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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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ジャーナリスト浅野詠子

探る)おいしい水自慢の自治体 奈良県域水道一体化の影響は?

地下水を利用し「おいしい水」をアピールする生駒市営浄水場=2021年9月26日、生駒市山崎町

地下水を利用し「おいしい水」をアピールする生駒市営浄水場=2021年9月26日、生駒市山崎町

 奈良県が主導する県域水道一体化計画は、市町村営地下水浄水場の廃止を促し、ダム水100%を目指すことから、生駒市が現在「おいしい」と広報している地下水とダム水混合の市営水道の味はどう変化するのか。昨年12月定例市議会で議員が質問したところ、市は「一体化に移行しても、おいしい水は保たれる」と答弁していた。

 なぜ変わらないのか。生駒市に聞いた。理由の一つとして、一体化の計画は奈良市営緑ケ丘浄水場を主力浄水場に位置付けて整備し、「高度浄水処理が進む」と生駒市は期待を寄せる。その水が同市に配水される予定だ。

 一方、県内を見渡すと、水道水のおいしさを単純に語ることは難しい。

 水道の広域化に期待し、県営水道の受水に頼っている御所市水道局の担当者はこんな見方を示す。「本市は県営御所浄水場(吉野川、主水源・大滝ダム)に最も近い自治体。このため、残留塩素の濃度が高い傾向は避けられず、カルキ臭いなどの苦情が住民から来ることもある。しかし、導水距離が短ければ県営水道からの到達時間が短く、夏場になると冷たくておいしいと評価される。冬場は冷たい傾向が強まるが、冬の水道はもともと冷たいという認識が人々にあるからこれに対しての苦情はない」

 三宅町は最近、地下水とダム水との併用から、ダム水100%に切り替わった。ある町議は一体化に慎重な意見を持つが「正直、大滝ダムの水道水はおいしいと感じる」と話す。

 大滝ダムの水は、水源地から80キロ近い大和郡山市にも来ている。浄水場から遠いほど残留塩素の分解が進み、その濃度が落ちるといわれる。同市上下水道部の上水道担当者7人が5年前、各水道水を冷やして温度を統一した上で行った利き水実験をしたところ、ダムの水と地下水を混合して供給する昭和浄水場(同市額田部北町)の水と、矢田地区の住民に供給するダム100%の県営水道の水とでは「おいしさに特別の違いはない」という結果になった。

 担当者の話では、大和川の支流に近い地点での深井戸の掘削は、水質基準を満たすための塩素注入量がやや多くなる傾向がある。三宅町議の実感は、塩素注入量が変化したこととも関係があるかもしれない。地下水100%の大和郡山市営北郡山浄水場は生物接触ろ過を採用し、微生物の働きが薬剤の使用を抑え「おいしい」と感じられる水道ができるので、他の浄水方法の水とは単純に比較できない。

 生駒市が県域水道一体化の水は「おいしい」と想定するもう1つの理由は、配水予定の奈良市営緑ケ丘浄水場の水と共に、高度浄水処理が自慢の県営桜井浄水場から室生ダムの水が配水されることにもよる。

王寺町から河合町の方面を見渡す。2町とも直営の地下水浄水場を廃止し、県営桜井浄水場から受水している=2021年9月11日

王寺町から河合町の方面を見渡す。2町とも直営の地下水浄水場を廃止し、県営桜井浄水場から受水している=2021年9月11日

 河合町も最近、県営水道100%に切り替わり、県営桜井浄水場から水が来る。同町に住む元タウン誌編集長、本千加子さんは「地下水とダム水を混ぜて供給されていたときの水道の方がよりおいしかったと感じる」と話す。

 本さんは、約20年前の「平成の大合併」の時代、王寺周辺7町の合併運動に元斑鳩町議長らと参加し、住民投票に必要な法定署名を集めたが、首長らの動きが鈍く合併協議は挫折した。新市になっていれば、水道の事業者も一つになっていたが、当時、県は特段、後ろ盾にもなっていない。

 ダムに代表される河川の水と地下水はどのような比率で混ぜればよりおいしいと感じられるのか、県民全員に聞かないと分からないし、水道一体化の重要な争点ではない。

 広域化され、組織が大きくなることに伴って生じるマイナス面は何も想定しなくてよいのか。水道の自治は後退しないのか。巨大ダムと長距離の導水に傾斜していく中で、小規模な水循環の市町村営地下水、ため池浄水場と共存する道を探ることはできないのか。単独経営より一体化を選択した方が水道料金は安くなると県は試算するが、その料金が内包する利益などを基に市町村水道管の耐震化をどのように図っていくのか具体的な道筋は示されていない。 関連記事へ

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