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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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ジャーナリスト浅野詠子

探る)国建設の大滝ダム負担金 奈良県、満額支払っても治水機能いまだ途上

大滝ダム貯水湖。地質に課題を残し、湖岸の各所で地滑り対策工事が今も行われている=2021年9月、川上村

大滝ダム貯水湖。地質に課題を残し、湖岸の各所で地滑り対策工事が今も行われている=2021年9月、川上村

県が開示した大滝ダム建設に伴う県負担金50年間の推移

県が開示した大滝ダム建設に伴う県負担金50年間の推移

 国が治水を主目的に建設した近畿最大級のダム、大滝ダム(国土交通省、奈良県川上村)は、紀の川(吉野川)下流に堤防未整備の区間があるため放流を制限し、本来の洪水対策機能を十分に発揮していない(「奈良の声」既報)。これに対し県は負担金を満額支払っている。妥当性はあるのか。

 半世紀の歳月をかけ、2013年に完成した大滝ダムの総事業費は3635億7500万円。国交省近畿地方整備局河川計画課によると、工費に占める治水の受益割合について、和歌山県が7割、奈良県が3割と想定し、両県からそれぞれ法定の負担率を基に負担額を徴収してきた。しかしダムの規模に見合った治水効果が十分に発揮されていない以上、両県の負担金の一部は過大ではないのか。仮に前払い金に当たると解釈すれば、利子相当分などを両県に返還するつもりはないか、同課に聞いた。

 近畿地方整備局河川計画課が電子メールで回答した文面は次の通り。

 「大滝ダム建設事業における治水の費用負担は、河川法の規定に基づき、当該受益を受ける県(奈良県・和歌山県)に改良工事の10分の3を負担していただいているところです。

 大滝ダムの操作については、『下流の河道整備状況から洪水時の最大放流量は当面1200立方メートル/毎秒放流とするが、下流の河道整備状況等に応じて最大2500立方メートル/毎秒放流まで順次変更するもの』として、河川法の規定に基づき、関係住民や関係県知事の意見をうかがった上で紀の川水系河川整備計画に位置付けています。

 現在、国管理区間では藤崎狭窄部対策(和歌山県紀の川市藤崎地先)や紀の川中上流部の無堤対策等を進めており、河川整備計画期間内には、奈良県管理区間の整備状況も踏まえつつ、大滝ダムの最大放流量を2500立方メートル/毎秒となるよう下流河道の整備を引き続き進めてまいります」

 正面からの回答を避けているだろう。法律の算定に四角四面なところがあるとしたら、それを見直すのは政治の役割になる。負担金の支払いを半ば自動的に議決してきた県議会のあり方も問われるだろう。

 大滝ダムが完成寸前とされた2003年、試験貯水中に湖岸の民家などで亀裂現象が発生し、近畿地方整備局は地滑り対策工事に430億円を投じたが、総事業費を押し上げることになった。

 地滑りにより郷里を追われた川上村の元白屋地区住民が国を相手取り損害賠償を求めた裁判は、一審の奈良地裁、二審の大阪高裁ともに「国の危険防止措置は不十分」と認定し、2011年、判決が確定した。地質を甘くみていた国のミスのつけを、自治体が一部で肩代わりしたことになる。

村議会は1963年に反対議決、その前年から県は負担金を支払い続けた

 工事が50年間にも及んだ大滝ダム建設工事に伴い、地元の奈良県は治水負担金236億円を毎年、どのように支払ってきたのか。記者は県情報公開条例に基づき、関連の文書を請求し、県はこのほど開示した。

 これによると、県の負担金の支払いは1962年に始まった。地元の川上村議会は1963年、ダム反対の決議をしたが、県はこれを軽視していたことがうかがえる。国家のダムが事業化されると同時にその強力なパートナーだった県庁の戦後を物語る公文書と言える。

 着工当時の国の記録は保存年限を過ぎ、廃棄されている。県庁に関連文書が残っていた理由は、県地域政策課(当時)が2015年、利水負担額371億円(うち2分の1は国庫補助)の推移を整理して一覧表を作成していたため。この一覧表に治水負担額の推移も記載していた。県が負担金の支払いを終えたのは2012年度。

 ダムが計画された当初、激しかった地元住民の反対運動は次第に沈静化し、川上村と同村議会は1971年、土地一筆ごとの測量調査を受け入れることに合意。2年後には、ダムの立地に協力する地元自治体を財政支援する法令も制定された。村は1981年、大滝ダム本体着工に同意する決断をした。近年は「水源の村」を標榜。ダムの貯水は、県主導の県域水道一体化構想の中心的水源になる。 関連記事へ

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