視点)立ち退いた住民への説明責任は 歴史体験学習館見送り
建物の撤去が進められていたころの歴史体験学習館予定地。主が去った住宅の跡地に花が咲いていた=2022年4月、奈良市二条大路南3丁目
山下真奈良県知事による前県政の大型箱物事業などの見直しで決まった平城宮跡歴史公園の歴史体験学習館建設見送り。県には、立ち退きに応じた予定地住民への説明責任があるのではないか。奈良市二条大路南3丁目の予定地には小さな住宅地があったが、立ち退きはほぼ終了している。住宅地には自治会があり、住民の地域活動があった。
担当の県平城宮跡事業推進室に聞いた。県の施策に協力して立ち退いた住民に対し、施設の建設を見送ったことやその理由、今後の見通しについて伝える考えはないか。
同室は予定地について、公園としての整備、活用をやめたわけではなく、未買収地の用地交渉も行っているとした上で「住民は移転をされて、連絡がつくかどうか分からない。今回の公表を受けてご意見やおしかりの電話があれば丁寧に説明させていただく。こちらからすべての方にというのは今の時点では考えていない」とした。
さらに聞いた。説明の文書を郵送することは考えられないか。同室は「やるならすべての方々に送る必要があるが、連絡がつかない方もおられるので難しいと思う」と述べた。
歴史体験学習館は、国土交通省近畿地方整備局国営飛鳥歴史公園事務所が2008年に策定した平城宮跡歴史公園基本計画に、県が整備する施設として盛り込まれた。2009年、この計画に基づいて同公園が都市計画決定された。平城宮跡の整備は荒井正吾前知事が力を入れた施策だった。県は歴史体験学習館について、2018年2月の国の事業認可を受けて予定地の用地買収に着手した。予定地の広さは約9000平方メートル。買収の対象となった土地は30件で、うち29件について売買契約が済んでいるという。
一方「奈良の声」が2020年11月、二条大路南3丁目自治会の会長に取材した時点で、自治会には法人を含め20世帯が加入していた。自治会では地蔵盆などの行事を開催してきた。住民には高齢者が多かった。会長の男性は、自治会には独り暮らしの高齢者が自身を含め4人いるとし、「転居先の住民に溶け込めるだろうか。独り暮らしだから心細い」と心境を述べていた。
歴史体験学習館は2026年度の開館を目指していた。事業費は用地買収費を含め約50億円が見込まれていた。男性はこのときの取材で、転居に不安を抱きながらも「県の考えた観光浮揚策にことさら反対することもない。いい施設にして、この周辺が発展していったら」とした。一方で、予定地北側に隣接する国交省の展示施設「平城宮いざない館」を挙げ、「似たような施設は駄目。客を呼べるものでなければ。いざない館は1度見れば十分だった」と注文も付けていた。
知事が見直しを発表した事業の中には、県が市町村と協議しながら進めてきたものもある。6月12日の発表会見で知事は地元との協議は継続すると表明した。歴史体験学習館で立ち退いた住民に対しても、状況が変わったことについて説明するなどの配慮があってもいい。 関連記事へ