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ジャーナリスト浅野詠子

関西広域)精神病の新薬、「通院医療との連携が極めて不十分」 大阪府立医療観察法病棟が国批判

大阪府立病院機構・大阪精神医療センター=2024年8月5日、同府枚方市

大阪府立病院機構・大阪精神医療センター=2024年8月5日、同府枚方市

 国が2009年に承認した統合失調症の新薬、クロザピンを投与する治療の在り方を巡り、大阪府枚方市の府立病院機構・大阪精神医療センターの医療観察法(法務省・厚生労働省共管)病棟(33床)で、退院後の通院医療機関との連携が極めて不十分であるとして、国に対し厳しい批判が出ている。

 承認された当時は、難治性の統合失調症患者の衝動面を緩和する、などと報告された。いったん投与された当事者は、副作用の対策として退院後も血液内科と連携ができる医療機関に通院することが必要とされる。また、投与の中断によって症状が悪化する恐れがあるとする診断もある。

 大阪精神医療センターによる国批判は、「奈良の声」記者が府情報公開条例に基づき開示請求した2023年9月の同センター医療観察法病棟・外部評価会議の会議録から分かった。

 医療観察法病棟は、心神喪失、心神耗弱の状態で他害行為を行い、無罪、不起訴、執行猶予になった人を強制治療する施設。会議録によると、クロザピンを導入している同法指定の通院機関は増えていない。入院者らの帰住先に当たる近畿一円を指しているとみられる。

 同会議録によると同センターの関係者は「自治体病院が厚労省と交渉しても、いつも同じ答え。精神障害者の権利擁護もよく言われるが、治療をできる薬があっても、それを使える状況を整備しない国の責任は大きい。何回言ってもなしのつぶて」と国の対応を批判している。

 同センターと同格の医療観察法施設は全国の国立・都道府県立35病院にあり計856床。巨額の公費が投入され、国内屈指の多種職チームで治療が行われている。一方、法の目的は、当事者の治療と社会復帰であり、肝心な通院態勢が十分に整っていないと、収容中心の処遇となって法の目的外の運用になりかねない。

「投与されたものの通院先見つからず退院遅れた」 元入院者訴え

 昨年、東日本の医療観察法病棟を退院した男性(50歳代)が「奈良の声」の取材に応じた。男性は入院中、クロザピンの投与を受けていた。帰住先の土地は、クロザピン治療の継続ができる通院機関が少なく、その調整に時間を要したことも一因となって入院が長引いたという。

 男性の入院は3年半。厚労省が医療観察法・入院日数のガイドラインとして示す18カ月を大幅に超えていた。

 クロザピンは患者の同意が原則。同意が得られない場合は、病棟内の倫理会議に諮られる。

 男性は「病院側から『クロザピンを使わないと退院に向けての審判が通りません。早く退院したいのならクロザピンが良い。いくらあなたが嫌だと言っても、会議を通してでも投薬することになるだろう。そうなると君の立場が悪くなります」と言われ、投与に同意した。(入院中)私は背骨が湾曲してしまい、恐らくこのために神経が圧迫され、両足ともにひどい痺れがあって、特に左足は(退院後の現在も)うまく動かなくなってしまった。クロザピンを投与された後遺症ではないのだろうか」と話す。

 大阪精神医療センターは2015年ごろ、厚労省の助成によりクロザピンの有用性を実証する研究を実施していた。同センターのクロザピン使用率は全国の医療観察法病棟の平均より高く、6割程度。外部評価会議の会議録によると「さまざまな処方を施す中で、クロザピンしか効果がなかった」というケースや「他の抗精神病約を大量投与している状態から徐々にクロザピンに変更できた」などの事例もある。センター側は「使用は、患者さんや家族にも丁寧な説明をしてから処方に至っている」と同会議で説明している。

 ある国立の医療観察法病棟の医師らが2020年、論文を書く目的で調査したところ、全国の医療観察法病棟の統合失調症患者の26.4%にクロザピンが投与されていた。その処方割合は、一般の精神科医療より数倍高いという。

 こうした中、他の医療観察法病棟と比べ、入院日数が短い傾向にある滋賀県立精神医療センターに対し、記者は同県情報公開条例に基づき外部評価会議(本年2024年2月)の会議録を開示請求した。

 議事概要には、センター側の次のような説明があった。過去3年の平均在院日数は、全国平均より300日短く、その理由については「特別な方法があるわけではない。電気けいれん両法を実施しているわけではないし、クロザピンの投与数が多いわけではない。理由があるとすれば、スタッフの努力の積み重ねと思われる」としている。

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