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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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ジャーナリスト浅野詠子

「水道料金、単独より安く」県の一体化財政シミュ、問われる精度 水道管更新費用の試算、市町村間で統一ルールなし

県域水道一体化の主水源、大滝ダム。奈良盆地への導水が加速している=2021年9月16日、奈良県川上村

県域水道一体化の主水源、大滝ダム。奈良盆地への導水が加速している=2021年9月16日、奈良県川上村

奈良県が開示した一体化への財政シミュレーションの文書。A3判の紙の極細の欄におびただしい数字が並ぶ。記者は拡大コピーをして読んだ

奈良県が開示した一体化への財政シミュレーションの文書。A3判の紙の極細の欄におびただしい数字が並ぶ。記者は拡大コピーをして読んだ

 奈良県は昨年1月、上水道の経営を市町村が単独で行うより、県域水道一体化の企業団(一部事務組合)に移行した方が水道料金は安くなるとする財政シミュレーションを公表したが、水道資産全体の8割を占めるといわれる水道管を更新する費用の試算方法が試算を行った各市町村間で大きく異なっていたことが分かった。

 県は県民に対し強靱(きょうじん)な水道をアピールするが、この試算には、何年で管路を更新し耐震化を進めるのか、統一したルールがまだない。広域化の課題として認識されながらも、一体化に参加予定の27市町村は昨年1月、計画を急ぐ県に歩調を合わせ、一体化推進に向けた覚書を交わしている。

 水道管を更新するための費用は「建設改良費」の試算の中にある。県は市町村が提出した個々の試算を積み上げた。県内市町村の中で2番目に給水人口が多い橿原市によると、県の提案により、管路の耐震化工事などに要する費用の試算は過去の3カ年平均値を採用、2016、17、18年に要した費用の平均値を使った。これにより、同市の建設改良費は将来にわたりほとんど変動していない。この試算では、財政シミュレーション最終年の2048(令和30)年を迎えても、橿原市内の水道管は、地震に強い水道の1つの目安となる耐震化適合率は「100%にはならない」と担当者は話す。

 一方、給水人口が最大の奈良市は、県が提案した方法を採用していない。過去数年間の建設改良費平均値の13億円程度の年間投資にとどめると、市内の水道管などが老朽化するスピードが速くなっていくと想定し、県の承諾を得て、将来にわたり健全性が保てる可能性のある年間約30億円に増額した。

 県水道局によると、県が提案した建設改良費や給水収差などの試算方法をすべて受け入れたのは生駒市など6市町村。市販の「水道料金改定の手引き」(水道協会)が紹介する方法も参考にした。県の試算方法に対し「再検討が必要」などの意見を出した他の市町村については、奈良市のような独自の試算を採用することを認めた。

 これにより、管路の更新費用予測に関して、特に給水人口が多い奈良市、橿原市、生駒市の3市の間で統一の条件で試算が行われていなかったことになり、シミュレーションの精度が問われそうだ。

 厚生労働省がまとめた基幹的な水道管の耐震管率(2019年度)は奈良市35.1%、橿原市10.1%、生駒市15.8%。県営水道は64.3%。

 県水道局一体化準備室は、財政シミュレーションをやり直す。同室は「昨年1月の覚書締結時に財政シミュレーションを公表し、その後、精査を進めている。現在は、基本協定の締結までに報告できるよう作業を進めているところで、その時期は本年度中になる見込み」と話す。

 やり直すことにより、1年前に公表された水道製造コストの給水原価、1立方当たり197円(一体化試算、2048年時点)は変動するのかどうか、注目される。

 県水道局によると、26年後の同原価は営業費用の233億9617万8000円に営業外費用1億3588万5000円と長期前受金33億7752万円を足し、年間に販売する水道量(年間有収水量)1億248万4000立方メートルで割った。

 一方、シミュレーションの中に、多額の費用が見込まれる石綿水道管67キロの撤去、交換工事額は反映していない。一体化の目玉である約10カ所の市町村営浄水場を廃止することに伴う投資抑制想定額の約240億円は建設改良費の中に反映させた。これら地下水やため池の浄水場に代わって7つのダムが一体化の水源になるが、将来、ダムの老朽化に伴う維持管理費、ダム湖で増え続ける堆砂の対策費用に伴う負担金の上昇見通しはまだ検討していない。

 奈良市企業局のある管理職は「一体化の長短を判断する材料がまだ乏しい。一体化によって水道料金が値下げになる団体がたくさんあるというが、従来のサービスを維持する代価は一体どこから補填(ほてん)するのだろうか。公表された一体化の試算は、2048年まで順調に推移しているが、負担を先送りするようなことがあってはならない。財政シミュレーションは、水道管の耐震化に向けて、50年に一度の更新か、あるいは60年に一度か、70年に一度か、少なくとも3つのパターンで試算することが必要だ」と話す。 関連記事へ

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