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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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ジャーナリスト浅野詠子

資産統合の目標時期、当初は20年後 水道一体化、県の方針転換で一気に早まる 内部文書開示で判明

市町村の浄水場廃止を強力に進めようとする奈良県庁=2021年8月10日、奈良市登大路町

市町村の浄水場廃止を強力に進めようとする奈良県庁=2021年8月10日、奈良市登大路町

 奈良県の主導により、県と県内27市町村が進める県域水道一体化計画で、県の構想は当初、参加自治体の水道事業資産を統合する時期について、20年後の2038年度ごろをめどとしていたことが分かった。その後、県は目標時期を一気に早めて、2025年度までに資産を統合して企業団を発足させる方針を示し、覚書が本年1月、県と関係市町村との間で交わされた。

 県情報公開条例に基づき、一体化計画の意思形成過程の公文書を記者が請求し、県水道局が開示した内部記録の一部から分かった。

 これによると県水道局は2016年12月、「平成50(2038)年度ごろには事業統合(組織、資産の統合)に進む」構想を描き、水道料金の統一も同年ごろとする素案を含め、翌年6月、知事の了承を得た。その4カ月後に当たる同年10月、市町村長に対しても「経営統合は平成38(2026)年度、事業統合(資産統合)はそれから10年以内とする」との目標を示していた。

 ところが昨年3月、奈良市内のホテルで開かれた第5回県域水道一体化検討会において県は、「統合時期は令和6(2024)年度までに企業団を設置し、令和7(2025)年度までに事業統合(資産統合)を目指す」と打ち出し、本年1月の覚書も同じ時期を盛り込んだ。

 資産統合の在り方を巡っては、短期間のうちに政策が大きく変わっていたことになる。

 県が資産統合時期の短縮化を打ち出した約3カ月後の2020年6月、水道会計で県内最大の約82億円の内部留保資金を誇っていた大和郡山市は、広域化への参加をにらんで資産の一部28億円を一般会計に移転した。荒井正吾知事が定例記者会見でこれを非難し、市は広報紙で反論、正当性を主張した。市は広域化に向けた覚書に参加しなかった。

 県はなぜ、それほど事業統合を急ぐのか。自治体の水道広域化を後押しする改正・水道法が2018年12月に成立、翌年10月に施行されたことから、厚生労働省が誘導する広域化事業に伴う国庫補助金獲得のプランに早く手を挙げ、少しでも多くを得ようとする狙いがあるとみられる。

 取材に対し、県水道局一体化推進室はこうした見方を認めているが、「市町村の側からも、早く事業統合に着手してほしいという声が出ていた」と話す。

 一体化の構想は、災害に強いとされる地下水や江戸期から継承されるため池などを水源とする市町村営の約10浄水場を廃止することにより、利水使用にかなりのゆとりがある大滝ダム(国土交通省、川上村)の水を、県北部など水道の一大消費地に送り込むことを促進する。広域化によって市町村議員の関与が乏しくなり、住民の声が届きにくくなるという疑問も出ている。県はこのように水道の在り方が大きく変わることについて、住民説明会や意見交換などの機会を設けていない。 関連記事へ

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