ニュース「奈良の声」のロゴ

地域の身近な問題を掘り下げて取材しています

発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

最新ニュースをメールで受け取る【無料】

ジャーナリスト浅野詠子

記者余話)微修正された大滝ダムへの賛辞

大滝ダム、室生ダムなどの2県営水道から受水し、地下水と混ぜて利用する生駒市営浄水場=2021年9月26日、生駒市山崎町

大滝ダム、室生ダムなどの2県営水道から受水し、地下水と混ぜて利用する生駒市営浄水場=2021年9月26日、生駒市山崎町

 生駒市は、2030年までの市水道事業を展望した「市水道ビジョン」の策定に先立ち、本年1月から2月にかけパブリックコメントを実施し、原案に対する意見を募っていた。

 ビジョン案の中に「大滝ダムの完成により、渇水の心配が解消された」という記述があった。そう言い切ってしまうことに少々疑問を感じたので、県民の1人として記者は意見を提出した。

 大滝ダム(国土交通省、川上村)は県営水道の主力水源であると同時に、紀の川流域の治水を主たる目的に設置されている。県が現在、主導している県域水道一体化構想の重要な水源だ。半世紀がかりの工事が2013年に完了し、大容量を誇る貯水地が出現した。

 ここ数年、気候変動に伴って河川や土砂の災害は激甚化したといわれる。豪雨によってダムが満水に近づくスピードが速くなったと、河川の専門家らは指摘する。緊急放流と呼ばれる異常洪水時の防災操作が行われる頻度は、各地のダムが計画された昭和20、30年代には想定されていない。

 大洪水を貯留する器として、そして需要がうなぎ登りの都市水道水源として、多目的ダム建設の有用性が盛んに語られ、夢の公共事業のように国民に伝えられた。村人が嫌がっても計画は進んだ。

 時代が変わり、ダムの緊急放流は、下流住民の恐怖の代名詞にもなった。2018年の西日本豪雨災害では、愛媛県内を流れる肘川の2ダムが相次いで緊急放流し、増水した下流で多数の住民が死亡した事故が訴訟に発展している。

 対策として国は、豪雨の気象予報を目安にダムの水位をあらかじめ下げて洪水対策容量を高める事前放流を2019年暮れから奨励している。

 仮に、天気予報が外れて雨が降らず、流し過ぎてしまった水道水源の貯水などがすぐに回復しない場合は、国が補償するという。補償するといっても出所は税金であるから手続きの時間も要るだろう。そんなことより、ダムの水が著しく減ってしまったら、近隣の府県から給水車に来てもらうような事態も想定されよう。

 大滝ダムができて「渇水の心配が解消された」と言い切る生駒市の表記に意見を申したのは、そういう理由からである。

 市は表記を改めた。「概ね解消された」となった。「概ね」というわずか2字の追加ではあるが。パブリックコメントの公表結果(本年3月)は、市ホームページで閲覧することができる。

 付言すれば、大滝ダムを筆頭とする県域水道一体化計画の水源ダムの1つ、室生ダム(水資源機構、宇陀市)に対しては2012年、県包括外部監査人が「渇水に対し比較的脆弱である」と指摘している。室生ダムも主目的は治水であり、もちろん事前放流に取り組む。

 今回の生駒市水道ビジョン案に対するパブリックコメントには「県域水道一体化に生駒市は参加してほしくない」という意見が複数、寄せられた。市の水道は現在、県営水道のダムの水と自己水の地下水(深井戸21施設)を混ぜて市民に供給している。異常気象や地震の被害が心配される現代に、複数の水源を持つことは有意義である。

 一体化のプランは、生駒市営の2浄水場を廃止するだけでなく、奈良盆地からすべての地下水、ため池などダム以外の市町村営の水源を廃止することを目指す。

 一体化の主水源となる吉野川(紀の川水系)の大滝ダムから生駒市は最も遠い自治体であり、導水距離が長いことを反対の理由として挙げる市民もいる。

 大滝ダムの完成により、渇水の心配はなくなったと礼賛する市当局は、紀の川水系流域との文化的な結び付きが希薄かもしれない。 関連記事へ

読者の声

comments powered by Disqus