大滝ダム地滑りで謝罪 奈良県川上村、運用開始10周年式典で国交省 山下知事は放流制限の課題に言及
大滝ダム運用開始10周年を記念し、堰堤直下で開かれた特別見学会=2023年11月19日、奈良県川上村
国が奈良県川上村に建設した大滝ダム(主目的、治水)が運用開始から10周年を迎え、11月19日、同村で記念式典があった。国土交通省の局長はあいさつの中で、試験貯水中に発生した地滑りに触れ「迷惑を掛けた」と謝罪した。同問題では、立ち退いた元白屋地区住民が国の責任を追及し、訴訟にもなっていた。
同村では大滝ダム建設に伴い住民約500世帯(水没は399世帯)が村内外に移転した。このうち白屋地区では、ダム本体完成後の2003年、試験貯水中に堰堤(えんてい)上流の湖岸で地滑りが発生し、37世帯が立ち退きを強いられた。住民は国を相手に訴訟を起こし、国は敗訴し上告を断念したものの、その理由は明らかにされていない。
記念式典であいさつする栗山忠昭村長=2023年11月19日、奈良県川上村
白屋地区以外にも迫、大滝地区で大掛かりな地滑り対策工事が行われ、ダムの運用開始は10年遅れの2013年。国交省の廣瀬昌由水管理・国土保全局長は式典のあいさつの中で試験貯水中の地滑り発生に触れ「運用開始までには多大なご迷惑を掛けたことを改めておわび申し上げたい。紀の川、吉野川流域の発展に努めたい」と述べた。
大滝ダムは1959年の伊勢湾台風の被害をきっかけに建設省(当時)が翌年、予備調査を開始し、工事は半世紀がかりとなった。
来賓の山下真知事は、川上村がダム源流域で740ヘクタールに及ぶ原生林などの森林を独自で購入し、水源の森として守っている施策を讃えた。一方で、大滝ダムが直面する課題として「ダム下流の流下能力が十分でなく、放流制限をしている」と言及。「国は現在、(和歌山県紀の川)下流で築堤などの河川整備計画を進めている」と述べた。
この問題は、和歌山県が国交省近畿地方整備局に対し抗議した記録が奈良県庁に残され、「奈良の声」が開示請求して入手し報じた。
知事は今年8月の台風7号についても触れ「大台ケ原で時間雨量最大96ミリに見舞われたが大滝ダムは1658万立方メートルの貯留をし、下流の五條市で水位を1.5メートル下げることができた」と評価し「大滝ダムが効果を最大限発揮できるよう奈良県としても全力で取り組みたい」とした。
この日は湖面活用をテーマにシンポジウムもあり、栗山忠昭村長は「大滝ダムの計画が浮上した1960年当時、村にとって死刑宣告ではないのか、よほどのことをしないと再生は困難と深刻に受け止めていた。応援も得て今では運命共同体として覚悟し、水がめを守っていく」と意欲を見せた。
国交省紀の川ダム統合管理事務所の中川靖志所長は、先月実施した大滝ダム巡視船による体験乗船会の模様を紹介。「一般の人々にダムの現場に近づいてもらおうと企画し好評だった。村役場は『きれいな水を下流へ』と宣言しており、船舶動力のEV化、カーボンニュートラル化も課題。洪水期には大きく水位を下げるため乗船の工夫も要る」と語った。
大滝ダムは奈良県営水道の主要水源で、県が26市町村と協議中の県域水道一体化の中心的水源になる。 関連記事へ