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ジャーナリスト浅野詠子

記者余話)大滝ダム渇水で建設時の奈良県巨額負担金を考える

貯水率が著しく低下した今年2月の大滝ダム。右はダム湖のシンボル龍神の造形物=2026年2月6日、奈良県川上村、浅野詠子撮影

貯水率が著しく低下した今年2月の大滝ダム。右はダム湖のシンボル龍神の造形物=2026年2月6日、奈良県川上村、浅野詠子撮影

 奈良県の水がめ、大滝ダムが例年にない少雨で貯水率が低下し、これに伴って行われていた給水制限が5月29日、解除され、県渇水対策本部も解散した。日本一の多雨地帯、大台ケ原を源とする吉野川の巨大ダムの新たな弱点が見えてきた。これを機に、国による大滝ダム建設時に県が支払った多額の利水負担金について考えてみた。

 同ダムの貯水を主要な水源とし、全国屈指の規模となった奈良県の水道広域化の協議が始まった2018年。協議を主導する県は、28市町村(後に2市が協議から離脱)の水道と県営水道との垂直統合を目指した。県はその効果額を、幾つもの浄水場の廃止で不要になる同施設の更新費用と、水道統合で10年にわたって交付される国庫補助金を単純に合算して「800億円」とし、統合のメリットを強調した。

 これについて記者は県の担当者に対し「大滝ダムの建設事業費3640億円のうち県はすでに利水分と治水分を合わせた606億円もの負担金を国に支払っている。800億円の効果額は大きすぎないか」という趣旨の質問をしたことがあった。

 これに対し担当者は「負担金のうち利水分の370億円については、半分が奈良県に返ってくる」と言った。県当局にとってダム負担金はそれほど高いものとの認識はなかったようだ。

 県に返ってきたというからには、370億円の半分の金は県営水道の事業に使われていたと考えられる。そうした想定で具体的な使途について、このほど国と県に開示請求した。

 結果はいずれも文書不存在だった。文書は作成されていたとみられるが、国は5年保存、県は10年保存の期間が過ぎて廃棄したらしい。

 一方、国からはどのような形で金が返ってきたのか。国土交通省水道事業課への取材で、内閣府が所掌した地域自主戦略交付金のうち、厚生労働省(当時の水道担当省庁)に割り振られた水道水源開発等施設整備補助金だった可能性があることが分かった。

 大滝ダムの県負担金606億円の国への支払いは年1回の分割払いで行われ、1962年度に始まり2012年度に終わっている。国土交通省水道事業課は、県から国への負担金の支払いが終わった年が2012年度だとすると、それに対応して県に交付された同補助金の最終年度も2012年度だったのではないかとの見方を示した。

 よって県の行政文書の保存年限を10年とすれば、2022年度までは同補助金に関する文書が保存されていたことになる。

 この年は水道統合の協議が大詰めを迎えていた。主要水源のダムの全体像を知る上でも、急いでこれらの文書を廃棄する必要はなかったと思われる。

 県が支払った大滝ダムの負担金606億円のうち236億円は治水分だった。これも検証の余地を残す。疑問点がある。吉野川(紀の川)の下流に堤防が整備されていない区間があり、ダムからの放流を抑制せざるを得ないことから、ダムの洪水調整機能については課題を残したままだ。

 また、2003年の同ダム試験貯水中に起こった湖岸の白屋集落の地滑り問題では、国交省はその対策に430億円を投じているが、県は16%に相当する工事負担金を支払っている。住民が起こした裁判で大阪高裁は国が安全対策を怠ったことを認定しているにもかかわらず。最近もダム湖岸の高原トンネル上方の斜面で大掛かりな地滑り対策工事が行われた。

 今回の渇水に伴う給水制限では、節水を呼び掛ける広報車が県内を走り回った。大滝ダムの新たな弱点が見えた。今後、増えることが予想されるダムの堆砂の除去費用の一部は地方公共団体が負担する。

 県は、水道統合による効果額を下方修正したのに、その理由を県民に説明していない。大滝ダム建設により失われた吉野川の清流、近畿一といわれたアユ釣りの漁場、古社境内の照葉樹林、歴史ある林隙集落など、文化的な価値の損失についても触れていない。

 その上、水道水源としての価値が失われたわけではない地下水浄水場の廃止に県は拍車をかけてきた。

 日本のダムは、これから最低100年は居座るだろうと、ある河川工学者は言っている。関係文書は永年保存することを検討した方が良いだろう。

筆者情報

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