奈良県内の生活保護率の動向も一目で 全国市区ごとの増減を地図上で色分け 市民団体がウェブ上に公開
生活保護率増減マップ簡易版で示された奈良県内12市の生活保護率の増減率(2012年度と2021年度の比較)=「生活保護情報グループ」作成
人口に対する被生活保護世帯の人数の割合を示す保護率について、奈良県内12市を含む全国市区のこの10年の増減が一目で分かる「生活保護率増減マップ」を、貧困や生活保護に関わる施策の調査研究に取り組む市民団体が作成、9月17日、ウェブ上に公開した。
この団体は、主に関西で生活保護に関わる自治体職員や大学の研究者らでつくる「生活保護情報グループ」。「マップ」作成のきっかけとしては、現在、保護費の分割払いなどが問題となっている群馬県桐生市で、保護率が過去10年間で急激に減少していたことなどがあるという。そうしたことから全国の自治体について、保護率の状況を可視化できる資料があればと考えたという。
保護率は一つの地域の被保護人員を人口で割って1000をかけたもの(千分率、単位‰〈パーミル〉)で、人口1000人当たりの被保護人員を意味する。生活保護の動向を見るのに利用される。同グループは、2012年度から2021年度までの全国の全970市区の保護率を調べた。元になった資料は全国の都道府県、政令指定都市が毎年作成する生活保護法施行事務監査資料。厚生労働省に提出されたこの資料を同省に開示請求して入手した。
「マップ」では、ウェブ画面の日本地図上でカーソルを操作して、保護率の増減を知りたい市区を選択すると、その市区の保護率の増減率が色の濃淡で示される。保護率が増加している場合は増加率が大きいほど緑色が濃くなり、保護率が減少している場合は減少率が大きいほど赤色が濃くなる。複数の市区を同時に選択でき、全国の市区の保護率の増減の状況を色で比較できる。増減率は数字でも確かめられる。
簡易版と詳細版があり、簡易版では起点の2012年度と終点の2021年度を比較した「マップ」を表示、詳細版では比較したい年度を指定できる。このほか簡易版では同期間の市区ごとの保護率が折れ線グラフで表示され、詳細版では保護率の算定根拠となる各市区の年度ごとの人口、被保護人員、保護率が表で示される。
「マップ」によると、2012年度と2021年度の比較で保護率が増加したのは455市区で最大は約123%増。逆に保護率が減少したのは512市区で最大は約58%減だった。残る3市は期間中に市制に移行した自治体であるため比較できる数値がなかった。
また、このうち奈良県内12市については、4市で保護率が増加し、8市で保護率が減少した。増加率が最大だったのは約8%増の天理市、減少率が最大だったのは約27%減の生駒市。
同グループは保護率に注目する理由について、高ければ生活保護制度がきちんと運用されているともいえるとする。一方、マップの赤色は直ちに水際作戦を証明するものではないとしつつ、貧困が解決された結果、保護率が減ったのであれば望ましいが、解決されていないのに減っているのであれば水際作戦が疑われるとする。
グループメンバーの桜井啓太・立命館大学准教授(社会福祉学)は「奈良の声」の取材に対し、「マップ」に期待することとして「地域の一般市民のほかマスメディアや支援活動をしている人、地方議員などが近隣地域と比較して保護率が急に減少していないかチェックするのに利用してもらい、水際作戦のようなことがあれば、改善につなげてほしい。自治体にとっても周りとの比較で自らの運用を顧みるツールになれば」と話した。
生活保護制度に詳しい吉永純・花園大学教授(福祉社会学)の話
「生活保護の運用状況をマップ化して分かりやすくしてもらった意味は非常に大きい。
マップで保護率の減少が大きい自治体を見ると、すべてというわけではないが、何らかの問題がある可能性がある。例えばいま問題になっている桐生市は10年間で保護率が半減。また、奈良県では生駒市、京都府では亀岡市の減少が大きいが、生駒市では生活保護の申請却下を巡って裁判に発展し(裁判では生駒市の敗訴が確定)、亀岡市では生活保護の相談時に支援者の同席を認めないという対応が問題になった(現在、亀岡市は同席を認めている)。
生活保護は全国統一の制度なので、地域特性があるとしても急な減少はほぼあり得ない。自治体が特異な制度運用をしていないか、マップのデータは一つのチェックポイントとなると思う」
生活保護率増減マップ簡易版のアドレス https://public.tableau.com/app/profile/seiho.info.group/viz/2012-21_17264090419280/1_1?publish=yes
同詳細版のアドレス https://public.tableau.com/app/profile/seiho.info.group/viz/2012-21_17264067289470/1_1