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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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ジャーナリスト浅野詠子

視点)「弱者救済型」の水道統合を北九州市の先例から探る

水巻町、芦屋市へも送水する北九州市営本城浄水場=同市八幡西区御開5丁目(同市ホームページから)

水巻町、芦屋市へも送水する北九州市営本城浄水場=同市八幡西区御開5丁目(同市ホームページから)

 奈良県で「水」が重要な政治課題になるのは、国土交通省の大滝ダム本体工事に県、川上村がいよいよ合意に向かおうとする時代にさかのぼれば、およそ40年ぶりである。

 現在、県営水道と27市町村の水道が一挙に一つになる県主導の県域水道一体化の「垂直型統合」に固執している限り、南北自治体間に横たわる広域化の利点追求の溝というのは、そう簡単には埋まりそうもない。

 とりわけ人口の多い県北部において給水人口が最大で独自の水源を持つ奈良市民の思いは複雑だ。現在、低廉な水道料金が生み出す利潤は、もし単独経営を選択すれば、独立採算の原則に従って市民のための水道を強靱(きょうじん)にしていく内部留保資金になっていく。一方、経営難で水道料金の高騰が避けられない県中南部の小規模市町村は、一日でも早く統合効果による格差の解消を願うばかりだ。

 国産財の代表的な産地、県南部の吉野郡が林業の構造不況に陥って久しい。戦前戦後の吉野林業黄金時代には奈良県の経済にも貢献した。木材関連産業とゆかりが深い下市町も、水道経営が苦しい団体の一つだ。こうした自治体が県域水道一体化の企業団(一部事務組合)参加に向けた基本協定を締結すれば、一般会計は水道会計の繰り入れを停止してよいと県は示唆している。こうした累積欠損金はすべて企業団が受け入れる。奈良市議会で「県北部の市民の水道料金で穴埋めすることになる」と厳しい批判が出た。

 県は、用水を市町村に供給する県営水道とこれを受水する全市町村とを事業統合する方式が最善と広報するが、広域化といっても、全国では実に多様な自治体間の連携がある。奈良市では単独経営の存続を願う市民らによる署名活動も行われている。すでに県営水道100%を受水する橿原市、香芝市などの県中部の都市と県営水道とが中核事業者となって小規模市町村水道を統合する道はないのだろうか。

 そこで、厚生労働省が例示する一類型として福岡県北九州市(人口93万人)の「弱者救済型統合」の取り組みに学んでみることにした。平成の大合併の時代が過ぎた2007年、芦屋町の水道と事業統合し、翌年、苅田町の一部にも給水区域を拡張、2012年には水巻町の水道との事業統合を行っている。広域化促進事業として国庫補助も受けた。

 ちょうどそのころ、奈良県では巨大な水がめ、大滝ダムが完成し、県庁において水道の垂直連携に向けて検討が始まっていた。当時は県営水道の料金が1立方メートル当たり140円と現在より高く、水需要の多い県北西部に対して水源・浄水場からの導送水管延長は長くなり、市町村の受水費はさらに上がる懸念もあった。

 北九州市を中核事業者とした統合を学ぶ基礎的な資料はないか。記者は同市上下水道局に相談したところ、収益戦略担当課長だった谷和雄さんが2013年、発表した論文「水巻町水道事業の北九州市への統合について」(収録、全国簡易水道協議会機関紙「水道」)が「比較的まとまっていた」としてすぐに送ってくれた。

 旧産炭地の水巻町は人口約3万人。統合前の北九州市との水道料金の格差は1.8倍。この一面だけを見ても、奈良県がけん引する統合予定の市町村群と共通点がある。

 水巻町の当時の最重要課題は水道料金の値下げだった。北九州市が用水供給事業を開始するより前から分水を受けるなど、水を介したつながりがあり、統合前にも、水質試験を同市に委託したり両市町で緊急時応援協定を結んだり、広域連携を進めてきた。機が熟して、同町から事業統合の要望書が提出された。トップダウンでなく町から出されたところが注目される。

県「北九州市の統合方式は採用しない」

 水道経営の厳しい小規模市町村に対し県営水道などの中核事業体が統合する手法として厚生労働省が示した類例の一つが「弱者救済型」である。県は、この方式についてどう考えるのか聞いた。

【奈良県水道局県域水道一体化準備室の話】 

 「奈良県および県内市町村等の水道事業は、人口減少に伴う水需要の減少や施設の老朽化、職員の削減・退職に伴う技術力不足などの課題に直面している。このような中、県と市町村等では、県域水道一体化に向けた協議・検討を進めてきた。

 ご質問にある水道広域化の類型の一つである『弱者救済型』は、中核事業者が周辺の小規模事業者を吸収統合するものであり、メリットとして小規模事業者の事業基盤の安定等がある半面、中核事業者にとっては地域貢献の意味合いが強く、給水条件の悪い事業を統合する場合は経営的な負担増につながる。

 奈良県においては、中核事業者を含め、全ての事業体において、さまざまな課題に面していることから、弱者救済型の小規模な統合ではなく、県域水道一体化により、大きなスケールメリットを発揮するとともに、将来投資等の全体最適化を行うことで、水道事業の基盤強化を図っていきたいと考えている」 関連記事へ

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