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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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ジャーナリスト浅野詠子

関西広域)強制収容への疑問 京都府の医療観察法病棟計画 精神病患者会が公開質問状

医療観察法病棟を設けることになった京都府立洛南病院=2020年8月14日、宇治市五ヶ庄広岡谷(写真は一部修正しています)

医療観察法病棟を設けることになった京都府立洛南病院=2020年8月14日、宇治市五ケ庄広岡谷(写真は一部修正しています)

医療観察法案の反対デモ。公開質問状を出した患者会も参加した=2002年3月、東京都渋谷区内(映画「かけがえの前進」から)

医療観察法案の反対デモ。公開質問状を出した患者会も参加した=2002年3月、東京都渋谷区内(映画「かけがえの前進」から)

 京都府伏見区の精神病患者会「前進友の会」は、府立洛南病院(宇治市五ケ庄広岡谷)の医療観察法病棟計画(17床)について、強制収容に対する人権上の疑問から、同病院に対し公開質問状を出した。同法は、刑事責任を問わない傷害容疑などの精神障害者を無期限に拘束できる。患者会は、同法の適用を受けて身柄を拘束されたメンバーを支援した経験がある。

 医療観察法に基づく精神科の専用病棟は全国に833床。国立は15カ所、都道府県による運営は19例目となる。洛南病院は老朽化により約2年後に全面建て替え工事を予定しており、観察法病棟計画はその一環。

 同病院によると、これまでに住民説明会を14回開いた。府医療課は「国の要請があり開設する。府内に専用病棟がなく、当事者の帰住先(退院後の起居する場所)から遠方の病棟に入院せざるを得ない状況が続くが、地元に開設されることにより、社会復帰を円滑に進める効果が期待できる」とする。

 患者会は1970年代から活動し、100人を超す当事者が交流している。医療観察法案が国会に提出された2002年からは、科学的に確立していない再犯予測が適用されることへの疑問などから、法律の即時廃止を訴えてきた。

 その活動の様子は、18年前の法案審議直前に患者会の中心メンバーの1人、江端一起さん(59)を主人公として制作された記録映画(原一男CINEMA塾作品「かけがえの前進」長岡野亜監督)にも残る。多くの賛同者が集まった反対運動も、法律が施行されると、精神科医や福祉の専門家らは退く傾向となり、逆に観察法の医療をけん引していったが、患者会は反対し続けた。

 2009年には、患者会の男性が放火の容疑で逮捕された後、不起訴となり、翌年、京都地裁で同法の審判にかけられた。失火の疑いもあった。メンバーは男性を釈放したい一心で裁判官に手紙を書き、生涯、男性を支えていくことを宣誓した。地域の主治医の下で医療を継続することが認められ、強制収容を免れる裁定が行われた。

 公開質問状は、患者会の人々が運営する、やすらぎの里共同作業所(市野裕一所長)との連名。質問状には、患者会が抱く日ごろの疑問を書いた。自分にかけられた容疑を弁明することが苦手な障害者が対象になり、通常の刑事裁判のような再審が認められないこと▽入院が長期化し、制度の対象になった人の自殺も増えている実態▽対象者は精神科の治療方法を選択できず、望まない閉鎖病棟に送られることの不自由さ▽認知行動療法による内省に重きが置かれることの弊害について―など。患者会は「話し合いの機会を設けて」と求めている。

 厚生労働省の処遇基準によると、内省の態度を示し、薬物療法に反応して精神症状が回復した人は退院できるが、江端さんは「たとえ退院しても、観察病棟帰りなどと厳しい烙印(らくいん)が押される」と訴えている。 続報へ

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