大滝ダム湖岸トンネル地滑り対策工事に108億円 奈良県と国、当初予算の2倍超
地滑り対策のアンカー工で山肌が覆われ、湖岸の景観が一変した高原トンネルの周辺=2024年4月26日、奈良県川上村
奈良県川上村の大滝ダム(吉野川、国土交通省、主目的・治水)湖岸で、2020年から進められていた国道169号高原トンネルの地滑り対策工事が今月、完了する。山の斜面に長大なアンカー798本を打ち込む大規模な工事になった。事業費は、当初予算の43億9000万円の2倍を超える108億円に膨らみ、工期も1年2カ月延びた。
2018年12月当時、トンネル内部の亀裂の幅が5年前の点検時と比べ、最大で3倍近くの7ミリに拡大していたため対策が必要になった。県管理国道だが、地滑り対策工事の経験が多い国に委託。工費の3分の2は国が補助する。
高原トンネル入り口の地滑り対策工事現場。山肌を覆う四角形がアンカー工の1本1本=2024年4月26日、奈良県川上村(車のナンバーをぼかしています)
工費増、工期延長の主な原因は、現場の一部の地質が不安定だったこと。15本のアンカー工をやり直した。物価上昇も影響した。
工事を担当した近畿地方整備局紀の川ダム統合管理事務所(五條市三在町)によると、一部に軟弱な地盤があり、アンカー工の受圧板の位置を、より安定した所に変えた。このほか斜面が急角度だったり、地中にある大きな岩盤が支障となったりして、やり直した場所もある。「一般の地滑り対策工事に見られる現象であり、珍しくない」という。
高原トンネルの延長は495メートル。ダム建設に伴う付け替え国道に位置する。湖岸の地滑り対策は2003年の同村白屋地区(37世帯立ち退き)などに続き、今回で4カ所目。白屋地区で発生した地滑りと同様に、今回のトンネルの亀裂が、ダムの貯水の影響を受けたのか、それともまったく影響を受けていないのか、また、湖岸の地滑り対策はこれで終結するのか、国、県は明らかにしていない。
県砂防・災害対策課によると、工費は主に国の災害復旧対策費を充てた。「施工は国のダム担当部署が行ったが、大滝ダムの維持管理予算から支出はなく、ダムを水源とする水道事業(県営水道、広域水道企業団に継承)が(通常よくある)工費の一部を負担することはない」としている。
アンカー工の施工面が露わになり、トンネル周辺の景観も一変。かつてはダム反対運動もあったが、村は現在、ダムを受容して水源の村を名乗り、湖岸の景物を観光振興につなげようとしている。
同課は景観への影響について「安全対策を最優先で工事を進め、これ以外の施工方法は考えられなかった」と話している。