視点)奈良県水道一体化 不参加2市への用水値上げ案 38万市民への影響懸念
奈良市の登美ケ丘配水池。県営水道の受水池はこの施設の奥にある=2024年5月2日、奈良市松陽台2丁目
奈良県域水道一体化を協議する県広域水道企業団設立準備協議会(会長・山下真知事、26市町村と県営水道)の今年3月6日の会議で、一体化に不参加の奈良市、葛城市に対する用水供給(卸売り)単価を引き上げる案が了承された。38万人両市民の水道への影響が懸念される。
県のパブリックコメント「不利益な取り扱いはしない」と明言していた
県は2021年2月、県営水道経営戦略案のパブリックコメントを実施した。「奈良の声」記者は「一体化に不参加の市町村に対し、不利益な取り扱いをしてはならない」との意見を提出した。
県水道局は次のような回答をしていた。
「各市町村において、個々の状況を見て県域水道一体化への参加をご判断いただくものであり、参加するしないによって、不利益な取り扱いをすることはありません」
引き上げ案は、現在1立方メートル当たり130円の用水供給単価を6円引き上げるもの。
奈良市が県営水道に支払っている受水費は年間約6億円。一方、同市が水道水を製造するための費用は年間約80億円。自己水源(布目ダム、比奈知ダム)が豊富にあるため、県水の受水量は全体の1割程度にとどまる。県営御所浄水場からの送水は登美ケ丘第2配水池で受水し、市西部に送水、県営桜井浄水場からの送水は白川配水池で受水し、市南部に送水している。
記者は4月10日、県に対し質問した。「(引き上げは)不参加の市町村に対する報復ではないか、企業団への参加で議会賛否が拮抗する大和郡山市の参加を促す狙いがあるのか、パブリックコメントの回答を履行しないのか」。返事はまだない。
報復という穏やかならぬ言葉をあえて使った。その理由は、一体化参加に慎重だった奈良市に対し、一体化の旗頭だった前荒井正吾知事の意をくんだ市町村長数人が奈良市の参加を促す記者会見まで開いていたからだ。
参加、不参加は市町村の判断に委ねると、表向きは公言しながら、こうした同調圧力まがいの会見を行った。
「考えられない」と大阪水道企業団担当者
水道の広域化を推進し、民営化(コンセッション方式)を促す改正水道法が2019年に施行され、有利な補助金を早期に獲得するための水道統合の動きは、隣の大阪府内にもある。府域一水道構想の是非を巡る論議が活発になりつつある。
市議会の賛成少数で近隣市との水道統合議案を否決したのは東大阪市と和泉市。首長の判断で協議から離脱したのは大東市、羽曳野市、河内長野市。
こうした不参加の市に対し、府域一水道構想の旗頭であり、府営水道から用水供給事業(水源・淀川)を引き継いでいる大阪広域水道企業団は、用水供給単価を引き上げるだろうか。
担当者に聞いたところ「考えられない。あり得ない」と答えた。1立方メートル当たり72円という廉価な水準は維持される。
一方、市長選で一体化不参加を公約した市長が再選された大和郡山市。後に荒井前知事から持ち寄り資産の引き継ぎ優遇策を示され、参加に転じた。市は、用水単価の値上げをどう受け止めているのか、聞いた。
市上下水道部は「単価については総括原価方式により適正に算定されていると考えられる」と電子メールで回答した。
奈良県域水道一体化の主水源、大滝ダム貯水池。対岸は地滑りで住民が離散した白屋集落の跡地=2024年4月26日、川上村
同市では、参加が正式に決まると、地下水100%で水道水を製造してきた北郡山浄水場が2026年度に廃止となる。今月1日付の市広報紙で知らせた。代わって、大滝ダム(現・県営水道主水源、川上村)から市への送水が増える。
一体化が実現すれば、国庫補助金206億円(10年間合計額)に加え、県の一般会計からも同額を支出して強靭(きょうじん)な水道をつくると、県は26市町村長に約束している。
奈良市、葛城市「県に値上げの説明求める」
西の大滝、東の八ッ場―。工期が異常に長く莫大な工費をかけた東西の2つの巨大ダム(いずれも国土交通省)は、このように併称されてきた。
5年前に完成した八ッ場ダム(群馬県長野原町)を新たな水源とする埼玉県営水道に聞いた。58市町村に用水を供給し、単価は1立方メートル当たり61.78円という安さだ。
担当者はいう。「都道府県などの用水供給事業の単価を比較すると、全国で3番目に安い。しかし、なぜそんなに安いのかと尋ねられても単純な答えはすぐに出てこない。回答を導くためには、大変な労力の作業になる」
奈良県営水道は、施設利用率が全国平均よりかなり低く、単価も割高なため、打開を図る方策が2017年ごろから検討されてきた。手っ取り早い改善手段は、市町村に自己水源の浄水場を廃止させ、県営水道からの受水を100%に転換するよう求めることだった。市町村には赤字の小規模水道が多く、抵抗はなかった。
当時の県作成の資料に「施設効率が低いのは、大滝ダム完成遅延による受水市町村の自己水源開発も要因」とある。
市町村が自己水を持つことが何か悪いことのよう書かれているが、そんな話は全国では通用しない。健全な自己水源の開発は、市町村が公営企業の原則である独立採算を貫いていく上での要素の一つ。兵庫県内の市町村を見れば、人口は少なくても豊富な自己水を誇る赤穂市の水道料金が一番安い。奈良県内も自己水が豊富な葛城市(人口3万7800人)、大淀町(同1万6070人)の料金が最安値。
大滝ダムは地滑りの発生などで完成が10年遅れた。立ち退きを余儀なくされた住民から訴えられた国は敗訴し、国が安全対策を怠っていたことする大阪高裁判決が確定している。県は国の責任について一度も言及したことはなく、巨額な地滑り対策費用の地方負担分を漫然と受け入れていた。
天理市の水道も影響を受けた。大滝ダムの完成の遅れにより、計画水量が受水できなくなり、廃止を予定していた杣之内浄水場を改修し、深井戸を増設して対処した。
用水供給単価の一方的な値上げ案を通告された奈良市と葛城市は一体化事務局の県に対し、値上げに合理性はあるのか、詳しい算定根拠を示すようを求めている。奈良市企業局は「今月24日、同市法蓮町の水道局まで書面を持参して説明を求めた」と話し、葛城市水道課は「3月29日、口頭で県に説明を求めた」とし「奈良市と連携しながら詳しい情報を得たい」と話す。
県水道局県域水道一体化準備室は取材に対し「(両市に)いつまでに回答するかまだ決まっていない」と話している。