県内市町村の情報公開制度 6割が住民に利用限定 人口少ないほど開放度低く
誰でも利用できる | 住民などに限定 | |
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何人にも開示請求権 | 住民以外は任意開示 | |
【9市町】奈良市、橿原市、生駒市、大和郡山市、香芝市、天理市、大和高田市、御所市、高取町 | 【6市町】葛城市、田原本町、斑鳩町、三郷町、上牧町、平群町 | 【24市町村】桜井市、広陵町、宇陀市、五條市、王寺町、河合町、大淀町、川西町、安堵町、三宅町、吉野町、明日香村、下市町、山添村、十津川村、御杖村、東吉野村、曽爾村、天川村、川上村、下北山村、黒滝村、上北山村、野迫川村 |
奈良県内全39市町村がそれぞれ設けている情報公開制度について、住民かどうかを問わず誰でも利用できる開かれた制度なのか、または利用できる人を住民などに限定した閉鎖的な制度なのか、「奈良の声」は開放度の違いを人口から見た。人口の少ない市町村ほど開放度が低くなる傾向があることが分かった。
誰でもその市町村の行政文書の公開を求めることができるかどうかは、情報公開制度の充実度を左右する大きな要素。住民に限らずより多くの人の目があれば、情報公開制度が目的とする公正な行政の推進につながる。1つの市町村の施策が市町村域を越えて広範囲の住民の生活に影響を及ぼすこともある。
県内市町村(内訳12市16町12村)にはそれぞれ、情報公開制度について定めた条例がある。県がホームページで公開している資料によると、最初に情報公開条例を施行したのは奈良市など4市で1998年のこと。以降、2006年までにすべての市町村が条例を施行した。
「奈良の声」は、各市町村の条例が開示請求権を認める人の範囲をどのように定めているか、それぞれの市町村のホームページで確認した。条例をホームページで公開していない市町村にはファクスで送ってもらった。
各条例は開示請求権を認める人の範囲に関し、大きく次の3つ型、1)住民かどうかを問わず何人(なんぴと)に対しても開示請求権を認めている 2)開示請求権は住民やその市町村に関わりのある人に限定しているものの、それ以外の人にも任意開示で応じる 3)開示請求権を住民やその市町村に関わりのある人に限定、それ以外の人への任意開示もない―に分けることができた。
この3つの型で39市町村を分類。県公表の市町村別推計人口(2021年5月1日)に基づいて、人口の多い順に並べた。
開示請求権を何人にも認めているのは、39市町村のうち奈良市など9市町で、人口で見ると1~24位(35万2450~6575人)の範囲に分布。人口の上位グループに重心があった。特に1~7位(6万575人以上)の7市はすべてこれに該当した。
ただ、こうした傾向が顕著になったのは最近のことで、9市町のうち、大和郡山市が何人にも開示請求権を認めたのは昨年10月。それまで市外の人は任意開示だった。また、香芝市が何人にも開示請求権を認めたのはことし4月。それまでは市外の人への任意開示もなかった。
次いで、開示請求権は住民などに限定しているものの、それ以外の人にも任意開示で応じているのは、葛城市など6市町で、人口で見ると9~19位(3万7248~1万8073人)の範囲に分布。人口の中位グループに重心があった。
開示請求権を住民などに限定、それ以外の人への任意開示もないのは、桜井市など24市町村で、人口で見ると8~39位(5万4151~347人)の範囲に分布。人口の下位グループに重心があった。特に三宅町など25位以下(6499人以下)の町村、数にして15町村はすべてこれに該当した。
開示請求権を住民やその市町村に関りのある人に限定している場合、条例は開示請求できる人を、その市町村に住所がある人▽同じく事務所・事業所がある個人・法人・団体▽同じく勤務・通学する人▽その市町村に対し納税義務がある人▽その市町村が行う事務事業に利害関係がある人―などと指定している。
開示請求権に基づく開示と開示請求権に基づかない任意開示の違いは、開示結果が不服だったときに現れる。前者は訴訟や行政不服審査法に基づく審査請求ができるのに対し、後者は法的な異議申し立ての道が閉ざされている。
39市町村のうち、「何人にも開示請求権を認めている」に「住民以外にも任意開示で応じている」を加えた、誰でも情報公開制度を利用できるところは4割弱の15市町にとどまった。約6割に当たる24市町村は制度を利用できる人が住民などに限定されている。
市民団体「知る権利ネットワーク関西」が2017年、隣の大阪府の市町村を対象に実施した調査によると、計43市町村(内訳33市9町1村)のうち、情報公開制度の利用を住民などに限定しているのは島本町の1町のみ。奈良県の開放度の低さが際立つ。
奈良県情報公開条例、国の情報公開法はいずれも何人にも開示請求権を認めている。
「奈良の声」は情報公開制度を積極的に利用している。住民かどうかを問わず誰でも利用できる制度であることが、埋もれた事実の発掘につながった例として、2012~13年に報じた奈良県市町村総合事務組合の退職手当基金損失問題がある。
問題解明の端緒となったのは、同組合構成団体の田原本町が開示した組合文書。当時、組合には情報公開条例がなく、組合文書の入手が可能なのは組合構成市町村だった。同町では開示請求権は住民などに限定しているものの、それ以外の人からの公開の求めに対しても任意開示で応じている。住民ではない記者(当時奈良市在住)でも開示を受けることができた。 関連記事へ