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浅野善一

市長らの損害賠償責任、軽過失なら一部免責 条例提案の三橋・香芝市長 奈良市議時代は制定に反対

奈良県香芝市役所=2024年6月26日、同市本町

奈良県香芝市役所=2024年6月、同市本町

 奈良県香芝市の三橋和史市長は「市長らの損害賠償責任の一部免責に関する条例」の制定を、開会中の市議会6月定例会に提案している。住民訴訟で市長や職員が市への損害賠償を命じられた場合などに、重大な過失がないときは市が請求額の一部を免責するものだが、同市長は奈良市議会議員時代の2020年、仲川げん奈良市長が同様の条例を議会に提案した際には「免責の範囲を拡大する条例は必要ない」として反対票を投じていた。 三橋市長に聞く

 こうした条例の制定は、2020年4月の地方自治法改正(施行)で可能になった。条例により、自治体は首長や職員が職務に伴って負った賠償責任について「善意でかつ重大な過失がないとき」、条例で定めた限度額を超える分を免責できる。限度額は同法施行令が示す基準を参考に定められる。同基準では1年間の給与の1~6倍の範囲で職責に応じた限度額が設定されている。それによると首長は6倍、副知事、副市町村長などは4倍、職員は同額などとなっている。故意または重大な過失があるときは、条例は適用されない。

 個人としての首長らに重大な過失があるか否かの判断は、執行機関としての首長が住民訴訟の判決などを参考に行うことになる。住民が首長の判断に不服があるときは、住民監査請求、住民訴訟を通じて首長の判断を問える。

 香芝市の条例案では、賠償責任の限度額は市長が1年間の給与の2倍、市長以外が1年間の給与と同額となっている。

 三橋市長は提案理由について6月24日の定例会本会議で説明。「現状の住民訴訟などの制度では、市長や職員の損害賠償責任が確定した場合、軽過失でも損害の全額について責任が課され、個人としては到底負担し得ないような巨額の賠償を負う可能性がある」と指摘、「条例制定で、市長や職員の心理的負担を軽減し、果敢に施策を展開できる環境を整える」と述べた。また「職員の法務能力の向上を重要視し、内部統制体制の充実も行ってまいりたい」とも述べた。

 一方、三橋市長は今年5月の市長選挙で初当選する以前の2017~2021年、奈良市議を務めていた。2020年3月19日の同市議会定例会で、仲川市長が提案した同様の条例に対し反対意見を述べた。会議録によると「現在でも、市長などの損害賠償責任が認められている事案は、背信性が著しい場合や、当該公務員の能力が著しく劣っていた場合に限定されているものといえ、さらに免責の範囲を拡大しようとする条例は、通常の能力を有する行政職員であれば全く必要のないものと断言できる」と主張していた。

 その上で「市長などが多額の損害賠償責任を負う事態を避けるためには、これを免責することで対処するのではなく、現在のような(市政の)無法の独断専行を排し、職員らの法務能力の向上のための実効的な施策と、行政機関としての内部統制の強化によって対応すべき」としていた。条例案は賛成多数で可決された。

 当時、奈良市では火葬場の建設用地の購入額を巡って起こされた住民訴訟が進行中だった。2021年10月には、仲川市長と土地を売った地権者2人に対し計約1億1600万円を請求するよう市に命じた大阪高裁判決が確定した。昨年5月、仲川市長と地権者2人がそれぞれ3000万円ずつ支払う和解案が成立している。

 三橋市長の提案理由の際の説明によると、全国1741市町村のうち同様の条例を制定しているのは今年1月1日現在で421市町村。県内では、奈良市のほか三郷町、斑鳩町、王寺町の1市3町という。また、限度額については、地方自治法施行令が示す基準通りに定めている自治体が多いとした。

 「奈良の声」は三橋市長に対し、7月8日夕方、市秘書広報課を通じて取材を申し込んだ。同課から返事がある予定だが、9日夜の時点では連絡はない。

 条例案は審議を付託されている市議会総務建設委員会の7月5日の会議で全会一致で可決された。本会議での採決は7月10日の定例会最終日に予定されている。

 三橋市長は奈良市議を務めた後、弁護士となり活動していた。

(以下は2024年7月12日に追加)

条例制定の是非、首長の姿勢で判断~三橋市長に聞く

 三橋和史市長は7月10日、条例が可決された本会議の終了後、市役所で「奈良の声」の取材に応じた。奈良市議当時には反対した条例を、今回、香芝市長として制定したことについて、どのように考えたのか尋ねた。市長は、条例制定の是非の判断は首長の姿勢次第であることを強調した。

 市長は「一般的な話として」と前置きした上で「法務能力、法制機能の体制を脆弱(ぜいじゃく)なまま放置して、自治体に損害を与えている事実があるのに、開き直って改めようとしない長がいたとして、その長がこうした条例を制定することに対しては、(議員の立場なら)私はたぶん今でも反対する」と説明した。

 こうした考えから、条例制定と併せて市の法務能力の強化に取り組むことを強調。その具体策として「9月議会に組織再編の条例を提案しようと考えている」と述べた。また、職員の昇任試験でも法務分野をとり入れるとした。

 条例制定の意義については、条例と法務能力の強化を車の両輪にたとえて説明。「民間企業でも法務部門は営業部門のブレーキ役。行政でも法務を強化しすぎると公務が萎縮してしまうというのもある。積極的な施策も今後進めていきたいが、そのためには職員個人の責任については限定的な方向でやらないとバランスが悪い」と述べた。

 また、賠償責任の限度額を地方自治法施行令が示す基準より少なくした点についても言及。「施行令の基準は会社法を参考にしたもので、行政の分野を研究し尽くして作った基準ではない」との認識を示し、「会社は一つの事業分野に限られるが、行政の分野は多岐にわたり、法律や政令、条例も毎日のように運用が変わっていく」と業務の複雑さについて民間との違いを強調した。

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