「人口減少」でくくれず 西奈良県民センター跡地、公園計画区域からの除外理由 県変更案に住民反論
奈良市登美ケ丘2丁目の西奈良県民センター跡地(県有地)の売却に向けて公表された、県立大渕池公園の都市計画決定区域変更案。同跡地など公園整備に至っていない区域を除外する手続きだが、人口減少を挙げて未着手区域の公園整備は行わないとする県に対し、跡地売却に反対する住民は「周辺ではマンションや一戸建てが新たに建ち、子育て世代が増えている」と反論する。市が公表している町名別人口によると、住民が主張する通り、周辺では人口が増加している地域も少なくない。
2016年 3月1日時点 |
2022年 7月1日時点 |
増加率 (%) |
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平城地区(11町) | 2万280 | 2万351 | 0.35 |
伏見地区(55町) | 2万8662 | 3万0351 | 5.89 |
あやめ池地区(11町) | 9834 | 9592 | -2.46 |
学園地区(27町) | 2万6864 | 2万7387 | 1.95 |
登美ヶ丘地区(33町) | 2万4365 | 2万4770 | 1.66 |
富雄地区(85町) | 5万6728 | 5万3696 | -5.34 |
神功地区(6町) | 5570 | 5104 | -8.37 |
右京地区(5町) | 5147 | 4822 | -6.31 |
朱雀地区(6町) | 6771 | 6447 | -4.79 |
左京地区(6町) | 5829 | 6005 | 3.02 |
奈良市全体 | 36万1622 | 35万2375 | -2.56 |
同公園は、大阪のベッドタウンとして宅地開発が進んでいた市西部の住民らのための「総合公園」として、1972年に都市計画決定された。大渕池と周辺の樹林地を活用、計画区域は25万1000平方メートルに及び、これまでに約95%が公園として整備された。
「総合公園」は「都市住民全般の休息、観賞、散歩、遊戯、運動等総合的な利用に供することを目的とする公園」(国土交通省ホームページ「都市公園の種類」)で、大渕池公園には池や樹林地と共に広場や運動場、体育館、テニスコートなどがある。
除外対象になっている未着手区域は1万1000平方メートル。うち8000平方メートルは都市計画決定時から民有地のままだが、県有地の西奈良県民センター跡地3000平方メートルは、公園としては供用されなかったものの、1971年のセンター開設から2016年の同廃止まで、住民が集う公共施設の敷地として利用されてきた。
計画変更の理由書は、「都市公園として整備・活用が困難であった区域については」「整備の見通しが立たない中で、建物の階数や構造に係る制限下に置かれた状態が続いている」と述べ、「近年の人口減少などの社会情勢を踏まえると」「当初の都市計画の目的を現在の供用区域をもって既に果たしている」と説明。しかし、人口減少の根拠は示されておらず、公園周辺の人口についての言及もない。
計画変更に対する住民の意見を聞く公聴会が6月17日、市内で開かれた。12人が公述したが、跡地を計画区域から除外することに反対する意見が相次いだ。
この中で「人口減少はどこのことを言っているのか。周辺ではマンションや一戸建てが建っている」などの反論や、「センター廃止でこの地域は公的施設の空白地となっている。駅前開発などで子育て世代が急増しており、子育てしやすいまちづくりのためにも、跡地は大切な公有地」などの意見があった。
奈良市が住民基本台帳に基づいて毎月ホームページで公表している「町名別世帯数及び人口」では、市内を大きく分けた行政地区ごとに町名別人口が示されており、「奈良の声」はこの行政地区単位の人口の推移を確認した。地図上における行政地区の範囲は、市発行の「奈良市歴史的風致維持向上計画」に掲載されている図を参考にした。
それによると、センターが廃止された2016年3月の人口と直近の2022年7月の人口を比較すると、市全体では36万1622人から35万2375人へ2.56%減少。一方、公園周辺の市西部10地区では、富雄地区(85町)など5地区は減少したが、登美ケ丘地区(33町)など5地区は増加しており、減少だけではくくれない状況が浮かぶ。
特に公園の一部が属している3地区を見ると、富雄地区は5万6728人から5万3696人へ5.34%減少したが、逆に登美ケ丘地区は2万4365人から2万4770人へ1.66%増加、学園地区(27町)は2万6864人から2万7387人へ1.95%増加した。
宅地開発が進行中の近鉄学研奈良登美ケ丘駅周辺=2022年7月8日、奈良市中登美ケ丘5丁目
市西部にも高齢化や人口減少の波は押し寄せているが、登美ケ丘地区の近鉄けいはんな線学研奈良登美ケ丘駅周辺では大規模な宅地開発が進行中で、新しいマンションや一戸建てが立ち並ぶ。
県公園緑地課は、公園周辺で人口が増加している地域もあることについて「確認中だが、県営公園なので県全体で考えている。局地的には見ていない。県の考え方は、公聴会で出た意見に対する回答の中で示す」と説明する。
一方、同課が公聴会やこれに先立って開いた地元説明会の開催を通知したのは公園に隣接する自治会。また、案内を載せた広報紙も「ならしみんだより」のみ。公聴会の公述も奈良市民と利害関係者(公園利用者など)に限定した。対象をこうした範囲にしたのは「公園を利用しているのが主に奈良市民のため」とも話す。
県は今後、公聴会などでの市民の意見を踏まえて、正式な変更案を作成し公告。2週間の縦覧期間中に市民の意見を受け付ける。奈良市に対しても変更案に対する意見を聞き、市民と市両者の意見を付けて、県都市計画審議会に諮る。
センター跡地を巡っては、県協働推進課(当時)がセンター廃止前、地元自治会関係者に対し売却を否定していたが、その後、県庁内のファシリティマネジメント推進本部扱いとなり整理資産に指定された。県は奈良市にも活用意向を尋ねたが、意向なしとの回答があり、売却方針が決まった。 関連記事へ