県誘致の奈良公園高級宿泊施設の中庭「一般公開」表明も 実施徹底されず、利用もしにくく
県の地元説明会資料に示された高畑町裁判所跡地事業整備内容の平面図。左上の宿泊施設に「中庭を一般公開」の記述(赤色破線は「奈良の声」が記す)
奈良県が奈良市高畑町の県立都市公園「奈良公園」同町裁判所跡地に高級宿泊施設(昨年6月開業)を誘致するに当たって、識者の委員会や地元説明会で示していた同施設中庭の一般公開。実施が徹底されていなかっただけでなく、利用する上でも使いにくいことが分かった。
記者が見学申し出
記者はことし8月30日、一般の公園利用者として同宿泊施設、「ふふ奈良」を訪れ、中庭の見学を申し出たが、宿泊客以外は建物内に立ち入れないとして認められなかった。
その際の施設玄関先での従業員とのやりとりはおよそ次のようなものだった。
従業員「ご宿泊ですか」
「建物の中を見せてもらいたい」
従業員「コロナのためお断りしている」
「コロナが終息したら見学できるのか」
従業員「いいえ、プライベート重視のため宿泊客以外は建物内には入れない」
「中庭が見学できると聞いている」
従業員「中庭はいったん外に出て塀伝いに進み…」(と言って、県が同じ高畑町裁判所跡地に復元した日本庭園を案内)
記者はこの一件を県奈良公園室に伝えた。今月21日、回答があった。同室は「宿泊施設側との間で一般公開の取り決めはしていたが、徹底されていなかった。指摘を受けた後、対応できるようにした」と説明する一方、見学には「予約が必要」と、これまでの公表情報にはなかった決まりも明らかにした。
同宿泊施設は都市公園の公園施設であり、県にとって、中庭の一般公開は、宿泊客だけでなく一般の公園利用者にも開かれた施設であることを示す意味があった。
県がホームページで公開している資料によると、中庭は施設の入り口を入ってすぐのロビー、ラウンジに面して設けられており、広さ約315平方メートル。
「全ての公園利用者が中庭を望める動線計画」
県の中庭一般公開の方針は、2017年7月の第3回地元説明会や2019年4月の第14回奈良公園地区整備検討委員会(委員長・増井正哉京都大学大学院教授)で配布された資料で確認できる。
地元説明会で参加住民に配布された「高畑町裁判所跡地保存管理・活用事業」の整備内容を示す説明資料の平面図に、「宿泊施設 中庭を一般公開」との記述があった。また、検討委で委員や傍聴者に配布された資料には、同様の平面図のほか、「全ての公園利用者がロビーやラウンジから中庭を望める動線計画」が示されていた。いずれの資料も県のホームページで公開されている。
奈良公園室によると、宿泊施設側は「コロナもあって対応を誤った。今後このようなことがないよう従業員を教育する」と話しているという。一般公開について文書は交わしていないという。
予約必要も周知はしない考え
一方、中庭見学の際に求める予約については、前日午後5時までに申し出てもらう必要があるとする。同室は「旅館業であり宿泊客もいる。当日来られても対応できない。予約なしに押し寄せられて過密になってもいけない」と説明するが、予約が必要なことを周知する考えはないとも述べた。
周知のための案内がなければ、奈良公園の来訪者が事前にこの予約の決まりを知るのは難しく、かといって直接、宿泊施設を訪れても見学できない。県が示した「一般公開」の意味が揺らぐが、同室は「見学の問い合わせがあれば対応する。一般公開の仕組みはできている」と反論する。
同宿泊施設経営会社「ヒューリックふふ」の関連会社の担当者によると、これまで一般公開の利用者はほぼなかった。このため「一般公開への対応の徹底が甘かった」という。 関連記事へ