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ジャーナリスト浅野詠子

市町村浄水場存続の方が料金有利の試算も 奈良県域水道一体化推進前

開示された奈良県作成の「市町村水道事業の処方箋」。上が大和郡山市のシミュレーション結果、下が桜井市のシミュレーション結果

開示された奈良県作成の「市町村水道事業の処方箋」。上が大和郡山市のシミュレーション結果、下が桜井市のシミュレーション結果

 奈良県が県域水道一体化構想を公表する4年前の2013年度、大和郡山市や生駒市など県内8市町村の水道事業に対し、浄水場の一部または全部を廃止して県営水道(主水源・大滝ダム)からの受水を増量するより、浄水場を何らかの形で残し更新する方が水道料金面で有利とする試算を示していたことが、県の開示文書から分かった。

 県は、一体化構想では全体最適化を旗印に、浄水場廃止の効果をアピールしているが、同じ知事の下で市町村の自己水源存続の価値を積極的に見いだした時期があったことになる。県は一体化の受け皿となる企業団の2025年度設立を目指している。

 「奈良の声」が開示請求したのは、県内で浄水場を廃止し、県営水道を100%受水する市町村が増えたことについて、県がどのように関与したのかが分かる文書。

 開示されたのは「市町村水道事業の処方箋」と題する文書。県は2013年度、国の人口推計などを基に23市町村(奈良市を除く)の2030年までの水道料金のシミュレーションを行った。

 それによると大和郡山市は他市町と比べ、人口減少率が目立つ傾向が見られたが、仮に主力の市営昭和浄水場(水源・地下水)を廃止して県営水道を増量するより、同浄水場を残して更新した方が1立方メートル当たりの料金は2030年時点で9円40銭安くなる試算になった。

 現在、開会中の同市議会3月定例会では、単独経営を継続するのか、一体化受け皿の企業団に入るかは重要な争点。上田清市政は2020年、市営の2つの浄水場を廃止する県の一体化計画に一定の理解を示したが、内部留保資金を全額企業団に引き継ぐことを不満として、その一部28億円を一般会計に移転。荒井正吾知事から非難され、一体化の覚書締結に参加しなかった。

 昨年10月、奈良市が一体化の協議から離脱すると、県側は資産引き継ぎのルールを改め、大和郡山市など経営が良好な団体に有利になるようにした。さらに昭和浄水場と生駒市の真弓浄水場(水源・地下水)の存続を決めた。

 これに対し、大和郡山市議会建設水道委員会は3月2日、市が提案した県広域水道企業団設立準備協議会の設置に関する議案など一体化関連の2議案を不承認とした。本会議での採決は定例会最終日の13日に行われる。

県中南部の市町村は県営水道の受水増量が有利と試算

 一方、同シミュレーションは宇陀市など7市町村に対しては、県営水道100%に移行することが有利であるとした。理由は、浄水場を廃止すれば、施設の更新費用や人件費、維持管理費を削減でき、独立採算の水道会計に有利なため。また、桜井市など2市町は、浄水場の数を減らし、県営水道からの受水を増量する方策が有利であるとした。

 同シミュレーションが示されて以後、県営水道を100%受水する市町村が続出した。県は2013年度、県営水道の料金を値下げしている。

 「市町村水道事業の処方箋」には、県営水道と市町村営が共存する道筋があった。しかし、試算から4年後の2017年、県は一転、一体化構想により6市11カ所の市町村営浄水場を廃止し、水源のすべてを国と水資源機構のダムのみにする方針を打ち出した。

 2019年には水道の広域化、民営化(コンセッション方式)の推進を柱とした水道法改正が行われた。早く手を挙げた自治体ほど有利に国庫補助金が付く。弱小の赤字水道に交付される高料金対策の地方交付税を抑制する国の狙いもあるとみられている。

 県水資源政策課は「2013年度の試算は、県営水道の販路を拡大するために行ったのではなく、料金の引き下げに当たり、市町村水道の原状を把握しようと実施した。料金試算については、一体化の企業団設立に向けた協議会が行った試算の方が、市町村側に浄水場更新に関わる情報などを聞き取りして実施しているので、精緻なシミュレーションだ」と話している。 関連記事へ

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