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ジャーナリスト浅野詠子

視点)水道一体化不参加の2市はゼロ 奈良県の老朽管対策などの支援金 参加市町村に207億円

県の大型支援金を了承した第5回県域水道一体化論点検討部会後に記者会見する市町村長ら=2022年9月21日、奈良市内

県の大型支援金を了承した第5回県域水道一体化論点検討部会後に記者会見する市町村長ら=2022年9月21日、奈良市内

 奈良県内26市町村と県営水道を統合し2025年度に事業開始を目指す県主導の県域水道一体化。県は支援金として10年間、一般会計から207億円を繰り出す。一体化に参加する市町村の水道管の老朽化対策などに充てられる。水道一体化への支援金としては全国でも例がない規模。

 一方、一体化に参加しない奈良市、葛城市への支援金はない。人口減少時代に、安全、安心な水道を享受することは県民の等しい願いであるにも関わらず、一体化への参加・不参加の違いが公費支援の分かれ目になる。

 一体化への参加を表明した大和郡山市が1月22日に開いた市民説明会。一体化に参加すると国・県の補助金を活用することにより市内の管路更新率は1.5%に上昇。一方、市が単独経営を継続した場合、国・県の補助金はなく、管路更新率は1.34%にとどまると解説、いかに参加が有利であるか力を込めた。

 「1円も出ないのか?」。会場の市民からため息が漏れた。

 一体化構想は荒井正吾知事肝いりの「奈良モデル」の一環。県が大型支援金を出すことを決めたのは2022年2月、奈良市内で開催の第2回県広域水道企業団設立準備協議会において。国庫補助金の10年間総額が事業費見直しのため104億円減額の292億円に下方修正され、同時に県費で146億円を拠出することを決めた。

 同年9月、県は支援金をさらに146億円追加し、倍の292億円にすることを決めた。参加に慎重だった奈良市を誘導するためだったとみられる。総務省が定めた公営企業への繰り出し基準の満額に当たる。これにより、水道料金がさらに引き下げ可能であることを力説した。

 「打ち出の小づちみたいだ」。ある県内市町村の水道担当職員の感想だ。

 その後、奈良市の不参加により、207億円に減額修正。同額の国庫補助金と合わせ10年間で414億円が一体化の企業団に入る。4市の5浄水場を廃止し、大滝ダム(国土交通省、川上村)からの遠距離導水を加速するなどの広域化施設工事に311億円。市町村の水道管などの更新に同額の工事を発注する見通しだ。

 県の一体化構想は水道施設の老朽化対策が柱だが、これだけで動機を語ることはできない。

 平成の大合併当時、達成率が大阪府に次いで全国で2番目に低く、県幹部は気にしていた。一般会計だけでなく、水道の公営企業会計の経営状況についても、全国の類似団体などと比較して課題が顕著な町村が増えている。折しも広域化を推進する改正水道法が施行(2019年)され、広域化の補助金は早く手を挙げた方が有利という定石に従い、県は全国初の大型統合を目指した。

 一体化不参加の2市は独立採算の会計原則を貫いているが、貫けない市町村ほど一体化参加は得だ。

 奈良市は戦後、富雄町、伏見村、大安寺村、平城村などの町村を編入し、現在、2つの浄水場で広大な市域に水道水を供給している。これは水道の広域化とは違うのだろうか。

 葛城市は2004年、新庄町と当麻町が合併してできた。当時、自己水源の地下水に課題が生じ、葛城山系の谷水を利用した江戸時代のため池を水道の主水源として開拓し、県営水道で補いつつ、県内一安い水道料金を実現している。

 人口減少によって給水収益も減少するなら、一般会計の収入にも陰りがあるはず。県はここ数年、観光振興を掲げて大型の箱モノを続々建設したが、費用を負担するのは主に若年層。県の大型支援207億円の予算化に向けた作業は2024年度から始まるとみられる。何を削って捻出するのか。今年4月の知事選に名乗りを上げている各立候補予定者の対応が注目される。

地方行政に詳しい平岡和久・立命館大学政策科学部教授の話

 県の役割として市町村に対する補完、支援があるが、奈良県のやり方は市町村自治を尊重しながら補完、支援するのではなく、市町村行政に手を突っ込んで県による市町村行政への評価や県の計画に従えという集権的手法が目に余る。本来なら、県域水道一体化に参加しない市町村に対する補完、支援策を同時に提示すべきだ。 関連記事へ

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