示請求で入手した西奈良県民センター利用者名簿によると、廃止当時の利用団体数は75団体。このうち定期的に利用していた25団体を対象に取材を試みた。同名簿で開示されたのは団体名のみで、代表者名、住所、連絡先は不開示だったため、ウェブ上で団体名を検索するなどした。5団体と連絡が取れ、このうち3団体に当時の話を聞けた。

 社交ダンスのサークルレインボーは登美ケ丘南公民館に活動の場を移した。同サークル世話係の松原とも子さんは「場所探しは難しかった」と振り返る。それまでと同様に土曜の午後に利用できて、あまり遠くならないようにという条件で、近くの公民館をすべて当たった。ダンスには大きな部屋も必要だった。それでもメンバーは半減した。バス停から遠くなったことなどが影響したという。

 歌声音楽活動「和音」は西部公民館に活動の場を移した。太田光伸代表は「近くで候補地を探した」という。県民センターは、利用していたホールに舞台や伴奏用のピアノがあり、活動に向いていた。これに対し、西部公民館では二つの会議室の間仕切りを外し、電子ピアノを持ち込むなどの設営が必要になった。一方で、同公民館は近鉄学園前駅前にあり、交通の便が良くなったことがプラス面という。

 写真クラブのフォト学も西部公民館に活動の場を移した。円山昌昭会長は「今の方が良い」という。理由は利用料金が県民センターの半分になったこと。部屋の利用は、県民センターが申し込み順だったのに対し、西部公民館は抽選で部屋を確保するのが大変だというが、県民センターに比べ不便になったとは感じていない。

 このほか、県民センターが主催していた書道教室が自主的なサークルに形を変え、青和地域ふれあい会館で活動を続けていることも分かった。

 県民センターは、選挙の投票所や確定申告の会場などとしても使われてきた。

 県民センターの運営は、隣接する県立大渕池公園と共に一括して一つの指定管理者に委託されていた。県青少年・社会活動推進課によると、県民センターの施設管理費は、2013年度が約637万円、2014年度が約532万円、2015年度が約529万円だった。人件費は、公園と県民センターの案分ができないため含まれていない。

住民団体、跡地の無償提供求める

 県民センターは1971年、宅地開発が進む市西部の新旧住民への交流の場の提供などを目的に設置された。廃止の理由には施設の老朽化もあり、住民が交流できる公共施設が不要になったわけではなかった。

 一方、市の公民館などの整備は、目的が似ている県民センターの周辺を避けて進められたとみられる。市はこの間、公民館などの設置や運営にかかる費用を負担しなくてもよかった。県が跡地を民間に売却すれば、同所はこれまでのような公共的な役割を果たせなくなる。

 仲川げん奈良市長は昨年12月の定例会見で、県からの再照会について「市で自由に使っていいという話ならいいが、(財政的に)買ってまで何かできる状態ではない」と述べた。

 住民でつくる「西奈良県民センター跡地利用を考える会」(川島信彦世話人代表)は今年1月31日、市の梅田勝弘都市整備部長らと面談し、跡地の無償提供を求めて県と交渉するよう求めた。

 同会は2月10日、県に対しても無償提供を求める要望書を提出した。要望書は、跡地に防災機能を備えた公共施設が建設されるよう協力することを求めている。県ファシリティマネジメント室は同会に対し「県有財産は適正な対価で譲渡する必要がある。相手方が市町村の場合は、一定のルールに基づいて減額が可能だが、どの市町村に対しても公平に取り扱わなければならない。跡地の無償譲渡は難しい」と述べた。 関連記事へ

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