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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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緊急提言)住民投票も選択肢~県域水道一体化を考える/「奈良の声」客員コラムニスト川上文雄

溜め池と家並み=2014年9月、奈良市(撮影・浅野詠子)

溜め池と家並み=2014年9月、奈良市(撮影・浅野詠子)

 私たちの生活の質を左右する水道。奈良県で進行中の「県域水道一体化」は水道行政の大転換です。計画の全体像をつかめないまま、気がつくと「覚書の締結」(本年1月25日)「準備室の開設」まで進んでいます。4月17日、「県域水道一体化」の勉強会(奈良市の学園前ホール)に参加しました。講師は浅野詠子さん(「奈良の声」記事執筆者)。

 この状況において筆者が切に願うのは、次のことです。覚書を締結した後は、ぜったいに撤退できないということではない。それは今後の展開次第。最終段階で各市町村において住民投票を実施する。住民の意思を確認して、それを尊重する。そのような選択肢もある。いずれにしても首長や議員に白紙委任するわけにはいかない。情報開示と情報共有の大前提のもと、しっかり、県民(市町村民)に説明しながら話を進めていく。

 勉強会の「講演録」(「奈良の声」2021年4月29日掲載)と「奈良の声」のこれまでの記事を確認しながら、コラムを書きます。議論・言論の活性化にすこしでも役立てば幸いです。

「水平統合」もある

 現在の計画は、水源をほぼ全面的に県に依存させる「垂直統合」。市町村にある水源の多様性も失われていく。ところが、「講演録」にあるように「水平統合」という考え方もある。これは近隣の市町村同士などで広域化をするもので、阪神大震災のときに事例があります。未曽有の災害を教訓に北和4市が協力し、非常時に水を融通し合おうと、各市の境界に特別な水道配管工事がなされたとのことです。(講演録)

 水平統合のなかに、県の水源を位置づけて考えてはどうでしょうか。県と市町村の関係を垂直の上下関係における「上」としてではなく、水平・対等の関係のなかで「県」として協力するというものです。

 これまで、多くの市町村がそのような役割を県に期待してきたのではないでしょうか。たとえば、浅野詠子記者が以前、奈良市の水道局に対し「遠隔地にある御所浄水場から県営水道を受水するのは不経済ではないか」と質問したとき、担当者は「複数の水源があることで災害や渇水のときに互いの能力を補完し合うことができる。大きな意味で災害対策につながる」と答えたそうです。(「奈良の声」2018年2月4日)

 ただし、水源の複数性は、数の視点だけでなく、種類の視点からも考えるべきでしょう。ダムだけでなく、地下水、溜(た)め池というように。

 「一体化」先行事例の1つ香川県の場合は、垂直統合のみではなさそうです。香川県を視察した太田敦県会議員は「10年の歳月をかけた丁寧な議論があり、市町村の自己水は残され、災害時の計画も策定されている」と述べ、本県の一体化は「災害時にライフラインは大丈夫なのか」と荒井正吾知事に質問しています。(「奈良の声」2020年3月4日)

 知事の答弁を聞くと、心配になります。記事が伝えるところ「水需要が減少し、施設更新費用が増えてゆくなか、市町村が単独で水道事業を続ければ今後、大幅な値上げとなるだろう。自己水をどうするのか、選択は市町村、市町村議会の判断に委ねる」と述べるにとどまった。「選択は市町村、市町村議会の判断に委ねる」「その判断に全面的に協力する」という答弁ではなかった。「奈良県が示した計画どおりやらせてもらう、ほかのことは各市町村のお手並み拝見」だとしたら、対等な協力とは言えない。

国からの交付金は要注意

 奈良県が一体化を急いでいる理由は国からの交付金にある、と言われています。垂直統合を前提にして「交付金の最大限の獲得」を目指す。最大限の獲得のためにはタイムリミットがある。だから急ぎたい。

 しかし、この思考の流れは危険です。政策形成において優先すべきは、そもそもの前提にある「垂直統合」でいいのかという議論です。これをしっかりおこなったあとで、交付金の最大限の獲得のための方策を考えるという手順が望ましい。垂直統合にともなう欠陥をそのままに、交付金をその完成のために使うことこそ、金のむだ使いです。

 たくさん交付金を獲得した政策が、かならずしも優れた政策ではない。いくつかの市町村の優れた取り組みを継承しつつ、未来をみすえる。長期的な視点が重要だと思います。

議論は丁寧に

 香川県はかなり丁寧な「香川県水道ビジョン( 平成 29 年 12 月)」を作成しています。奈良県のホームページにある「県域水道一体化の目指す姿と方向性(平成29年10月) 」は、それとくらべて、まだまだ不十分。図と語句だけという感じを否めない(表紙を含め6ページ)。これでは「中身がどうなるか、まだ分からない」という評価しかできない。(奈良県についても、表紙を含めて47ページの「香川県水道ビジョン」に匹敵する文書があるというのであれば、ご教示ください)

 県域水道一体化は水道行政の大転換。私たちの生活への影響を考えると、市町村の合併に準じる大問題です。大きな市が中心になって、その他の市町村と合併するようなもの。当然、参加する市町村それぞれで住民投票をおこなう。参加地域の住民の意思を確認するというのは地方自治の基本です。選択肢の1つだと思います。(かわかみ・ふみお=元奈良教育大学教員) 関連記事へ

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