帰れる実家ある 生活保護申請却下の理由にならず 奈良地裁判決示す 生駒市への損害賠償請求訴訟
判決後、会見する弁護団。原告の女性も参加した(左端の肩だけが写っている人)=2024年5月30日、奈良市の奈良弁護士会館
実家の母親から引き取り扶養の意思が確認されたことを理由に生活保護申請を却下された奈良県生駒市の50代の女性が市を相手取り、国家賠償法に基づく損害賠償を求めた訴訟。市の処分を違法とした5月30日の奈良地裁判決(寺本佳子裁判長)は、帰れる実家があることが申請却下の理由にはならないことを示した。
訴状などによると、女性は1人暮らしをしながら生活保護を利用していたが、市は2020年12月、実家の母親との同居を前提に保護を廃止。しかし、実際は同居に至らず、女性は生活に困窮。2021年4月と同年7月の2度、保護を申請したが、市はいずれも却下した。これに対し判決は、市の廃止、却下のすべての処分について違法とし、市に対し慰謝料として女性に55万円(請求額495万円)を支払うよう命じた。
女性の代理人の弁護団は判決について「どの時点においても同居は現実化していない。生活保護を必要としない状況が確認されていないのに、廃止、申請却下をしてはいけないという当たり前のことについて、違法だと認定してくれた」と評価している。
判決は次のような点について、市が職務上の義務に背いて違法な処分を行ったと指摘した。
2020年12月の市の保護廃止の決定通知書には、廃止の理由について「親類・縁者等の引き取り」との記載があった。しかし、実際に女性が母親と同居して引き取り扶養を受けるには至らなかった。判決は、この市の保護廃止処分に対し「廃止の要件を充足するに至ったものとは認められない」とした。
また、廃止決定の際、女性から生活保護辞退の申し出が口頭であったとする市の主張についても「廃止の要件を欠く」とした。市は当時、女性が求職活動などの指導に従わなかったことを理由に保護を停止しており、女性はこのときすでに困窮状態にあった。
こうしたことから判決は、女性の辞退申し出について「(住まいのアパートを)賃借し続ける方途も見いだせないと考え、一時の感情から(辞退の)発言に至るのも無理のないところ」と述べ、「(女性の申し出を)任意かつ真摯(しんし)な意思に基づくものと認めるのは相当でない」と指摘。市の対応について、書面を求めた上で本人の意思を確認し、直ちに急迫した状態に陥らないか確認すべきだったとした。
その後の2021年4月と同年7月の2度の申請却下も「親類・縁者等の引き取り」が理由だった。母親も女性に帰ってきてもらいたい旨の意向を示していた。しかし、実際にはいずれも同居には至らなかった。
判決は扶養について、民法や生活保護法に関する国の考え方を挙げて、「金銭的扶養が原則で、引き取り扶養は当事者間の合意を前提とした例外的な扶養」との見方を示した。加えて、女性が実家に戻ることの実現性について、認知症の症状がある母親の介護のことや女性の体調の問題などから「期待にしにくい状況にあった」とした。また、保護廃止後も同居が実現していないことについて、市が具体的な調査・検討をしていないことを問題視した。
寺本裁判長は損害賠償の額の検討に当たって「本来、法により保証されるべき最低限度の生活を大幅に下回る生活を余儀なくされ、これによる精神的苦痛は相当に大きなものだった」との判断を示した。
女性の弁護団は判決後に会見を開いた。西村香苗弁護士は「生駒市が女性の生活保護申請に対してしたことは、お母さんの住む実家が結構広くて、部屋が空いているからそこに住めばいいんじゃないか。母親がいるのだから面倒を見てもらったら。だから生活保護はいらないんじゃないか。平たく言うとそういうこと」と説明した。
古川雅朗弁護士は「判決が扶養について、金銭的扶養が原則で引き取り扶養は合意を前提とした例外的な扶養だとしたのは、必ずしも同居を強制してはいけないということだと理解している。家庭、人それぞれにさまざまな事情があり、各個人には居住、移転の自由が保障されている。あなたはこの家族と同居すべきと行政側が簡単に押し付けてはいけないと訴訟の中でも主張した」と述べた。
小紫雅史市長は判決のあった5月30日、控訴しないとのコメントを発表している。